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映画「A Beautiful Day In The Neighborhood」感想 「ニッチ話の女王」、マリエル・ヘラー監督に注目!

どうも。

こっちは間もなくカーニバルがあるので、来週の前半にいたってはお休みだったりするんですけど、時間があるときに、時間がかかることを書き、今日は映画レヴュー、行きましょう。これです。

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この「A Beautiful Day In The Neighborhood」という映画。この写真からもわかるように、赤いジャケットを着たトム・ハンクスがこの映画の演技でオスカーの助演男優賞にノミネートされました。これは僕は、トム・ハンクスというより、別の方面の期待が高くて見た次第なんですが、果たしてどんな映画なのでしょうか。

早速あらすじから見てみましょう。

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フレッド・ロジャース(トム・ハンクス)は、アメリカの教育テレビを代表する、「愛されるおじさん」。彼は教育チャンネルPBSで自身の人気子供番組「Mr Rogers Neighborhood」の司会を30年以上つとめていました。

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今回の話は1998年に起こったものです。雑誌記者ロイド・ヴォーゲル(マシュー・リュス)は、腕は立つものの、非常に喧嘩っぱやいジャーナリスト。それは、疎遠になりながらも、たまに近付いてくる、許すことのできない父親のせいで、彼は自身の姉の結婚式の際に、その父と取っ組み合いの大喧嘩をしてしまいます。そんなロイドの態度には、異人種結婚をした妻アンドレア(スーザン・ケレシ・ワトソン)も呆れてしまいます。

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勤務先の雑誌「エスクワイア」は、ロイドのメンタルを落ち着かせる意味も兼ねて、アメリカでもっとも平穏なイメージのロジャースの番組の体験取材の記事を書かせます。

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「何だ、その仕事は」と思いながらもロイドはロジャースに会います。「俺はあんたみたいにはなれねえ」。そんな態度でロジャースに接するロイドでしたが、「私は何もあなたが思うような人じゃないよ」と、ロジャースは妻と、やや戸惑いながらも彼を迎えます。

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ロジャースは、負傷したロイドの顔を見て、その理由を問いただします。それが父との喧嘩だと知ると、ロジャースはそのことを気にかけ、なんとか復縁できないものかと、懸命にアドバイスを贈ろうとします。


ロイドがニューヨークに帰ると、父が妻のもとに訪ねてきていました。そこでロイドは、彼の一家に起こった悲しい出来事と、それに対してあまりにも無責任な態度をとっていた角で、父を責め、事態はさらに最悪になります。

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ここから話は、ロイドの現実の世界とロジャースの番組のファンシーな世界が入り乱れ・・・

・・と、ここまでにしておきましょう。

これはですね

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アメリカでは本当に有名です。子供番組司会者フレッド・ロジャースに関する実話を映画化したものです。この番組「Mr Rogers Neighborhood」は1968年から2001年まで30年以上にわたって放送され続けた番組です。

ちょっとさわりだけ見てみましょうか。

このオープニングはですね、実は今年のオスカーのオープニングでジャネール・モネエが似たセット組んで歌ったんですけどね。残念ながら、そんなにノミネートはされなかったんですけど。

この番組、僕は見たことないし、最近まで知りませんでした。僕が知ったきっかけとなったのは

2018年に彼のドキュメンタリー映画「Wont You Be My Neighbour?」が公開されて、これが非常に好評だったんですよ。僕の記憶に間違いがなければ、全米興行でもトップ10、入ったはずです。ドキュメンタリーとしては異例のヒットになりました。

そういうこともあったので、これ、製作時、すごく期待されてたんですよ。このドキュメンタリーに近いような伝記的な作りになるのかとも思われていました。

が!

できあがったのは

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ミスター・ロジャースの知られざる逸話!

これだったんですよね。

この映画、実は、オスカー・レースがはじまった頃、「作品賞争い、加わってくるんじゃないか」って言われてたんですよね。配給がフォーカス・フィーチャーズでしたし、話題の人物の「伝記」でもあったんで。でも、蓋を開けてみたら、ロジャースの扱いは助演で、むしろロイドの方を主役にしてある、「ある人の目から見た、ある瞬間のミスター・ロジャース」だったんですよえ。そこのところで、「期待していたのとは違う」ってなった人が多かったんじゃないかな。映画の評判自体はすごく良かったのに。

でも、僕は、

そう演出されたからこそ、かえって好き!

なんですけどね。

なぜなら、これが

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きわめて、監督のマリエル・ヘラーっぽい個性だから!

