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連載 ロックのヒット曲が出なくなる史(3) 本当はもっとたくさんヒットあったのでは?チャート根拠の薄い、お気楽な00年代

どうも。

では、ロックのヒット曲が出なくなる史、今日は3回目。00年代について語ることにしましょう。

90年代のアメリカでは、人気のロックバンドがシングル盤を売ることをやめたため、ビルボードの規定によりシングル・チャートに入らなくなった。ただ、それで人気がなくなったわけではなかったのに、その事情が分からない、海外の人や年配のリスナーがその辺りの事情がわからなくなり、誤解してしまった。ここまでお話ししました。

 そのビルボードの規定が1999年くらいから変わりまして、シングル・チャートにロックが帰ってくるようになります。

99年の夏にこの曲が全米トップ10に入ったことで「ロック戻ってくるかなあ」と淡い期待を持ったんですが、その裏でロックのカルチャー自体が脅かされる事態が起きます。

①軽い時代が、「はやるロック」を極端に偏らせた


これまでロックのカルチャーごとを支えてきたMTVが90sの末に大幅な路線変更をはかってしまったんですね。より低年齢に、かつ、保守的な層に訴える番組構成になって。低年齢層の人気投票の番組とか、おバカ系のリアリティ・ショーが連発されることになってしまったんですね。

これによって、社会的にすごく意識高い感じだったオルタナティヴ・ロックは大きな打撃を受けることになってしまいます。ショックでしたよ。1996年にアメリカ行った時、MTV、大統領選の選挙を音楽からとらえるみたいな硬派な番組やってたんですよ!それがその数年後には、そういう硬派だったり音楽的にとがった番組は完全に姿を消し、そういうタイプの番組に切り替わり、ミュージック・ヴィデオそのものがかからないようにさえなったんですから。

まあ、時代が時代でしたからね。

パリス・ヒルトンみたいなタイプのセレブとか、ドナルド・トランプのリアリティ・ショーが受けて、悪名高きウッドストック99での性犯罪、略奪、放火多発の暴力騒動騒ぎ。今から考えたら、この時点こそがアメリカの極右カルチャーのはじまりだったんだと僕はとらえてます。

 このとき、ヒットチャートも一気にアイドルが売れるようになり、進歩的なタイプのオルタナが本当に流行らなくなってですね。これに伴って、アメリカのロック系のラジオが極端なシフト・チェンジを行ってしまいました。これがアメリカのロックにとって大きな混乱を招きます!

それは、「オルタナティヴ・ロック」と呼ばれるタイプのフォーマットのラジオ局がですね、一斉にウッドストック99的なニュー・メタルばかりかけるようになったんですよ!それで、そのフォーマットに合わないタイプのロックがアメリカで完全に不利になってしまったんです。

https://www.youtube.com/watch?v=xPU8OAjjS4k


これら、全部、ミレニアム近辺の全米トップ10シングルなんですけど、どれくらいの人が覚えているんでしょう?


もう、いかにも不良っぽさ丸出しのラップ・メタルか、グランジのふりしてキリスト教の教え説いてるようなものか、メンバーに軍隊出身の人がいるバンドか、後に極右カントリーシンガーになった人とか、本当にそういう人たちが売れてたんですから。めちゃ、保守的でしょ?

そうじゃなければ


ブリンク182とかサム41みたいな、おバカで陽気なポップパンク路線。このどっちかでしたよね、このころは。


これ、理由があってですね。90sの後半、アメリカのロック系ラジオ局で大量の買収があってですね、同系列の会社が買い上げたラジオ局、全部同じフォーマットにしたんですよ。そこがバリバリの保守系で。その企業、クリア・チャンネルっていうんですけどね。これ、その当時、大きな問題となったんですよ。これが、アメリカでのロックの流れをかなりおかしくすることになります。

だから、フォーマットに合わないタイプのロックが弾き飛ばされる傾向が生まれたんですよ、実際。

たとえば、この当時

コールドプレイの「Yelllow」ってイギリスだけじゃなく、アメリカでもすごく人気があったんですよ。すごく曲のオンエアそのものはされてたし、レコード屋行くと、これの入った「Parachutes」というデビュー作はどこでもディスプレイされていたんです。にもかかわらず、全米最高51位で終わってるんですよね。

 おかしな話なんですよね。だって、20年経った現在でも、スポティファイのデイリー・チャートのトップ100に延々入ってる曲がですよ!変な話だと思いません?

