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ロラパルーザ・ブラジル2022を振り返る (2)

どうも。

では、昨日に引き続き、ロラパルーザ・ブラジル2022、行きましょう。
今日は2日目、3日目と行きましょう。

初日深夜、もう既に前の投稿で書きましたけど、フー・ファイターズのテイラー・ホーキンス急死の報道が、クタクタになって自宅にたどり着いた僕の元に入ってきました。これで虚脱状態となりました。ロラに行きたいモチベーションが正直なところかなり落ちて、どうしようかと途方にくれましたね。3日目の数少ない楽しみが、最悪な形で失われてしまいました。

 ただ、なんとか気力を振り絞って行きました。こんな感じでした。

シウヴァ (第1ステージ 15:00)

たどり着いた先で見たのは、ブラジルのシウヴァというアーティスト。ネオMPBといった趣で、5年くらい前から名前はよく聞くアーティストでしたね。「カエターノに雰囲気似てるなあ」と思ってたら本当にカエターノの初期の名曲「Soy Loco Pra Ti America」もカバーしてたので、そのまんまだなと思って2、3曲その場で聞きましたね。

ジャオ (第2ステージ 15;30)

そして広大な第2ステージは、人ぎっしりでした。ジャオ。ここ数年で国内ではかなり人気急上昇中のソロシンガー。エレクトロの要素も交えた感じですけど、インディよりももっと大衆ウケしてる人ですね。前から話題にはなってたので気になってました。

 ただ、聞いてみて、「歌は甘い声でうまく歌える人だな」と思いつつも、ちょっとスカだったりサンバだったりが目立つ曲調が、「う〜ん」という感じであまり馴染めなかったかなあ。そういうサウンドが嫌いなわけではないんですけど、この曲調の感じがJポップならぬ、典型的なB(ブラジリアン)ポップだなあ、と思って馴染めなくてですね。このBポップという言葉、うちの妻が好んで使うところで、彼女はこれをすごく嫌うんですけど、まあ、日本の洋楽ファンがJポップ的なものが苦手という感覚はブラジルにも存在する、ということです。10数年住んでて、僕もその意味がわかったところです。

Two Feet  (第1ステージ 16:00)

この辺りから、体がしんどくなって動けなくなって、ここではほとんど休憩でした。第1ステージでずっと横たわってました。

 ここで出てきてプレイしたのがTwo Feetというアメリカのギタリスト。メジャー契約があって、ラジオなんかでは結構かかってるアーティストです。いうなればフュージョンみたいなギターをエレクトロのデジタル・グルーヴとともにプレイするスタイルなんですけどね。

彼はもともと、僕が見たくてたまらなかったキング・ギザード&リザード・ウィザードがメンバーがコロナ罹患でキャンセルになった突如の代打だったんですけど、悪くはなかったです。以前、ロラの代役でアウローラ見て満足してただけに、ロラの代役は悪くないのは知ってましたけど。マーケッティングとして「Comfortably Numbを弾くデイヴ・ギルモアのファン層」あたりを狙ってるのかなとも思いましたけどね。あまりアダルトな方向にふりきらず、実験精神忘れなければ面白いかなと思いました。まだ27歳くらいと若く、なかなかイケメンでもありますしね。

レミ・ウルフ (第3ステージ 16:50)

第1ステージから移動し、移動の必要のない、第2ステージと第3ステージの間の草むらへ。そこだと、第2も、第3も両方見れるから楽なのです。そこふらっと訪れた時にやってたのがレミ・ウルフでした。昨年のデビュー・アルバムも好評だった、ロックとR&B横断型の女性アーティストです。

 去年アルバムが出た際はサウンドの方が注目された印象のあった彼女ですが、ライブを見る限り、彼女の最大の売りはむしろ歌唱力ですね。もう、とにかくうまい!キーンッと響くハイトーンの叫び声を、高い部分のマックスのところでハスキーにさせるのがすごくかっこよくてね。聞き入ってしまいました。曲の方でもナールズ・バークリーの「Crazy」とかMGMTの「Electric Feel」など、観客にもわかりやすい曲をカバーして、自分がどういう音楽性で行きたいかのアピールもうまかったですね。

