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沢田太陽の2019年7月から9月のアルバム10選

どうも。

では、お待ちかね。当ブログ、3ヶ月に1度恒例のアルバム10選。2019年7月から9月の3ヶ月で選んでみました。

この3ヶ月、かなり充実したアルバムが出て、選ぶ側としても難しかったのですが、以下のような感じになりました。

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はい。これが10枚です。みなさんの同じ時期に好きなアルバムはどんな感じだったでしょうか。

では、早速、小さいアルバムの方から見てみることにしましょう。

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All My Heroes Are Cornballs/Jpegmafia

今回はまずはヒップホップから見てみましょう。ヒップホップは今回、3枚選んでいますが、まずはボルチモアが生んだ異端児紹介しましょう。jpegmafia。彼は昨年の1月に出した前作も耳の早い、強い刺激を求めるファンの間で話題になっていましたが、これもそれ以上に話題になってますね。彼の場合、グリッチ・テクノで楽曲を短くズタズタにしていく、曲の「断面」がむき出しになってしまうかのようなブチブチのノイズがカッコいいです。やり方は違うんですが、「曲を細かく編集して繋いでいく」というやり方そのものは昨年のティエラ・ワックとかアール・スウェットシャツのアルバムでもやられていたことですが、彼の場合は素材で使っている楽曲が、スティーヴィー・ワンダーとかアース・ウィンド&ファイアの全盛期の時のような、フュージョン・ジャズ的なコード進行を多用した洗練された70sソウルみたいな曲なので、前衛作の割にメロディックで楽曲としての完成度も高いんですよね。さっき例に挙げたティエラ・ワックとかって一部で「スニペット」とかって呼ばれて、僕も個人的には「実験としては面白いけど・・」ってなってしまってたんですけど、これの場合は曲として素直に楽しめるところがいいです。それが、エクスペリメンタルな作品にして、ビルボードのアルバム・チャートの100位にもう少しで入りそうになっていた理由だろうし、もっとメインストリームのヒップホップにこのやり方が入っていかないものだろうかとも思います。


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Eve/Rapsody

続いては、この人も地理的にはボルチモアに近い、ノース・キャロライナのシーンの女性ラッパーですね。ラプソディ。彼女は一昨年に出たアルバムがグラミー賞にノミネートされたことで初めて一般的に話題になった人なんですが、その時にすでに30を超えていたように、地元のシーンでかなり時間をかけて叩き上げた実力派です。すごくハリのある声で、かなりキレのあるライミングをするんですよね。殷の踏み方のうまさでは、男女関係なく、トップクラスのうまさだと思います。これはそんな彼女がリリースした最新作なんですが、収録曲の全曲が、「昨今の、黒人の社会で尊敬を集めている女性たち」、例えば「ニーナ(・シモン)」とじゃ「オプラ(・ウィンフリー)」とかなんですが、そうした女性たちからラプソディ自身が受け取ったインスピレーションでオリジナルのストーリーを作る、という試みをしています。最近、「エンパワリング」という言葉がフェミニズムでも使われますが、それの最たるものです。そして女性に限らず、「社会のヒストリーを築いてきた人たちへのリスペクト」という、黒人社会が大事にしてきた伝統を受け継いでいる意味でも頼もしい1枚です。


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Hoodies All Summer/Kano

続いてはブリティッシュ・ラッパーのケイノ。ここ最近、UKヒップホップ、熱くなってきてますけど、彼はちょうど、ザ・ストリーツとかディジー・ラスカルが活躍した2000sの先駆者たちと、ストームジーやJハスの今の世代のちょうど間の世代で、第二次のブームが始まる頃に筆頭格として注目されていましたね。結果的に、今のUKヒップホップの中では、そこまで目立つ方にはなってはいないんですけど、実力は十分に発揮しています。UKラッパーの中でもかなりアクセントのキツいデコボコしたライムフロウが強烈な人ですが、今回はそれをハウス、テクノ色の強い「これぞグライム」な感じの曲と、カニエ・ウェストやチャンス・ザ・ラッパーに通じるオーガニックなシカゴ・ヒップホップという、英米の象徴的なサウンドで料理してますね。あと、荒廃したストリートの現実をかなり血生臭くシリアスに描写もしていますが、そこから力強く希望を歌っている様も胸を打ちます。