 これもひとえに、当時のラジオ局のオンエア分類のずさんさのせいなんですよね。さっきも言ったように、ロック系のラジオではラウドなロックばかりでちょびっとしかかけてもらえない。ポップ系のラジオ局が拾ってかけようとするんだけど、やっぱ当時、そっちもアイドルかR&Bが人気だったからたまにかかるけど中心にはなれない。それで割り食ったんですよね。

 まあ、コールドプレイの場合はオンエア上でそういう損する立場にありながらも次第にアルバムそのものが大ヒットするバンドになりましたら、それで今にいたる大物バンドになったんですけどね。

②911後、ストロークスらが出てくるも、偏った放送編成に苦戦・・

 幸いにして、911があったこともあってリンプ・ビズキットみたいなおふざけがすぎるヤンキー系バンドこそ淘汰されますが、全体のヒットの傾向は軽いままか、ニュー・メタルのフォーマットにあったものがはやっていくことになります。

https://www.youtube.com/watch?v=TIy3n2b7V9k

今となっては離婚した夫婦だなあと思って見てしまうんですが、アイドル・ノリも兼ねることができたアヴリル・ラヴィーンだとか、もはや90sの進歩的なイメージがなくなってしまったポスト・グランジのニッケルバックとか、そういう人たちはやたら売れましたね。それが、ロックの批評的な部分に刺さってくることはなかったんですけど。

ただ、ここで気にして頂きたいのが

アルバムまで含めて、カルチャーで牽引できてたのはリンキン・パークですけどね。やっぱ、リンキンとかKORNみたいな暴力的な感じがなく、誠実さでアピールしましたからね。曲もことさらメロディックだったし、より広いファン層がつかめたのは納得はできます。

ただ、彼らもシングル・ヒットは出てた方ですけど、意外やシングルの全米トップ10、3曲しかなく、今日でも人気のこの曲が意外や11位止まりなんですよ。

信じられないんですけどね。アルバムの売れ方とか、ライブの動員とか、その後の聴き継がれ方とか考えると。

アメリカのヒットのシステムって、それぞれのジャンルでのヒットが、いかに「ポップ」という総合フォーマットに組み込まれるかがポイントになるんですけど、ロックのヒットがポップに全然反映されてなかった気がするんですよね。R&Bとかヒップホップでの流行だと、ポップにすぐ反映されてたのに。

ただ、その一方で

ストロークスが登場します。彼らの登場は90sのオルタナティヴ・ロックにクールなカルチャーこそを求めていた人たちにとっては本当に救世主的な存在だったんですよね。

それだけじゃなく

ハイヴスとかホワイト・ストライプスも、インディなテイストを求める人には一部、強烈に刺さりはしたんですけど、やっぱロック局でニュー・メタルやポップパンクの勢力には勝てず、アメリカではイギリスでのようにはどうしてもシングルとしては売れなかったんですよね。

これも惜しいですよね。だって「Seven Nation Army」なんて今ではサッカーの試合の一大有名アンセムなのに!ラジオ局のくだらない区分で間違いなく損をしていた曲だと思います。

そして、ロックンロール・リバイバル組がかからないわけですから

ウィルコとかフレーミング・リップスとか、ライアン・アダムスとか、どんなに地元アメリカのインディ・シーンで盛り上がっていようが、曲が広く聞かれなかったんですよ。本当に、この時期のロック系のラジオ系の偏った運営のせいで、マニア以外のところで大きくなれなかったとこですね。

③フェス文化の浸透で状況改善も、それが日本に届かぬ皮肉



ただ、それでも、ロックンロール・リバイバルはアメリカでこそ苦戦はしつつもイギリスでは完全にロックを再活性化させるのに役には立って、その波がジワジワではありましたが、アメリカにも入ってくるようになります。

このあたりもアメリカでは、そこそこはやってはいるんですけど、一番大きかったの、やっぱこれですね

キラーズの「Mr.Brightside」。これは今、イギリスだと通算250週以上、全英100位にランクインする史上最長ヒットになり、フェスでも定番アンセムかしてますけど、これ、アメリカのビルボードでもトップ10入ったんですよ。ロックンロール・リバイバル組の、2つしかない全米トップ10のうちのひとつですよ!

 なんでこれがここまでアメリカでも売れたかというと、これが青春ドラマ「OC」の中で流れたことがかなり大きかったんですけど、悲しいかな、日本ではこのリアリティが伝わらないからヒット全然してません。皮肉にも。このころは日本にも頭が硬い流れがあってですね。売れる洋楽ロックがラウド系か、「UKロック」だったんですよね。で、キラーズってアメリカのバンドじゃないですか?それだけの単純な理由で仲間外れにされることは残念ながらありましたね。

 こういうちぐはぐさが、ロックでせっかく売れた曲が出てきたのに日本のロックおじさんたちにアピールし損ねる原因にもなったんですよね。

 ただ、このころに、アメリカでもコーチェラやロラパルーザを中心として、ヨーロッパみたいなスタイルのフェスが浸透し始めるんですよ。それで徐々にイギリスではやってるバンドとか、アメリカのインディのバンドの曲が気にされるようになって

 こういう感じのものがはやってくるようにはなってはきて

2008年のキングス・オブ・レオンのこの曲が英米で同時にトップ10入りします。ロックンロール・リバイバル以降のバンドの2曲あるトップ10のうちのもう1曲がこれです!

