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ハリー・スタイルズ「Harry's House」〜名作誕生! アイドル・ポップの限界を超え、ロックの理想的領域へ

どうも。

では、おまちかね、このアルバムの特集に行きましょう。

はい。現在、全世界的に大ヒット中です。ハリー・スタイルズの「Harry's House」。これに迫ってみたいと思います。

もう、これ、世界的に記録的な売れ方でして、2022年の現在までの売り上げで最高を記録することが確実視されています。

 もう今や、押しも押されぬスーパースターになってるハリーですが、しかし、その道のり自体は決して楽ではなかったこともたしかです。ここまで到達するのに、ハリーはソロ・アルバムを先に2枚費やし、3枚目にして、大爆発を記録しているわけですからね。

もともとハリーはイギリスのアイドル・グループ、ワン・ダイレクションのメンバーです。2011年にデビューするや世界的な大ブームとなるわけです。このときハリー、まだ17歳ですよ。今見ると可愛らしいものです。同じアルバム・チャートの1位でも、1枚目のアルバムから5枚目に至るまでにセールスは半減。メンバーも1人抜けた後、2015年に活動を休止します。

 ハリーは1Dの中では、もうスタート当初から一番人気だったことから、もちろんソロでも期待されていたわけです。で、1Dの曲が他のアイドルと比べてポップ・ロック調が多かったのは、もともと1D加入前にバンドもやってたハリーに合わせていたのではないかとも考えられてもいて、ソロになっても「ロックをやるのではないか」と予想されていたところ

2017年、ハリーはシングル「Sign Of The Times」でソロ・デビュー。プリンスの名曲と同じ曲名で、ディストピアの世の中を生きぬくアンセムを壮麗なロックバラードで歌うという、かなりデヴィッド・ボウイ的な演出で、この当時、僕はかなりびっくりしたものです。このときのハリーのイメージはまだバリバリのアイドルでしたけど、ちょうど世の中はボウイとプリンスを亡くしたばかり。まだ、実力のほどこそ見えなかったものの、ちょうどロックに華のあるスターもいなかったことから、「やってくれるんじゃないか」みたいなほのかな期待感を僕はこのときに抱いたものでした。

ただ、その期待を持って臨んだこのファースト・ソロ・アルバム「Harry Styles」は、英米で初登場1位にこそなりましたが、チャート上位に長く入るようなアルバムにはなりませんでした。それには理由がありまして。それは、ハリー本人の「ロックをやるんだ」という意気込みがから回ってしまったからなんですね。ここで聞かれるのは、世界一の少年アイドルの作品とは思えないくらいの、70年代初頭のシンガーソングライター風のロックなんですよね。

ただ、こういう歌を本格的に歌うにはまだ身の丈があってない感じが僕自身もしたし、これまでの彼のリスナーからしてみても、甘さのない渋めのサウンドは聞き馴染みがあったとは言いがたく、戸惑ってしまったのではないかとも思われます。

 正直な所、僕もこのデビュー作は成功とは言いがたかったとは思います。ただ、こんなつんのめりかたをするアイドルなんて聞いたことなかったし、「焦点があってくれば面白い」とは当時から思っていました。

 そして2019年12月

ハリーはセカンド・アルバム「Fine Line」を出すわけですけど、これが僕にはとにかく刺しまくりましたね

このアルバムでは、前作の実直なロック路線をいい意味で緩和させ、アイドル・ポップでやってきた軽快さを交えることによって、ハリーにとって等身大で無理のないロックを表現させることに成功しています。

これは一部でしたけど、リリース前から「すごい!」と騒ぐメディアがあったので、「ちょっときになるな」と思って、普段だったら年間ベストの発表もうすぐ終わるタイミングだったのにリリースああれる12月の2週目まで粘って待って、「やっぱ内容、期待通りだった!」と思って24位に滑り込みでいれたほどでした。

 だって、アイドルのアルバムなのに、フューチャー・ファンクとかトラップとかやらずに、生演奏が基本のロックやるわけでしょ?やっぱ、ちょっと、その時点ですでにそうとう異色というか。なんか、ここから新しいなにかがはじまりそうな予感はすでにこのときからあったんですよね。

 そうしたら、その予感が当たってですね、アルバムはすごくロングヒットになりまして、発売から8ヶ月だった2020年8月に「Watermelon Sugar」がシングルで全米1位にもなって。このあたりから注目度がさらにガッと上がったんですよね。

で、僕としては

シングルにはならなかったんですけど、ライブの大定番になっているこの「She」という、ちょっとブルージーなスロー・バラード。これ聞いたときに、「メチャクチャ新しいな、これ!」と思ってですね。だって、アイドルのアルバムなのに、自分が弾くわけでもない長いギターソロが入ってるんですよ、これ!「近頃の若い人はギター・ソロをスキップして飛ばして聞く」なんてことまで言われているこのご時世にですよ(笑)。もっとも、この曲をライブでやって女の子が大歓声あげる姿、YouTubeで何度も見てるので、そんな現代の仮説なんて嘘だと思ってますけどね。

そしてこの3月、アルバムに先駆けてシングル「As It Was」を発表。これが馬鹿受けでイギリスでは発売以来、今日まで7週連続1位、アメリカでも7週連続2位以上という、今年最大のヒット曲となり、4月にはコーチェラ・フェスティバルでのヘッドライナーが大好評。これで天下つかんだ感じがありながらの

もう1回、行きます。この「Harry's House」の発表となったわけです。

この「Harry's House」、もうニュースなどでお聞きの人もいるかもしれませんが、これ


アルバム名は、この細野晴臣1973年の名作アルバム「Hosono House」に影響されたことを、ハリー自身が明らかにしています。日本の音楽ファンにはこのエピソードが刺さって、これで「聞いてみよう」と思った方が結構いらっしゃるようです。この例からもわかるように、ハリー、かなり熱心な音楽ファンなんです。

そして、今回のこのアルバムなんですが

仮に、これがインディの新人バンドのアルバムでも、僕は大絶賛する!


