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「Petals For Armor/ヘイリー・ウイリアムズ」 音楽的脱皮とセラピーを経た、力強い新章

どうも。

では、約束していた、このアルバムのレヴュー、行きましょう。

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はい。パラモアのヘイリー・ウイリアムズのソロ・アルバム「Petals For Armor」。これのレヴュー、いきましょう。

パラモアというと、世間一般的には、このイメージだと、まだこれだと思うんですけどね。

こういうイメージが強い人が多いかもしれませんね。たしかに2000sの終り頃のヘイリーのイメージといったら、こういう「エモのプリンセス」のイメージでしたからね。この頃、まだ20歳超えてるか超えてないかくらいの年齢でしたね。僕はこの頃はポップ・パンクとかエモとかは専門外だと見られていたし、自分でもそうだと思っていたので、ヘイリーに関しては「アヴリルよりは本物じゃない?歌もかなりうまいし」くらいには思ってたんですけど、そこまで気に留めてなかったというか。

前にも話しましたけど、僕は2010年にサンパウロに越したんですけど、そこでは日本以上にかなりのエモ・ブームで、マイ・ケミカル・ロマンスだのフォール・アウト・ボーイといったあたりは日本以上に人気があったんですけど、パラモアの人気もかなり爆発的で、あの当時、道歩いてもよく写真を目にしたものでした。女の子も、ヘイリーの髪型真似してた人、多かったものです。

そんなヘイリーのイメージがちょっと変わったのが


このバラード「Only Exception」ですね。これ聞いたときに彼女の歌い手としての幅を感じて「いいなあ」と思ったのが最初でした。あと、この当時にラッパーのBoBのフィーチャリング・シンガーの仕事もやって、これもトップ10入るヒットになったりして、このあたりで少し気にし始めた矢先に。

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2013年にこの「Paramore」ってセルフタイトルのアルバム聴いたときに「うわっ、ずいぶん変わったな!」って驚いたんですよ。このアルバム、

のっけからヤーヤーヤーズみたいで、これまでに聴かれたような肩に力のはいったような熱いエモみたいな曲、消えて、いい意味ですごく軽くなったというかね。このアルバムの前に、もっともエモっぽく、それまでソングライティングやってたメンバーが抜けたのも大きかったんですけど

やっぱり一番の驚きはこの「Aint It Fun」ですよ。この曲、これまでのヘイリーがやったことのないような、ファンキーな16ビートの曲だったんですけど、難なくこなしてるのを聴いて。これ聴いて「この子はこの後、シンガーとしてかなり大きくなる!」と思ったんですね。

そして2014年の10月にサンパウロでこのショウ見たのがすごく大きかったですね。このイベント、キングス・オブ・レオンとMGMTと一緒、という、今から考えてもかなり業火なイベントだったんですけど、このときのパラモア、すごく良かったんですよ。エモ・バンドがインディ方向に変化してるのがはっきり見て取れたし、どっちに振ってもしっかり対応できていることを彼女の歌からしっかり感じ取れたし。

この満足度がすごく高かったので、「次のアルバム、楽しみだなあ〜」と思っていたら

そして2017年にアルバム「After Laughter」を出した際に、サウンドが完全にフォールズとかヴァンパイア・ウィークエンドみたいなグルーヴィーなインディ・ロック方面にシフトしまして。ここでインディ・ロック側の人も「ああ、ずいぶん変わったね」と把握してくれたようで、この年の年間ベストの上位にこのアルバムを選ぶ人も多かったですね。

このアルバムですが、ヘイリーがかなりの鬱状態の中で作られた作品というのも、アルバムが出て知られるようになりました。ニュー・ファウンド・グローリーのギタリストの人と8年くらいつきあったあとに結婚して1年くらいで破局してるんですけど、あまり詳しくは本人言いたがらないんですけど、この頃がかなり精神的に苦痛だったようです。

そして、今回のアルバムとなったわけですけど

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もう、この、メイク薄め、これまでチャームポイントのひとつだった髪型もいじらずに自然な感じで、「30になったばかりの等身大の今の彼女」を表しているようで、このあたりもいい意味で大人になったなとジャケ写見て思いましたね。

今回のこのアルバムなんですけど、ちょっと出し方がめずらしくて、3つのEPで構成されたもので、先に2つのEPが先行でリリースされ、最後のEPが最後にくっつく形で完成、という変則的なスタイルです。

僕はこのやり方に関しては、正直、「先に種明かしされてるみたいでいやだな」と思って、極力、発売日まで音を聴かないでおこう、と思ったんですけど、

そういう出し方でも全然問題ありませんでした!

