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連載・「ロックを人が聴かなくなる」から5年③これからのロックのために気にとめておきたいこと

どうも。

では、今回がラストになります。

はい。「ロックが聴かれなくなって死んだ」という記事を書いて5年たったという話。この元になったインタビューでボビー・ギレスピー、「クレイジーな髪型をするような奴がいなくなった」みたいなことをいってましたが、その類いが戻ってきつつあることは前回言及しましたね。良い意味で派手になるのを恐れない人たちは出てきてます。

今回はですね、前回の2回までで触れたロック復興の傾向、これをどう受け止めて行くべきかについて、前向きさと注意深さとともに語っておこうかと思います。

①「バンド的なもの」は戻りつつあるが、まだ「バンド」は戻っていない

ここ気をつけて欲しいんですけど、現状を見るに「ロックっぽいもの」は戻ってきつつはあります。ただ問題は、まだハッキリとバンドそのものの人気が戻ってないことです。

前回のコラムで書いたことを良く思い出してください。ここ最近のSpotifyヒット、音は昔ながらのバンドっぽい曲調のものなんですけど、実はみんなソロなんですよ。それは需要する側が、バンドっぽい音には抵抗ないんだけどロックを意識して聴いているわけではないから。ある時期に熱病のように流行ったトラップとかエモラップには飽きてるし、昔ながらの曲調に抵抗がある訳じゃない。でも、ロックに戻っていきたいわけでもない。好きな個人に注目してたら、たまたまそういう音楽やってるだけ。

今、そういう感じなんですよね。特に欧米の若い人見てて思う、そこにうちの息子も含むんですけど、ロックにまだ微妙な距離感があるんですよね。それがなんなのかについて、考える必要はあると思います。

②アメリカでどうロックがキッズの人気を失ったか、知っておこう


キッズがロックに距離感を保つのには理由があります。そこをしっかりと覚えておく必要があります。

キッズがなぜロックに距離感を抱くのか。理由は簡単です。長きにわたってあまりシングル・ヒット曲が出てないからです。やっぱり子供は、みんなが知ってるヒット曲でコミュニケーションしたいものです。それがないんですから、話題に上がりようがないんです。

その傾向がいつから始まったか。90年代なんですよね。あの頃のパール・ジャムがまず、ビルボードのシングルのチャートに入らないようにシングル発売をやめた。あれはまだロックのシングルが売れてた時代だから逆にカッコよく、ラジオ局がそれでもアルバムの中の曲を独自にかけててキッズたちに内々で「チャートに乗りにくいヒット曲」がたくさん出てたんです。日本はそのあたりの事情がわかんないから、そこでアメリカからのロックヒットが消えましたけどね(苦笑)。

ただ、こんなわかりにくいことはだんだんアメリカでも通用はしなくなってきます。で、90年代末の段階でロックのシングル・ヒットというのはまだ出てくるんですが、今度は姿をガラッと変えちゃうんですよ。表面だけオルタナっぽいだけで聴いてる層はゴリゴリにマッチョなニュー・メタルが席巻するんですよね。あれはテレコミュニケーション法という悪法がアメリカにできてラジオの買収が進んでマーケッティングされまくったものばかりが売れるようになった時代です。ロック局が全国チェーンになって、中心部がマーケッティングしたフォーマットの曲ばかりが売れるようになってしまった。で、そのフォーマットというのが、もうメチャクチャ男性ホルモン色が高くでバイオレントなものに偏ってしまって、90sの時に流行った文系っぽさとか女性のロック、締め出しちゃったんですよ。

そこでまず一つ、変に男根的な偏ったロック観が生まれてしまった。実はこれ、ブラジルでもそうなんですよ。アメリカの影響受けやすいですからね。今の40代前後のY世代、こういうマッチョなロック観持ったやつ、少なくないんです。

で、それが2000年代後半まで続きます。ムカつきましたよ。僕がHard To Explainやってる頃でしたけど、イギリスでは楽勝なのにアメリカだとストロークスやホワイト・ストライプスがある順位までは行くんだけど、そこから先にニュー・メタルの大きな壁があって跳ね返されてましたから。

で、その波も2000s後半に時代遅れになり、アメリカのロック系のラジオ局がスポーツ中継のチャンネルとかに変わってしまうという、変なことが起きてラジオ局が減るんです。変でしょ(笑)?で、その後、アメリカのロック局、迷走します。で、その外側ではピッチフォークのギークがロックを牛耳るようになります。彼らはマッチョではなく、ものの考え方も大半はリベラルというか左寄りです。