それくらい、素晴らしいアルバムです。アイドル史上でいうなら

このジョージ・マイケル1987年の名作「Faith」以来の傑作だと思います。僕の中では少なくとも、ジャスティン・ティンバーレイクの「Justified」は超えてますね。なぜかは後述しますけど。

 このアルバムですが、まず「Music For A Sushi Restaurant」という、これも日本にちなんだ曲で幕を開けますけど、ここで意識されてるのがいきなりプリンスなんですよね。これは嬉しい意表のつき方でしたね。ここまでソウルフルな展開、これまで彼、してきてなかったので、意外性と「楽しもうぜ!」というハイでハッピーでアッパーなオープナーと共に本作に良い予感を抱かせます。

 そして続く「Late Night Talking」「Grapejuice」は80年代のイギリスのソフィスティ・ポップ風。イメージでいうとティアーズ・フォー・フィアーズとかプリファブ・スプラウト的です。キーボードのコード進行がすごくおしゃれで、いまどきのシティポップ好きの人たちにすごく刺しそうです。

このあたりは

このThe 1975の2016年のセカンド・アルバムに近い感触ですね。このアルバム以降で本人達を除けば、このハリーのアルバムがこれまでで一番ベストなこのアルバムへの回答だと思います。

そして、それに続いて「As It Was」。ahaの「テイク・オン・ミー」血も比較される大ヒット曲ですけど、アルバム頭からの流れで聞いていくと、実はこれ、しっかり生バンドでの演奏なの、はっきりわかります。スネアの皮の振動までちゃんと聞こえますからね。

 この「良質のシンセ+生バンド」の組み合わせは続く「Daylight」でも発揮されます。そして、すごくソウルフル。これがまた、とりわけ1975に近い曲で、マティ・ヒーリー自身も聞いてみたらなんか思うところあるんじゃないかと思われる曲です。

アルバムはここから先はアコースティック路線になります。このあたりは


フィービー・ブリッジャーズ2020年の傑作アルバム、「Punisher」の雰囲気があります。電子音で加工したタイプのフォーク「Little Freak」、そしてハリー自身もファンを公言しているジョニ・ミッチェルを少し意識したタイプのストレートなアコースティック・ラヴ・バラード「Mathilda」。特に後者はシングル切るとかなり人気出そうな気がします。

 そして、ゆるやかにソフィスティ・ポップに戻ってダフト・パンクのセカンドややフェニックスの初期あたりを思い出させる「Cinema」、そしてラテン・グルーヴ・ファンクの「Daydreaming」。このあたりもつくポイントがかなり通で、アイドルの域を超えすぎてます(笑)。

そしてゆるやかなモータウン調のリズムが光る優しげな「Keep Driving」から、これまたプリファブ・スプラウトっぽいキラーチューンの「Satelite」、いったんフォークの「Boyfriends」に戻して、しょっぱなからかなりの大サビぶりと背後のシンセの音色が鋭角的なスケールの大きなラヴ・バラード「Love Of My Life」で締め。その間42分と、聴きやすさの点でも簡潔なのも大仰すぎずに好感が持てるところです。

この時点で1975とフィービー・ブリッジャーズの名前、引き合いに出させてるわけですよ。そんなの、悪いわけないじゃないですか!今のインディ・ロックのいちばんいい部分、見事に抽出しているわけです。

ハリーには共作者がいまして


キッド・ハープーン、そしてタイラー・ジョンソン。前者は元イギリスのインディ・ロッカーで、フローレンス&ザ・マシーンなんかでも共作やってる人、後者はカントリー系のソングライターです。ソロ・デビューの頃からガッチリこの3人、+、バックバンドのギタリストのミッチ・ローランドと、ソングライティング体制がしっかり固定してるのもハリーの音楽性がぶれずに成長している要因になってます。最近の他のアイドルやセレブに顕著なとっかえひっかえの制作をしていない証拠ですから。このへんの一貫性はビリー・アイリッシュやオリヴィア・ロドリゴにも共通してます。

 で、さらにいえば、ハープーン、ジョンソンがかかわってるほかの作品きいてもですね、他になにひとつハリーっぽいものが出てこないんですよ!つまり、ハリーの意向そのものがかなり強く反映されてないとありようがないサウンドに仕上がってるんですよね。その意味でもハリーの実力、しっかり認められるべきだと思います。

あと、これは今後の流れ見てみないとわからないことではあるんですけど、僕自身はこれ

マイケル・ジャクソンでいう「スリラー」に近いヴァイヴも感じていましてですね。それは、「サウンドが」というよりも、立場的なものですね。マイケルだってアイドルだと思われていたところ、これで完全脱皮したらば世界的な超スーパースターになったじゃないですか。それに近いなにかを、今回のハリーに僕は感じています。これが予感だけなのか、そうじゃないのかは、このアルバムの今後の売れ方、そしてハリー自身の今後の作品にもかかってるとも思いますが。

 これを読んで気になられた方はぜひ聞いてください。後悔はしないと思います。

 明日はさらに、「ハリーをロックスターとして受け止めることが、いかにロックに有益であるか」、それについて語ろうかと思っています。



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