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全オリジナル・アルバム From ワースト To ベスト(第29回) ジョニ・ミッチェル その2 10-1位

どうも。

では、昨日の続き、行きましょう。

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FromワーストToベストのジョニ・ミッチェルの回。今日はいよいよトップ10の発表です。早速、10位から行ってみましょう。


10.Turbulent Indigo(1994 US#47 UK#53)

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第10位は「風のインディゴ」。僕がリアルタイムで最初にジョニ・ミッチェルを意識して聞いたアルバムですね。このアルバムのとき、少しだけですけど再評価の波は来てて、そのときくらいから彼女の、このランキングでうんと上の方に入ってる旧譜なども聴き始めていたから、かなり親近感を覚えるようにはなっていましたね。

このアルバムは、彼女がフォーク回帰をした路線の2枚目のアルバムですね。サウンドの基本軸は同じで、当時の録音技術で彼女なりのフォークを今展開するとどうなるか、といった趣で、前作とサウンド的にはそんなに代わりはないのですが、このアルバムは彼女が久しぶりに社会に厳しいメスを当てた作品として知られてまして、それはカトリック教会の性奴隷をテーマにした極めてヘヴィな「Magdalene Laundries」に代表されますが、同じ性を商売にすることを揶揄しながら極度な消費主義そのものを批判する「Sex Kills」が目立ちますね。当時、やはりオルタナ全盛の時代ということもあってソーシャルな曲のテーマが好まれましたから、やはり率先して本作からの代表曲にされていたものです。その意味では、時代とのシンクロも久々に相性良かった作品だったかと思われます。

9.For The Roses (1972 US#11)

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9位は「バラにおくる」。1972年の作品です。この前後2枚が彼女の決定的な代表作になってしまっているので、どうにも影に隠れてしまっている感も否めない作品なんですけど、これもかなり意味のある作品です。とかく、この次の作品からジョニのジャズ志向がはじまったように言われがちですが、実際にはもうここから始まってます。サックスの類がこの頃から吹かれ始めているというのもあるんですけど、ジョニの曲もギターも、予定調和を拒む即興性をこの頃から見せはじめています。そういうこともあり、決してとっつきやすいタイプの作品ではありません。また、この当時交際していたジェイムス・テイラーとのロマンスが破局を迎えたことも描かれているため、グルーミーな空気が張り詰めていることも否定できません。それでいてサウンドも過渡期ですしね。ただ、ここでの諸々の苦しみがあったがゆえのアーティストとしてのその後があったと思うと、やはり欠かせない作品ですね。

8.Shine (2007 US#14 UK#36)

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8位は「シャイン」。現状におけるジョニの最新アルバムです。これ出たときは嬉しかったものです。もう、2000年頃からジョニは「新作という形では作品出ないだろう」と予測されていたところに、レーベル移籍と共に新曲を伴ったアルバムでしたからね。オリジナルとしては9年ぶりということもあり、待たされたと思った分、やはり期待値も高く、さらに内容がそれに叶うものでしたから、喜びもひとしおでした。

 これ、アルバムとしては「Taming The Tiger」のやり直し的作品というか、彼女のこれまで持っていたフォークとジャズの手法にオルタナティヴ・ロック以降のギター・ロックのテイストを加え、エッジの強いまま彼女のサウンドを進化させた意欲作になっていますね。曲のまとまりが「Taming」よりはだいぶこなれた感じになってもいました。この時、ジョニ、すでに64歳。当時のその年齢の女性が作るものとしてはかなり鋭角的な作品でした。この次が早く出れば良かったんですけど、それは結局出ることなし。この感じなら、もう少し何かその後も聴けた気がするんだけどなあ。

7.Clouds (1969 US#31)

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7位は「Clouds」。1969年のセカンド・アルバムで、彼女の実質上の出世作です。それはここから、アルバムの邦題にもなった「青春の光と影(Both Sides Now)」がジュディ・コリンズのカバーによって、全米トップ10のヒットとなり、そこからジョニへの注目がはじまることになります。このアルバムですが、デヴィッド・クロスビーのプロデュースだった割に、どこかジョーン・バエズ・フォロワー的に聞こえてしまっていたデビュー・アルバムと比べると、そこまでガラッと変わったわけではないですが、その後のジョニのシグネチャー・サウンドと言えるものが芽を出し始めていますよね。特に「Chelsea Morning」。この曲での変則チューニングでのファンキーなグルーヴ感。そして「Both Sides Now」での「今の私は多角的にものを見る」という一節ですね。60sという激動の感情的な時代に、その喧騒の後の内省の時代を先んじたような視点をこの時点で持てていた慧眼にも驚くばかりです。この才能がこの後から続々とさらに磨きをかけることとなります。