しかし

去年の9月にも書いたんですけど、アメリカのナードなインディ・ファン、アイドルっぽいアーティスト、毛嫌いするんですよ。これでまず何が犠牲になったか。エモですよ。エモってラウドロックの延長みたいなイメージもあったかと思うんですけど、ニュー・メタルの頃とは世代も違ってそれこそZ世代の初めの方の子とかいて、単にアイドル色の濃いロックみたいな形できてて繊細な子も多かったのに、すごく批判されたんですよね。これ実はブラジルでも起きてまして、サンパウロのロック系の局、エモ、ガン無視してかけませんでしたからね。パラモアとかマイ・ケミカル・ロマンスの写真集が駅のキオスクに置かれるくらい人気あったのに。あれは代償でかかったですね。あれ、キッズが夢中になった最後のロックだったのに。

 だから最近思うんですよね。「ああ、だからZ世代にロック人気ないのかな」と。Hard To Explainのとき、エモを拾ってたわけではないんですけど、それでも欧米でのエモ叩きはやりすぎだと思ってたし、「子供に人気無くなったらロック困るぞ」と懸念してたんですけど、その通りになってしまいましたねえ。

③ビリー・アイリッシュさえ迎えられないような状況はやめにしないか?


そんな感じだから、マッチョだったりインセルのロックファンが女性アーティスト、受け入れるのが非常に苦手なんですよね。僕も実体験があってですね。2020年くらいにfacebookのインターナショナルなインディロックのコミュニティ入ってたんですよ。そこでねえ、ビリー・アイリッシュの叩き合いやってるの見て、僕、退会しましたからね。

ビリーがダメならオリヴィア・ロドリゴなんてもっとダメですよね。ブラジルのロック系のラジオもラナとかフローレンスとかLordeとか書けませんでしたからね。アメリカのラジオ局でもボーイジーニアスはまあまあかかってましたけど、それもやっとこさという感じで。

取り込めばいいのにね。ただでさえスターいないんだし、ビリーとかオリヴィア積極的にかけた方が若い子に人気出るに決まってるのに。僕はインスタグラムでアメリカのメジャーのラジオ局もフォローしてますけど、ステーションによってはビリーの特集とかやったりもしてるんですよ。ロサンゼルスの大手のとことか。ただ、それが一枚岩になれないから全国での共通認識になれない。それが今のロックの弱いところなんですよね。

似た傾向は若い女性アーティストだけじゃないですね。トロイ・シヴァンとかオマー・アポロとかみたいな、インディ・ポップとして余裕で取り込めそうなLGBT系のアーティストとかに対してもそうで。

で、そういうことするから「年上の男のロックファンは嫌だ」と嫌われる理由にもなるんですよね。バンド的なものとかインディ・ポップがウケてきてるのにロックとして盛り上がらない背景にこういうことがあります。日本だとわかりにくいかもしれませんが、欧米圏での体験としてはこれ、結構リアルです。

④多分、これからはロックの聴き手も変わっていく・・・というか、変えていかなきゃダメ


あと、今年に入ってですね、すごく象徴的な現象として、00年代を代表したアーティストがことごとく商業的にこけてるんですよね。

大絶賛されたはずのヴァンパイア・ウィークエンドの最新アルバムが前作1位だったのに27位の大惨敗に終わった話は記事にしましたけど、似たような状況が続いてるんですよね。キングス・オブ・レオンは36位だったし、セイント・ヴィンセントに至っては85位ですよ!どれも評判はいい。なのにチャート実績だけが一方的に下がってる。

ただ、僕はこのあたりの新作聞いた時に思ったのは、「はたしてこれ、誰に向けてやっているのかな」ということです。特にヴィンセントの新作にそれ感じたかな。縮小するばかりの従来のファンだけに向けてやっていないか。そこは気になったんですよね。

こう聞くと、「やっぱロックは衰退か」とかって思うじゃないですか。でもですね、やりようによっては実績上がってる人もいるんですよ、これが。

Twenty One Pilotsはセールス落ちることなく、テイラーとビリーが激烈に強い週に3位で全米初登場できてましたからね。

この「Clancy」ってアルバム、聞いたんですけど、若いヒップホップのリスナーに合わせるような生楽器演奏やりつつ、同時にパンクロックもやっててそれでウケてたんですよね。だから、やりようなんですよ。

 あと、こないだも言ったようにフォンテーンズDCもかなりヒップホップ・リスナーも意識した新しいアプローチもやったりしてて。

 それからアメリカだとそこまで結果出ませんでしたけど、BMTRも彼ら自身が開拓した、エモくてナードでエレクトロで、ちょっとフェミニンなテイストもある今っぽいメタルやってて国際的に安定した成績、とってましたからね。

そういう風に、従来のちょっとスノッブで気取ったインディ・ファンだけにアピールスリンじゃなくて、新しいファン層取り込んで変えていかなきゃいけないんですよね。そこはもう、僕はどんどん開拓して行って欲しいんですよね。

⑤歌詞と思想確認しなくちゃいけないけど、カントリーもアリになってくる


あと、カントリーも、もう完全にフォーマット的にはロックですからね。ぶっちゃけ、ここがロックのかなりの部分を持って行ってしまっているのでロックがダメージ被っている要素もあるんですよね。