このとき、僕も彼らにすごく期待したんですよ。ようやく時代を牽引できそうなバンドがでてきたなと。それと同時に、NMEがスターを作る時代の最後のバンドでもあったなと、今にしてみれば思いますね。

 この2008年くらいになってやっとですよ。アメリカのロック系のラジオ局、完全に時代遅れになったニュー・メタルとかポスト・グランジの曲をかけるのやめたのは。フェス文化の開花でヨーロッパのバンドや曲の情報の浸透が早かったんですよね。

 ただ、ものすごい皮肉なことに、キングス・オブ・レオンも日本では長い間、はやり損ねたんですよ!なんかキラーズといい、ちぐはぐだなあと思って忸怩たる思いで見てました。

④(自分含め)過小評価されすぎたエモ・ブーム


そして2006年以降、2010年くらいまでかな。世界的なエモブームが起こります。

大きい世間一般にはこの曲だったと思うんですけど、このマイ・ケミカル・ロマンスの大ヒットでエモがかなり一般化しまして

https://www.youtube.com/watch?v=vc6vs-l5dkc


こういったバンドたちが続々と成功し、それこそシングル・ヒットまで出ます。

ただ、今考えてもこれ、僕自身もそうでしたけど、過小評価し過ぎてしまったなあ・・・。

 僕自身はどっちかというと「無視してしまった」の方が近かったんですけど、とりわけ欧米圏、このエモ・ブーム・バッシングがひどかった。何に近かったかといえば、日本のV系の全盛時のそれかな。そのアイドル・ポップ性が何より嫌われたというか。

その証拠の一つが、サンパウロにロック系のラジオ局があるんですけど、そこが当時から現在に至るまで一貫してオンエア拒否するんですよ。ブラジル、一般社会的には「最後の空前のロックブームだった」のに。

 あと、欧米と事情が違うのは日本で。日本の場合はフライングでエモが流行った国でして。それも2000年くらいと、他の国がエモって言い始める前から結構注目してる人、多かったですからね。

こういう感じをエモと認識してきましたからね。ポストロックに近い感じの。まあ、これだったら世間一般には流行らなかったとは思うんですけど、エモにこのイメージがあった人は、マイケミ以降のブームにはさすがに乗らなかったかな、とは思うんですよね。

 あと日本だと、イースタンユースとかブラッドサースティ・ブッチャーズみたいなタイプがエモのイメージがありましたからね。オリジナルのエモのイメージで言えば、確かにそれ正しいんですけど、ただ「エモ」が指す本当の意味がわかられていなかった分、今から考えると極端に精神論的な語られ方をされていたように思いますね。僕も日本での解釈のされ方は「押忍!」って感じで苦手でした(笑)。

このバンドがこれで出てきたときに「面白いかも」って思った瞬間をもっと信じてよかったなと、今にしてみれば思いますね。「ただのポップパンクじゃないか」って言ってる人多かったですけど、「ただのポップパンク」ではなかったし、歌詞まで追えば、「これがエモ」で正しくはあったんですから。しかもすごく内向きだから、ミレニアム近辺の暴れん坊なニュー・メタルとも方向性も全然違ったのになあ。

エモって、別の言葉当てはめたら「ポエティック・パンク」なんですよね。だから本来、音だけ聞いてもわからないし、それが日本で延々とわかられなかったから、すごく混乱して。それが結局、日本でのマイケミ以降も人気があったことはあったんですけど、欧米ほどのものになり損ねた要因にはなった気がしますね。

あとパニックのその後の大物アーティスト化、パラモアのサウンドの進化考えると、「ああ、やっぱ、早熟って意味あったんだな」とも思わされますね。僕がエモを評価し直した契機がパラモアの2013年のアルバムだったんですけどね。あれがアルバム1枚分、注目が早かったらなあ、とよく後悔はしています。

 そして国際的にも今、ロックを思い出そうとしてY2Kリバイバルなるものを推し進めているのも、あの時代に叩かれたエモキッズであることを考えると、なんとも皮肉なんですよね。しっかりロックを支えてくれてたのに・・・。

⑤当時のロックはR&B/ヒップホップと比べて、本当に人気がなかったのか?


こうやって曲並べてみると、2000年代、案外ロックのヒット、でかかった気がします。ただ、それでも、あの当時の世間一般の考えでは「R&Bやヒップホップの圧勝だよ」と思う人、多いと思うんですよね。

それがたとえば

こういう感じだったら僕も同意はするんですよ。だけど

https://www.youtube.com/watch?v=U2waT9TxPU0

いずれもビルボードで長い週1位になった曲ばかりですけど、これ、すぐ思い出せる人ってどれくらいいるんですか?なんで記憶に残ってないんでしょう。

 それに比べて、ここまで上にあげたロックのヒットの方が思い出されていませんか?実際、コールドプレイだったりキラーズだったりの曲はいまだにSpotifyの200位に入ってくるような曲ですよ。

 思うに当時、もっと絶対ロック、浸透してたはずなんです。ビルボードのおかしなチャート印象操作で狂わされてたような気がしてます。


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