6.Night Ride Home (1991  US#41 UK#25)

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6位は「Night Ride Home」。いわゆる「全盛期」から離れた作品では、これがトップということになります。このアルバムは、80s以降、商業的にも創作的にも今ひとつ低迷していた客観イメージがつきがちだったジョニが放った起死回生の一作ですね。ここでの彼女は、ルーツ回帰してフォークに戻ってるんですが、90s当時の最新の録音技術を使って、とりわけベースラインの太さとグルーヴを強調させながら、進化しつつ足元を確かにしたタイプの作品ですね。ここからは「Night Ride Home」「Come In From The Cold」「Nothing Can Be Done」といった、彼女関係のコンピレーション・アルバムでの代表曲も多く生まれてもいますしね。このアルバムで持ち直したことが、その後の彼女の再評価を後押しした要因になっているとも思います。

5.Hejira (1976 US#13 UK#11)

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5位は「逃避行」。これも人気のアルバムですね。ここで特筆すべきは、伝説のジャズ・ベーシスト、ジャコ・パストリアスの浮遊感溢れるミステリアスなフレットレス・ベースの華麗なベースラインの動きですね。これがこのアルバムのアイデンティティを強く支えています。ジャコのキャリアの中でも、これは代表的なものなのではないかな。これをしっかりとサウンドの根底にしながら、ジョニ得意の「失恋旅行」のドラマが描かれている点でもポイント高いですね。冒頭の3曲「Coyote」「Amelia」「Furry Sings The Blues」が代表曲とされてますけど、とりわけ、自身を、行方不明で命を絶ったことでも知られる伝説の女性飛行家アメリア・イヤーハートにたとえ、愛を失った後のさまよう自身の姿を歌った「Amelia」はさすがに名人の域ですね。ロック史的にはこのアルバムの際にザ・バンドの映画「ラスト・ワルツ」に出演して「Coyote」「Furry Sings The Blues」を歌ったことでも知られていますね。

4.Court And Spark (1974 US#2 UK#14)

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4位は「Court And Spark」。ジョニ最大のヒット作ですね。僕の世代だと、全米トップ10ヒットにもなった「Help Me」の一節がプリンスの「サイン・オブ・ザ・タイムス」の中の人気曲「ドロシー・パーカーのバラード」の中で使われたことでも知られています。僕がジョニに興味を抱いたのは、そのことを知った時でもありました。ここではトム・スコット、ジョー・サンプル、ラリー・カールトンといった、ジャズ/フュージョンにとんと疎い僕でさえ名前を知っているアーティストたちが参加し、ジョニのフォークを異次元に進化させるのに貢献しているわけですが、「Help Me」「Free Man In Paris」といった、シングル・ヒットが連発もできるような、すごくわかりやすい形で実を結んだことが、このアルバムの大きなポイントでもあります。それプラス、「Raised  On Robbery」みたいな、異色のロックンロール・ナンバーをこのアルバムの中であえてやってしまえる技と余裕も見せたりもして。「俗っぽくない聴きやすさ」の点においては、ジョニのアルバムの中でもこれが一番かもしれません。

3.Ladies Of The Canyon (1970 US#27 UK#8)

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3位は「Ladies Of The Canyon」。「フォークのジョニ」のアイデンティティが完成されたアルバムだと思います。彼女を特徴付けることにもなった変則的なアコースティック・ギターのコードとグルーヴ感、ちょっと中東っぽさも感じさせる多重コーラス・ワークもこの辺りに出来上がってきてると思います。この音楽的な軸ができつつあったところに、「Big Yellow Taxi」「サークル・ゲーム」に「ウッドストック」の、代表曲3連発はやはり大きいです。最大の代表曲とも言えるBig Yellow Taxi」の「天国を駐車場で埋め尽くす」、「ウッドストック」での「放たれた銃弾が蝶に変わる」というフレーズは、画家でもある彼女のスケッチのセンスが色濃く出た、ポップ・ミュージック史上に残る名フレーズですし、「Both」 Sides Now」の流れをくむ内省ソングの「サークル・ゲーム」は映画「いちご白書」に使われたことで、挫折するヒッピーにとってのアンセムにもなっています。「激動の時代の終焉」にコミットしていることで、十分に歴史意義のある作品だし、これだけで普通なら最高傑作になりうるところですが、そうならないのがジョニのすごいところです。

