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沢田太陽の2021年1〜3月のアルバム10選

どうも。

3月が終わりました。ということは、当ブログ3ヶ月に1度恒例のアルバム10選のタイミングです。もちろん今回もやりますよ!

ただなあ〜。今回ほど激戦だった3ヶ月も過去にありません!

本当に難しかったですよ。まず10枚選ぶのに四苦八苦したし、選んだ10枚の中で順列がつけられない。こういうことって珍しいですよ、本当に。

10枚、選んだんですけど、まだ「これでいいのかなあ」と迷っていたりもしますが、こんな感じにまとまりました。


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はい。この10枚なんですけどね。今回はリリース順に語っていくことにしましょう!

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Drunk Tank Pink/Shame

まず、今年最初の名盤ですね。シェイムの「Drunk Tank Pink」。サウス・ロンドン・sceneの代表格というだけでなく、アイドルズ、フォンテーンズDCと並ぶ、ロックンロールの新たなる換骨奪胎勢力として2018年のデビュー・アルバムのときから期待してましたけど、その当時からの猪突猛進な荒削りな部分をしっかり残しつつ、わかりやすい骨太なメロディの幹を太くし、さらにポストパンク的な変則的なメロディと曲展開を増やし、着実に成長をとげております。このテのバンドに勢いありがちだったマイナーくささがなく、王道へと邁進する様にすごく好感が持てます。次のアルバムで一気にトップ狙ってほしいです。

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Collapse In Sunbeams/Arlo Parks

はい。続いて今年の大型ニューカマーですね。アーロ・パークスのデビュー・アルバムですけど、これは名盤でしたね。一見、ネオソウルに見えつつつ、よくよく聞いてみると、そのエッセンスもありながらも同時にレディオヘッドやビリー・アイリッシュとの相似性も強く感じさせる、繊細で傷つきやすい内面にグイグイ問いかけてくるようなタイプの音楽で。プラス、曲の進行にちょっと遅れてキュートな歌声が入るあの独特な間合いがなんかカーディガンズの雰囲気なんかもあったりしてね。これが出た時に、すごくインディでアヴァンギャルドなタイプの人からポップな流行りものを聞くタイプの人まで本当にいろいろな趣味性の人から絶賛のこえがあがったように、曲の持つ包容力が並外れて強いんですよね。あと、大学の弁論部にいそうなピュアで生真面目そうな感じ(実際、ロンドンの一流大に通ってます)にも好感持てるし。まだまだ重宝されていきそうなタイプだと思います。

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For The First Time/Black Country, New Road

続いて、これも大型新人ですね。ブラック・カントリー・ニュー・ロード。彼らもサウス・ロンドン・シーンのバンドで、ポストロック、ポストパンクに分類される、アヴァンギャルドなバンドですけど、インプロヴィゼーション主体の、ポップ・フォーマットにしたがわない長尺の曲をやるバンドにして、いきなり全英第4位のヒットになったのには僕も驚きました。僕自身は初期のニック・ケイヴに似てる印象を感じて、「でも、それならケイヴの方がいい曲、書いてたぞ」と思って最初はなかなかピンと来てなかったんですけど、わかろうとしてたくさん聞いたことでだんだん愛着がわいたのと、あと、ライブ映像とメンバー写真見た時にすごく魅力を感じました。ぶっちゃけ、「ポストロック界、初のアイドル・バンド」なんです(笑)。それはもちろん褒め言葉でね。なんか、等身大のチャーミングなルックスした今時の大学生の男女がアヴァンな音楽をすごくポップに見せてるのがかっこいいなあと思ってですね。ベースの女の子、彼女、アンダーワールドのカール・ハイドの娘さんなんですが、本当にアイドル顔ですからね。ヴォーカルのアイザックやサックスのルイスもイケメンで。こういう着眼点ってくだらなく見えることかもしれないけど、案外大事で。見ててジャパンとかブラーがシーンに果たした役割を思い出すというか、日本だとスーパーカーに近いかな。サブカルを純度高めに大衆性に変える瞬間。彼らにそれを感じます。


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Ignorance/The Weather Station