これ、アルバムの進行そのものが全体でゆるくストーリーになっていて、その過程を楽しむ作品であるとも言えるので。

まず、最初の5曲なんですが、このあたりの曲ですね。これらの曲では、彼女が鬱になって苦しみ、もがく姿が主に描かれています。

ここで聴かれるサウンドですが、音数の少ない単音主体のギターを中心としたシンプルな生演奏にエレクトロ・リズムが加わるという、「イン・レインボウズ」以降のレディオヘッドに顕著なサウンドを展開しています。あと、間の開け方にはジェイムス・ブレイクの影響も感じますね。

そして中盤の5曲ですが、ここも音楽的な基本ラインは前の5曲と同じですが、こちらのほうが幾分、曲の表情が明るく開放的になっています。「Dead Horse」は、結婚の破局となった彼女自身の不倫について歌った曲で、他にも男性との性を介さない友情などの話がありつつ、今回のアルバムのタイトルにも使われた「武器のための花びら」を自分のフェミニズムのイメージとして使うところまで行きます。

そして最後の5曲は「新たな愛を探して、自身を持って前進を始めた彼女」を描いたパート。愛の意味を求めた「Pure Love」に女性の恋愛の自由を主張する「Taken」、そして揺るがない自信を持つに至ったラストナンバーの「Crystal Clear」でアルバムは力強く終わります。そして、ここでのサウンドは、ソランジュやSZAといった昨今の女性ネオ・ソウルなサウンド展開をし、ヘイリー自身のヴォーカルにもソウルフルな伸びが加わります。

・・・といったところですが、かなり変わった感じ、しません?

これ、何も知らずに聴いた人なら、「すごく才能のあるインディの女性アーティスト、でてきたんだね!」となって自然です。それくらい、10年一昔のパラモアのイメージがここにはなく、洗練と精神的成熟を強く感じさせる、静かでかつ芯の強さを感じさせるサウンドになっていますからね。比較対象がビッグ・シーフとかエンジェル・オルセンとかLorde、そしてビリー・アイリッシュもそうですね。そのあたりの人になってもなんの違和感もないし、むしろ、そういうアーティストと並べて語られるべきです。

実際、曲紹介の際に例に上げたレディオヘッドやソランジュのような名前は、ヘイリー自身が今作の影響として実際に認めているアーティストばかり。自分の私生活でのリスニング体験を、過去に自分が築き上げた自分のイメージでふるい落とすことなく、自身のサウンドにしっかり注ぎ込む。これができそうで、いざやろうとすると難しいからすごいんです!

しかも、今回のアルバム、

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有名な外部のプロデューサーやソングライター使ってないんですよ。ほとんどがパラモアの盟友、テイラー・ヨークとの共作。つまり、実質、パラモアなんですよ!これもうれしいじゃないですか。本来、ヘイリーみたいなスターのアルバムだと、ソロになったらエレクトロとかR&B/ヒップホップのプロデューサーとかヒップホップのプロデューサーとかフィーチャリング・ラッパーとかつけた、それこそグウェン・ステファーニが実際に作ったアルバムみたいなこと、レコード会社からやらされたとしてもおかしくはなかったち思うんですよ。それが、そうした大衆向けのセルアウトした路線にはいかず、自分の感性に忠実に、音楽的にマニアックで内省的な作品を、パラモアでともに育ったテイラーと作り上げた。テイラーは、それこそ2013年にパラモアがかわりはじめたときからメイン・ソングライターに昇格したんですけど、このアルバムは、2013年のそのアルバムがホップ、「After Laughter」がステップ、そして今回のアルバムがジャンプにあたる、「パラモア成長三部作」として含めていい作品だと思います。

 また、ヘイリーですが、次はパラモアのアルバムを作りたいようですね。インタビューでの発言を曲解されて「次はポップ・パンクで」と報じられたようですけど、彼女自身が否定してます。「ソロで番外」なのではなく、ここに収められた曲がむしろこれからの彼女のメインになっていきそうな作品ですからね。その意味でこれ、かつてのエモ・プリンセスが迎える次章として、後世に語られるべき作品だと僕は思います。

そしてこれ、僕の今年の年間ベスト・アルバムでも、フィオナ・アップルとともにトップ争いをするアルバムになることも間違いないです。









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