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We Are Not Your Kind/Slipknot

今年に入ってからの3ヶ月おきのベスト、今年は豊作だからなのか、毎回1枚はラウド・ロックが入っているのですが、今回も入りました。それがなんとスリップノットだったのは我ながら驚きです。「えっ、TOOLじゃないの?」という方もいらっしゃるとは思うのですが、TOOLも素晴らしくはあったのですが、「でも、セカンドとサードのクオリティだとは思うけど最高傑作ではないよね」なTOOLより、こちらの方が単純に驚きがデカかったもので。これ、のちから振り返って「円熟期の傑作」と言われる類のものですね。初期の斬新なポリリズミカルなリズムのアイデアこそ最早新しいものではなくなってはいますけど、その分、コリー・テイラーの美声を生かしたメロディックな要素と、90sのデヴィッド・ボウイのデジタル・ロック路線を思わせるアンビエントなエレクトロ感覚。新しくこそはないんですが、これらの出し入れのバランスが非常にいいんですよね。元々バランスを取ろうと思えばそれができていた人たちではあるんですけど、今作は彼らのコア・ファンを喜ばせそうなハードさも保ちながらそれをやっているところも良いです。やっぱりニューメタルでは頭一つ抜きん出たかな。


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Hypersonic Missiles/Sam Fender

続いては、以前ここでも特集しましたサム・フェンダー。去年の終わりごろにいイギリスの音楽メディアでは軒並み「2019年期待の新人」の扱いでしたが。僕自身が完全にピンときたのは、アルバムが出たタイミングでしたね。特集のときも書きましたけど、この人、昨今の「イギリスの男性ソロ・ブーム」にしっかりと乗れる風貌の良さも持っていると同時に、「2000sインディ・ロックのDNA」が彼の中で強く息づいているのが好感持てましたね。ズバリ言って、思い切りキラーズの「サムズ・タウン」の影響が濃厚過ぎはしますが、今の本家よりもいい曲書いてますし、それを自らのルーツであるイギリスの工業都市のリアリティとともに、スプリングスティーンみたいに描写している様も気に入りましたね。むしろインターナショナル市場はこれからだと思うんですけど、世界のいろんなところで歌って、さらに実力を伸ばしていってほしいです。

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The Talkies/Girl Band

続いてはガール・バンド。アイルランドはダブリンのバンドの4年ぶりのセカンド・アルバムですが、文句なしにカッコいいですね。2つきほど前に、The 1975の新曲が「インダストリアル・ロック・リバイバルか?」と話題になったものですが、それを言うなら、今、それに最も近いのがこのアルバムでしょう。90sにあのサウンドを体験した身だと、「アメリカでラウドロックの中で吸収された時に初期の実験性と鋭角さを失ったなあ」と思っていたんですけど、ここでは初期のインダストリアルにあった、いい意味安っぽい鋭角的な電子ビートがロウファイに鳴り響き、それを元にして「冷たい衝動」を爆発させている様がカッコいいし、それこそ本来のインダストリアル・スタイルだとさえ思いました。彼らは、4〜6月のアルバム10選にも選んだブラック・ミディと同じラフ・トレードの所属ですが、イギリスのロックがいつしか忘れていた闇雲なケイオスを持っています。ここら辺りから、何か変わればいいと思うんですけどね。

では、続いて、大きな写真の4つのアルバム、行きましょう。


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When I Have Fears/The Murder Capital

まず最初はザ・マーダー・キャピタル。このバンドは4〜6月のアルバム10選にも選んだフォンテーンズDCと同じくアイルランドのダブリンのバンドなんですけど、上のガール・バンドもそうなんですけど、ダブリン、今、いったい何が起こってるの??まちがいなく、今、世界で最も熱いロック・シティになっているじゃないですか。このマーダー・キャピタルもそうですけど、やってる手法そのものは新しくはないんですけど、とにかく聞いてきたものの趣味が良さそうなところを、深く考えなくても直感的に感覚で出せているところがかっこいいんですよね。例えばフォンテーンズなら、ポストパンクの裏カリスマだったザ・フォールをストロークスのフィルター通して切れ味鋭く表現したようなところがあるんですけど、彼らの場合はジョイ・ディヴィジョンって人もいるけど、むしろ初期U2にあった暗くも骨太な感じを、ニック・ケイヴのドス黒さでおどろおどろしく真っ黒に表現しているところに、いい意味で不健全なものを感じてそそられますね。楽曲的には開いているんだけど、カルトになりそうなカリスマ性があるというか。シーン、切り開いていってほしいですけどね。