続いてはザ・ウェザー・ステーション。カナダの女性シンガーソングライター、タマラ・ホープによるユニット・・・だと思っていたら、今、4人組のバンド扱いになってるんですってね。今、知りました。この人たち、今回はじめて知ったんですけど、デヴィッド・ボウイが遺作「ブラックスター」でやって力尽きた、現代ジャズを応用した新しいポップの形を継承しようとする意気込みを感じさせて頼もしかったですね。その新たなジャズ・ポップをジョニ・ミッチェルとフリートウッド・マックのフィルターを通じてやっている感じがして。この一つ前の2017年のアルバムなんて、ジョニ・ミッチェルに曲も歌い方も、ジャズ期の一番好調の頃を強く彷彿とさせて「ここまで本家に迫れるフォロワー、はじめて聞いたな」と今回後追いして思ったほどでしたけどね。今回のアルバムで本国以外の国へ本格的に売り込みをかけるようなんですが、タマラ現在36歳。男も女も、シーンで活躍する年齢は人の平均寿命まで伸びてます。今後大いにシーンの中心での活躍が期待できます。

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Carnage/Nick Cave&Warren Ellis

続いてニック・ケイヴです。彼がある時期から映画のサントラを連名で作ることも多い、バッドシーズ内の最高の頭脳役となっていますウォーレン・エリスとの2人の共演作という形で今回は世に出ました。なぜ、こういう出方になってしまったかというと、コロナ禍で隔離した生活をしているうちにできた曲を、ソーシャル・ディスタンシングを守りながら表現しようとしたら2人での作品となったようです。作風としては、全世界で大絶賛された息子追悼2分作「Skelton Tree」「Ghosteen」の系譜の、かなり重々しい空気ですね。ディープな野太い声でシンプルなピアノとともに告白調に歌うケイヴに対し、ときに不協和音、ときに壮麗なストリングスやエレクトロ・ノイズ、トリップホップ的なベースラインで彼の心情を多彩な音像で演出しています。今回は歌詞の面でも、依然として息子アーサーを失った悲しみを引きずった様を見せながら、ジョージ・フロイド事件やパンデミックの世の中を暗喩して物語るなど、2020年代の今のケイヴの偽らざる思いをストレートに綴ったものとなっています。本音をいえばバッドシーズのフルのメンバーで聞きたかった作品ではありますが、即興でここまで高次元の作品が作れることにこそ、改めて脱帽です。

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Flock/Jane Weaver

続いてはジェーン・ウィーヴァー。なじみのない方も多いと思われます。彼女はイギリスの女性シンガーソングライターです。さっきウェザー・ステーションのところでフロントのタマラが36歳と書きましたが、実はこの1月から3月、そうした30、40歳台にしてようやく成功をつかみはじめた女性アーティストが多かったんですね。このジェーンに至っては、なんと今年で49歳。そんな人でも、しかも年齢差別に男性よりもあいやすい女性でも、こうやって関係なく作品を評価される世の中になった。これは特筆すべきことだと思います。ジェーンは90年代、ブリットポップの時代にキル・ローラというギターバンドにいて一応メジャーでも作品出してたくらい実力はあったんですが芽が出ず、2000年代からフォークトロニカ系のソロ・アーティストとして活動をはじめるもはじめて全英チャートに入ったのが9枚目のアルバム。今回12枚目のアルバムでようやく24位の成功を収めてます。サウンドとしては、ステレオラブを思い出させるソフィスティケイトされた浮遊感溢れるヴォーカル・ハーモニーに、シンセサイザーとストリングス、サイロフォンなどのオーケストラの金管・木管楽器などを多用した多彩なコード感をもとに、口ずさみやすいわかりやすいポップを模索してます。このあたりはさすがの技。結構、くせになりますよ。

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Chemtrails Over The Country Club/Lana Del Rey

続いてラナ・デル・レイです。やはり外すわけにはいきません。前作、2019年の「Norman Fucking Rockwell」は多くのメディアで年間ベスト・アルバムに輝いていましたが、このブログでもそうでした。現在、ディフェンディング・チャンピオンの状態です。そして、今回のこのアルバムですが、前作より良いかどうかまではわかりません。パッとした聞こえ方だと前作より地味になった印象も持っていらっっしゃる方もいるようですが、それは表現がより素朴にフォークに近づき、楽曲スケールの大きなタイプの曲が減ったからでしょうね。でも、今回はアメリカ中西部に移り住んだ経験がもたらした変化ですので、こうしたルーツ・ミュージックの要素は不可欠で、僕はこれを彼女がうまく生かしたものと解釈しています。加えて前々作の「Lust For Life」から顕著な人間の生命力への肯定性、とりわけフェミニズムへの強い目覚めがより顕著になっている点にも注目です。さらには「White Dress」でのエモーショナルなファルセットや「Dance Till We Die」での力強い歌い上げなど、歌唱でもこれまでにない側面も見せたりもして。「Norman Fucking Rockwell」が到達点ではないことを証明しています。6月に本当に予告したアルバムが出るのか。出たらさらにどんな進化を遂げるか、楽しみです。