アメリカみたいなマーケットの場合、彼女のような折衷型のアーティスト、不利なんですけど、このパワフルな歌声一発で突破できないものか。応援したくなりましたね。

ア・デイ・トゥ・リメンバー(第2ステージ 18:00)

疲れがピークの時、動けないタイミングで見たのが、ア・デイ・トゥ・リメンバー。アメリカの、メタルコアのままポップパンクやったみたいなバンドですね。なんかニュー・メタルとポップパンク全盛の2000s前半の残党みたいな感じですけど、実際サヴァイヴしてきたから選ばれたのだろうと思ってみました。

 サウンドとしては00sのイメージが強くて若干古臭い感じがしたかな。リバイバルきてるからそれもアリなのかもしれませんが、例えば世代の近そうなBMTHはもっと実験的なことやってたりもするので、そこに比べると旧態依然とはしてるんですよねえ。

 ただ、ヴォーカリストがアイドルズのTシャツ着てたことと、テイラー・ホーキンスへの追悼を歌っていたことは好感が持てましたね。

アレシア・カラ(第3ステージ 19:00)

続いて、その居場所から横見たらやってたのがアレシア・カラ。2015年のデビュー当時には才能あふれるティーンエイジャーとして注目され、アニメ「モアナ」の主題歌のヒットでも注目された人です。

 ただ、そこからヒットがなく、25にしてちょっと苦しい状態にもあります。彼女はホールジート同じ時期に、まだフィーチャリング・シンガーがブームの時にデビューし、それで注目もされたんですけど、もう見てて思ったのは「ビリー・アイリッシュの登場で過去の存在にされてしまった典型例」なんですよね。サウンドも、バンド・サウンドでライブやってたのでインディの方にもふりたいんでしょうけど、どうにもポップR&Bの範疇から抜けれない感じがして、どこに着地点を求めたいのかが正直わからなかったです。歌もうまいんだけど、数時間前に聞いたレミ・ウルフほどではなかったし。

テイラー・ホーキンスへの餞としてコールドプレイの「Fix You」のカバーをしたのは好感持てましたけどね。

ASAPロッキー(第2ステージ 20:00)


不思議なもので、草むらでずっと寝っ転がっていたのが功を奏したか、ここから翌日にかけて、かなり元気になったんですよ。まさか、会場で寝ることによって体力が回復するとは思ってもみませんでした。

 その、寝そべったところから立ち上がって見たのがASAPロッキー。2010年代のニューヨークを代表するラッパーですが、観客の多くにとっては「リアーナの旦那さん」のイメージです。まあ、アルバム、ずいぶん出てないですしね。注目された時期はケンドリック・ラマート同じ頃で、その頃の期待値は変わらなかっただけに、まだまだ期待したいラッパーではあります。

 そんなロッキーのライブですが、ステージ上には演奏者のいない、彼だけがいるパターンです。なんか近代美術館的なセッティングで、その中を鮮やかなライト・ショーが展開され、そこにキルトスカートをはいた、一昔前のラッパーでは考えられないモード系ファッションに身を包んだロッキーが登場。こうした感覚は、ストリートのマッチョ嗜好のラッパーと一線を画してて面白かったですね。「ああ、さすがはリアーナが選んだ男」とは思いましたからね。

 トラックも、サイケデリックな曲調のときはやはり面白かったですね。ただ、これで統一すれば良いんですけど、トラップのビートを多用すると途端に凡庸な感じになってしまうとこで損してましたね。アトランタ周辺のそれ系のラッパーとは明らかにフロウ・スタイルも違うのに混同されそうな感じがしたのがちょっと惜しかったかな。

もう4年アルバムが出てませんが、これで動き出したということは、そろそろあるのかな。

マイリー・サイラス(第1ステージ 21:30)

そして、この日の目玉、ヘッドライナーのマイリー・サイラスです。僕にとっては、「怖いもの見たさ」的な楽しみがありました。彼女の作品は、2020年のアルバム「Plastic Heart」が思わず年間ベスト・アルバムの50位以内に入れてしまったほど「彼女のロックへの本格脱皮作」として僕には刺さったのですが、いかんせん、その前のディズニー・アイドル「ハナ・モンタナ」としてのアイドル、そして、悪趣味な奇抜ファッションでお騒がせだった時期。この時の印象が、やっぱりよくなかったですからねえ。彼女の場合、元から、すごい低めの鼻にかかった大きなガラガラ声で喋るところがあったんで、「近所にこういうガキいたら絶対うるせえだろうなあ」とかって思ってたんですけど(笑)、それ故印象がよくなかったのは確かです。