僕、この人の映画、すごく好きなんですよね。

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デビュー作となった「The Diary Of A Teenage Girl」は、70sにアンダーグラウンド・コミックの世界に惹かれた女の子の話。あるヒッピーの家に生まれた、性的なことに興味を示しはじめた15歳の子が、他の人が誰も知らないような漫画家に憧れるという、かなりマニアックな題材でした。これは、この原作を書いた人の実際の生活をベースにしたものでした。

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そして2作目が「Can You Ever Forgive Me」。これは、かつてそこそこ売れていた女性作家が食えなくなって、生活に貧窮していたときに、、「有名人が遺品として残した手紙」の贋作を作って、それをそういうマーケットに売ることによって生計をたてようとした話。これも90年代に実際に起った実話です。「そんなマニアックなビジネスと犯罪が存在してたのか」というのを、「もう中年になって生計も建てられない」という焦りの中にいる女性像を、メリッサ・マッカーシーが熱演しました。この映画でメリッサと、

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彼女の、「使えない、こまった友人」役を演じたリチャードEグラントが、オスカーの、それぞれ主演女優賞と助演男優賞にノミネートされました。

で、今回の映画でしょ?この流れからして、

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「すごくニッチな話、探してくる監督なんだなあ」という、興味で僕は惹かれてますね!

世の中にはいろんな人の人生があるわけなんですけど、でも、語られないで終わってしまう人生だってたくさんあるわけで。それが、世の注目を浴びないような類の人の人生なら、なおさら。今回のはある有名人の、一般に殆ど知られていない事柄ですけど、そういう、「知られざれる話」から「語られるべきこと」を見つけ出して紹介する巧みさのようなもの。そうした、ストーリーテリングの才能を、僕はマリエルの映画から強く感じます。もう、それがすごく、彼女の映画の中に共通してある、一般に「作家性」とも呼ばれる個性として確立されている気がしますね。

そこのところは

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今、もう女性監督として「ときの人」ですね、グレタ・ガーウィグにも通じるものがあります。彼女は一足先にオスカーの監督賞や作品賞にノミネートされるほどの監督になっていますけれど、この人も、「人生の決断を迫られた女性の必死の生き様」を描かせたら天下一品。マリエルといい、彼女といい、こうしたストーリーテリングのうまい、映画の作品として確立された個性のある監督が女性監督の中で出てきているのはすごくいいことだと思います。

だから、今年のオスカーのノミネートの際に言われましたよね。グレタやマリエルに加え、「The Farewell」のルル・ワンや「ハスラーズ」のロレーン・スキャルファリアといった良い女性監督がいたのになぜ監督賞にノミネートさfれなかったんだ、という論ですね。

僕、今回、この映画見て改めて考えました。これ

でも、やっぱり、ノミネートされるべきだったの、グレタだけ。

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今回のこの映画も良いんですけど、とにかく地味なんですよね。とりわけ、トム・ハンクス以外の役者が無名すぎる。ここに尽きたんじゃないのかな、と思います。やはり、オスカーくらいの映画賞ともなると、ただ「いい映画」というだけでは成立しません。それなりの強いインパクトがないと。だとしたら、「いい」以外に、もっとアピールされるべきポイントがないと、投票者にはアピールしません。これ、話的にはただでさえ地味であるうえに「トム・ハンクス=ナイスガイ」じゃ、そんなのあまりにもいつもと同じすぎてインパクトもない。それに加えて、他の役者が知られていないのでは、「パラサイト」だの「ワンハリ」だの「アイリッシュマン」だの「マリッジ・ストーリー」だの、目立つ役者がいっぱいいた他の映画にはかなわなかったと思うんですよね。同じことは「ハスラーズ」にも言えたかな。「Farewell」は見てませんけど、あれもアークワフィーナ以外は誰も知らない、本来はものすごくインディな映画だったわけで。

そうした、作品側の事情も考えて反論しないと、ただ、「ジェンダーで割当で監督賞にノミネートすべき」では、主張としては弱い気が僕はしますけどね。

でも、僕は、そんなこととは関係なく、マリエルの映画はファンとして今後、グレタの映画同様に追いかけていくと思います。他の女性監督も同様にね。

ちなみにマリエルですが

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コメディアン、ヨーマ・タッコーンの奥さんでもあります。ヨーマと言えば

サタディ・ナイト・ライヴでひところ人気だったロンリー・アイランドというコメディ・ヒップホップ・ユニットのメンバーです。これのリーダー格のアンディ・サンバーグも奥さん、ジョアンナ・ニューサムだし、アメリカだとコメディ畑の人、アートな女性にモテますね。


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