2.The Hissing Of Summer Lawns (1975 US#4 UK#14)

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というわけで、2位は「The Hissing Of Summer Lawns」、邦題「夏草の誘い」です。彼女のジャズ路線では、僕はこれがベストだし、もっともやりたいことができてて、もっとも多彩で、それでいてわかりやすい、バランス的にはこれがやはり一番だと思います。音楽的には、前作での錚々たるジャズメンたちをさらに強化しつつ、その路線を進化させた代表曲「In France They Kiss On Main St」のような曲が冒頭でありつつ、その直後に彼女にとって初のアフリカン・ミュージック「Jungle Line」をいきなりぶつけて来て、それで元に戻ったかと思いきや、B面に入ると、初期のフォークスタイルに立ち返った「Sweet Bird」、さらにムーグ・シンセサイザーひとつだけをバックにした「Shadows And Light」までと、かなり大胆な作り。そして歌詞に関しては「風と共に去りぬ」のスカーレット・オハラを自身にたとえた「Shades Of Scarlett Conquering」をはじめとした、彼女の作品上、もっともレファレンスを多用した作品で、トム・ウルフやテネシー・ウイリアムスの作品の引用、さらに20世紀前半の米文学で主流にもなった「意識の流れ」の応用が使われた曲もあるという、知ったこっちがかなり勉強にもなるポイントもあったりして。クリエイティヴィティでいうなら、これがキャリア一なのかもしれないです。

では、1位にいきましょう。

1.Blue (1971 US#15 UK#3)

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ジョニ・ミッチェルのFromワーストToベスト。1位は「やはり」というべきか「Blue」ですね。先日もローリング・ストーンのオールタイム・アルバムでも見事第3位に入ったことで話題になっていましたよね。これは僕自身もジョニのアルバムを買い集めるきっかけになった作品なので思い入れ、ありますね。女性アーティストのオールタイムでも1位にしてしかるべき作品だと思います。

 これ、実質上の、女性アーティストによる初のコンセプト・アルバムと言い切ってもいいと思います。曲の作られた時期は実はバラバラなんですけど、これ、歌詞を収録順に追うと、完全にひとつのストーリーとして成立するんですよね。「All I Want」で旅に出る女性が「My Old Man」で旅に出る理由となった失恋を振り返り、「Little Green」「Carey」「Blue」で旅の道中で恋を体験し、「California」で家に帰りたくなり「This Flight Tonight」で戻り、「River」で一人のクリスマスを過ごし、「A Case Of You」「The Last Time I Saw Richard」で過ぎ去った恋を思い出す・・という流れです。この流れが非常に自然なんですよね。この恋愛のストーリー・ラインに、最初の夫のチャック・ミッチェルから、この当時に関係がギクシャクしていたCS&Nのグレアム・ナッシュ、そして、この時期につきあうことになるジェイムス・テイラーまでの流れがあります。こういう話をしてるとテイラー・スウィフト思い出しますけど、テイラーとて、ここまでアルバム通しての話の流れがスムースだった記憶はないですね。 

プラス、このアルバムは、彼女のこの時期までのソングライティング・スタイルが完成したアルバムでもありました。それは「Ladies Of The Canyon」のところでも語った変則チューニングでのアコースティック・ギターのグルーヴ感やハーモニーでもあるんですけど、同じ時期に近い世代のローラ・ニーロにも影響されてたんじゃないかな。曲調そのものがだいぶソウルフルになり、とりわけエモーショナルになるときのファルセットの効果的な使い方とかもすごく似てたりもしますしね。曲そのものも、「All I Want」「A Case Of You」「River」「Carey」と歌い継がれる傑作目白押しでもありますしね。



 




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