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Ghost Album/Tempalay

 そして8枚目は日本から選びました。Tempalayですね。彼らのことは昨年からなんとなく存在が日本から伝わってきてはいて、「なにやら日本にテイム・インパーラを思わせるバンドがいるんだな」という感触は持っていました。ただ、まだアルバム全編を聞く機会がないまま時が過ぎていました。今回これが3月の末に出るにあがり、「よし聞いてみよう」ということになったんですけど、これは驚きましたね。だって、これまで、日本のバンドがあんなテイム・インパーラのような、ドリーミーでスペイシーでファンタジックな音世界を出すということ自体がかなりの驚きだったのに、このアルバムは、ただでさえ独自の世界観を築いていた彼らのサウンドに、「和」の空気を注ぎ込むことに成功したわけですからね。しかも、日本民謡の要素を強引にくっつけたとかそういうのでなしに、そこはかとなくそれっぽい音階をところどころ混ぜることによって、これまでに彼らが築いてきたものと違和感のない表現もしていてね。こうした「やりすぎない」感じでの、最新の洋楽ロックからの影響をオリエンタルに落とし込むイメージは昨年のGEZANの「狂(KLUE)」を思い出させます。もっと大げさにいえば、「隣のトトロ」以降の宮崎アニメの成長のようなものというかね。そうした意味でももっとこれ、注目されていいと思います。

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Promises/Floating Points, Pharoah Sanders&The London Symphony Orchestra

そして今回、このアルバムも新鮮な驚きでしたね。マンチェスターのエレクトロDJ、フローティング・ポインツが御年80歳のジャズ・サックスのレジェンド、ファラオ・サンダース、そしてロンドン交響楽団の共演と言う、エレクトロとジャズとクラシックの融合です。僕は本来、「ジャンルとしてのジャズ」には明るくないものでそんなに聞いてきたことはないんですけど、評判もすごく耳にしたから「聞いてみるか」と思い立って聞いたんですけど、もう一発で気に入りましたね。アルバムは9曲で47分という大曲組曲風なんですけど、これの広がりが見事です。各曲でかなり印象的なピアノの美メロ・フレーズをなんどもなんども繰り返すんですけど、そこにときに壮麗なストリングス、方やケイオティックなエレクトロ・ノイズ、またあるときはアーシーなハモンド・オルガンまで重なってきて。本来、領域が違うとされがちなこれだけの音要素が強い緊張感とともにせめぎあう。これ、すごく本来の意味でのジャズの雑種性なんじゃないかと僕は思いましたね。もしかしたら、僕が知らないだけで、こういうセッションはよく行われているのかもしれませんが、ならば「こういう手に汗握る緊迫感、いまどきロックにもそうはないよ」と言っておきたいです。しかもこれ、来週の全英チャートでトップ10ありえるくらいに大衆性を得ている点にも注目です。


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Deacon/Serpentwithfeet

そしてラスト。10枚目に選んだのはR&Bシンガー、サーペントウィズフィートのこの「Deacon」というアルバムを。まだ、R&Bやヒップホップから選んでなかった(アーロはインディ・ロックっぽいし)ので、最後はそこから選ぼうと思ったんですけど、結構これが候補はありまして。で、悩んだ末、「誰がもっともこれまでで聞いたことのない感じか」で選んでこれにしました。彼自身は3年くらい前から存在は知ってたんですけど、そのときはリズムの音数もかなり少ない、かなり実験的なR&Bの印象を受けていました。今回はそれに比べるとかなりネオソウル寄りに聞きやすくなってはいるんですけど、その分、流麗なストリングスを全面煮出した、かなりフランボイヤントなサウンドに仕上がっています。去年のパフューム・ジーニアスに近いイメージですね。それもそのはず、このアルバムは全編を、ある男性への濃密な恋愛に捧げられている「ゲイ・ロマンス」のアルバムだから。恋に落ちて、2人でアメリカ国内を旅するストーリー展開なんですが、相手の肉体やひげにゾクゾクする思いを隠せないサーペントの気持ちが赤裸々に描かれています。歌詞を見ないでも十分に歌モノとして優れた作品ではありますが、歌詞を読んで意味をかみしめながら聴くのがベストだと思います。

・・・といった10枚となりますが、明日は引き続いて、選外になってしまった、でも年間ベスト入りにはまだ希望のあるもう10枚を紹介したいと思います。



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