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House Of Sugar/(Sandy) Alex G

続いては(サンディ)アレックスG。シンガーソングライター、アレックス・ジナスコーリというのが本名ですが、彼は今、USインディ・シーンの長じの一人になってますね。拠点はフィラデルフィアなのかな?テンプル大学に通ってたみたいですね。前からUSインディ界隈では話題になってた人ですけど、このアルバムが一つの彼にとっての出世作になるんじゃないかと思います。彼はいわゆる、90sの時に流行った「ベッドルームのSSW」と言われるタイプで、曲調にもエリオット・スミスの影響が色濃くは出てる人ではあるんですけど、彼の場合、メロディやハーモニーの美しさだけでなく、そこにサイケデリックな多彩なアレンジと、エレクトロの複合的なリズムで元の曲をいい意味で壊して独特なアクセントをつけるのが刺激的ですね。テイム・インパーラがやってることを、自室でやってる趣があるというか。もっとロックの世界に、こういうアレンジをさらりと自然にやるヤツが出てきたら、だいぶエキサイティングになると思うんですけどね。これ、どこも大絶賛のアルバムなんですけど、まだどこの国もチャートインしてないのが、現在のロックシーンの悲劇です。この中の「グレーテル」って曲、今年を代表する名曲なので、あれから流行ればいいのになあ。。カーシート・ヘッドレストのウィル・トレドと並んでUSインディの次代のカリスマになってほしいです。


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Jaime/Brittany Howard

ここまで来たら、残るはもう、自分にとって「おなじみ」のところですね。まずはアラバマ・シェイクスのブリタニー・ハワード、初のソロ・アルバムですね。彼女、アラバマ・シェイクスでは、その恵まれた巨体を生かしてのパワフルなヴォーカルで熱い視線を浴びていた人なんですけど、自らプロデュース、全ソングライティングを手がけたこのアルバムでは一転、「クリエイター」として俄然注目が集まってますね。マナー自体はアラバマにも共通する60s〜70sのシカゴ、もしくはサザン・ソウルなんですが、ここで展開されてるのはカーティス・メイフィールドからプリンス、ディアンジェロと受け継がれるオーガニックなソウルの正統的な流れですね。。とりわけ、大きめに録音したスネアドラムと、エレキギターのフリーキーなトーンがカッコいいです。あと、ヴォーカルはかなり抑制効かせるものに移行してるので、よりカーティス色が強い印象も受けますね。こういう路線って、2015年のアラバマ・シェイクスのセカンドでもあったんですけど、あれはプロデューサーの趣味かと思ってたら、どうやら彼女ですね。あのバンド、ライブだとスタジオでの勢いないから、このままソロになった方がいい気がしますけどね。


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Norman Fucking Rockwee/Lana Del Rey

そしてそしてそして(笑)、もう詳しく言うまでもないですね。ラナ様です。ファンやってきて、今回ほど批評的に騒がれるのは本当に嬉しいですね。これまでが不当に評価されてましたからね。他の誰でもないい一貫したスタイルはデビューの時から持ってましたけど、それを一切ぶらすことなく、新しいクリエイティヴ・パートナー、ジャック・アントノフとともに、ダウン・グルーヴにも、アンダーグラウンド・ロックにも、シンガーソングライターにも、さらにはクラシック音楽風にも彼女独自のサウンドをさらに拡大し、熟練コピーライターばりのキャッチーな言葉のセンスやカルチャー・レファランス、さらに彼女自身の精神的成長やアメリカ社会が現在置かれている暗い状況と、そこに差し込みたい光までを詰め込んだ巧みなストーリーテリング。これらが一気に爆発した感じですね。しかもそれを、これ、何回でも言いますけど、彼女の場合、短期間量産で作りますからね。アルバム制作に2年もかけずに多曲収録。アルバムそのものの評価の前に、キャリア全体を通した彼女自身の創造の泉。そここそを評価してやってほしいです。いろんなメディアで凄まじい点数ついてましたけど、もちろん、僕の年間でも、年間ベスト最有力候補の一つですよ。






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