それもそのはず、昨日、ボン・ジョヴィがニュー・アルバム出したんですけど、別にカントリー意識した作品じゃないのに、もう一人でにコンテンポラリー・カントリーに組み込まれちゃってるみたいなアルバムだったんですよね。それくらいもう、カントリーそのものが昔のロックそのまんまなんですよ。

あと、ここ最近のアーティストによるトム・ペティのトリビュート・アルバムが8月にでると聞いています。トム・ペティって、80年代のアメリカのロック系ラジオ局で最もかかってたアーティストの一人ですよ。それがカントリーのものになってるのもすごく象徴的ですよね。

ということで、ロックファンも注目したほうがいいんですよ、カントリー。実際、アメリカのロック系のラジオ局、ビリーとかには抵抗あるくせに、こっちは取り込もうとしている動きも一部あるんですよね。

このあたりとかは積極的にかけてますね。

カントリーの場合、ただ単にロックっぽい感じだけだと、とんでもない右翼引かされる可能性があるので気をつけないといけないのですが、裏取って問題なければ大丈夫です。まあ最近の場合は、コラボも盛んなので、どういう人脈でそれが浮上してくるかでわかりますけどね。

⑥ライブやフェスの現場では、もうバンドっぽいものは戻っている


あと、ストリームだけじゃなく、ライブ現場でももうバンドっぽいものは戻ってきています。

ガーディアンの記事で、「コーチェラは不振だったけど、ノスタルジーに訴えるフェスは受けている」という記事です。

これ、僕の解釈と少し違うんですよね。これはコーチェラの計算違いが如実に出た結果だと見てます。だってノスタルジーのフェスでなくとも、今年のアメリカのフェス、ノア・カーンとかホージアがヘッドライナーのフェスがすごく目立って多いし、さっきあげたカントリー系の人がヘッドライナーで加わってるものとかも目立つんですよね。

一つガーディアンも見落としてるなと思うのは、別に「生演奏はノスタルジーではない」ということです。とても普遍的なことなのに、あたかもコーチェラがポップ系のラブを増やすことでそういう風な誤解を与えてしまっているんですよね。前から言ってますけど、ヒップホップはもうジャンル特化型のフェスに移行してきて一般的なフェスには出なくなってきてるし、コーチェラとか限られたフェスしかKポップやレゲトン出てないんですよね。広がってないんですよ。なぜか。それは従来のコンサートやフェスの観客が生演奏主体のものが見たいからです。その意向を無視してコーチェラが一方的にポップ化を進めたんです。

そりゃ、そうなっていきますよ。だってわざわざ高い金払ってですよ、極端な話、ボタン一つ押せばできるようなパフォーマンス、あまり見たいとは思わないから。もっと言えばリップシンクのパフォーマンスとか、すごい厳しいんですよね、欧米の人。僕が20歳くらいの時、ミリ・ヴァニリってダンス・デュオが実際に歌ってなく影のシンガーが歌ってたのがバレて騒ぎになったのをきっかけにライブでごまかしようがないアンプラグドのブームが起きました。あれから30年くらい経ちますけど、あの時のことを忘れてるんじゃないかなと思うことあるんですよね。生バンド使わないようなポップのライブが増えれば増えるほど、生バンド回帰は必ず起きます、というか、もう起きてます。これは世代の問題とかではない、人としての根本的な生理的問題だと僕は思っています。実際、80sの終わりの時にも「これからは打ち込みの時代で生演奏は古いのか」っていう人、いましたからね。時代が繰り返してるだけなんだと思ってます。

⑦インディ・シーンでもバンドが増えてるから楽観的に


そして、なかなかバンドがアメリカのインディで増えないなと思っていたら、去年か今年くらいからだいぶ可視化されてきてますよね。

フリコの登場でかなりはっきり見えるようになってきたシカゴのシーンをはじめとしてですね

ワシントンDCとかニューヨークとかから楽しみな新人バンド、出てきてますしね。

例えばまだフリコなんて100万ストリーム超えた曲がないんですよ。あれだけ評判で話題になっても、まだアメリカのインディだとそのくらいの規模なのが現状です。一般大衆の話題になるにはまだ遠いし、日本のフジロックとかヨーロッパ・ツアーは調子良く決まってるものの、、アメリカのツアーの移動の宿泊費とか大変そうなの、インスタとかで見てます。

 おそらく、僕の今の見立てでは、インディ・ロックのバンドよりはメタルコアとかハードコアのバンドの方が先に当たりそうな気がします。単純な話、もうブレイク候補が出揃ってて、チャートでもビルボードで10位台とか20位台のヒットが揃ってきてるんで。なので、「バンドが戻ってきた」と騒がれるとしたらそっちが先になるはずです。

ただ、先ほども言ったように、シーンでバンドも増えては来ています。順番的に時間はかかるでしょうけど、充実した活動さえ続けていればチャンスは来ると思ってます。

・・・と、そういうとこでしょうかね。
















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