 とはいえ、「別に政治で嫌なこと言ったりしないしな」「馬鹿にされながらも、レディオヘッドとかレッド・ツェッペリん曲歌ったりして、真面目にロックを学ぼうとはしてるよな」とかとは思っていて、それが先述のアルバムの成果として結びついたことも確かだと思っていました。

 そして、いわゆる「ハナ・モンタナ世代」からのマイリー支持が強いのなんの!彼ら、彼女らがマイリーがどんなに批判されようが決して離れようとはしませんでしたからね。そのことを僕は、この日の行きの電車で改めて実感しました。満員電車の同じ車両には、まさにその世代くらいの20代の女の子たちでいっぱいだったんですが、彼女たち、人目憚らずマイリーの初期の代表曲大声で歌い始めてパーティ状態になったんですよ(笑)。まあ、これが許されるのがブラジルなんですけどね(笑)。これくらい熱心な人たちが集まることはこの時点ですでに予想されたんですけど、いざ、第1ステージに駆け寄ってみると、もう四方、居場所から抜け出すことができないくらいにもう観客でぎっしりだったんですよ!後ろ振り返ってぎっしり詰まってもいて。あとで聞いた話、この日、ロラ・ブラジルの史上最多動員日だったのですが、目立つ出演者マイリーしかいないのに10万3000人も集めていたわけです。

 そしていざ始まるや、もうのっけから大合唱の嵐でした。1曲目は、ご乱心時代の代表曲の「We Can't Stop」だったんですけど、驚いたのはマイリー、その当時より圧倒的に声が伸びるようになってる!特に低い部分に厚みが出て、声のレンジが広くなってダイナミズム出てるんですよね。完全に「大人の声」に脱皮してましたね。しかも、ファッション・センスもかなり落ち着いて、ショルダー・レングスにブロンドとブルネットの組み合わせにシンプルなブラックのロングドレスにサングラスのコーディネイト。70s後半の頃のデボラ・ハリーのようで、かなりセンスの良さを感じさせました。

 さらに、この「We Can't Stop」の途中、「あれ?どこかで聞いたことのあるフレーズ」と思って聞いてたら、ピクシーズの「Where Is My Mind?」を巧みに混ぜてるんですよ!こう言うセンスはもう、アイドルの域ではないですね。こう言うことができる時点で、他のアイドルの人たちとは差別化もしたくなります。この後、前半は「Plastic Heart」からの曲を中心に、本格派のロッカーと化した彼女のナンバーが続いたのですが、その中にはブロンディの代表曲「ハート・オブ・グラス」のパンチの効いたカバーもあって。これが役不足になるのではなく、原曲にない、今の彼女らしい力で押し切る感じもあったりして。シンガーとしての表現が広がってましたね。

 この後は、最近、Spotifyのグローバル・チャートで「Envolver」という曲で1位になっている最中のブラジルの大スター、アニッタの飛び入りの見せ場などを作りますが、もう実はマイリー、今年で30で、アニッタあたりだとすでに年下。しっかり「アネキ感」もだせてるんですよね。

 曲は中盤に入って、マイリーが泣きながら、テイラー・ホーキンスの追悼を行いました。実はマイリーも22日にパラグアイのフェスに出るために飛行機で移動してたら、飛行機が雷に打たれて緊急着陸するハプニングが起きてたんですね。この時にマイリー怖くなって、友達として仲良しだったテイラーに電話かけてたんですって。フー・ファイターズもこのフェスに出る予定だったんですけど、パラグアイの天候不順でキャンセルになってたんですね。だから、あのコロンビアでの悲劇の死の前にこうした不吉な前兆もあったんですよね。そんなテイラーに対し、マイリーは最新アルバムの中の「Angel Like Me」を捧げます。

この後は、初期の代表曲が中心になっていきますが、そこに安っぽさはありません。今の彼女の声で歌うことによって、昔のアイドル時代の曲が、今の彼女に自然に聞こえるので。そもそも、アレンジ自体はその当時からバンド・サウンドで打ち込みのダンス・ポップとかではなかったから、それができやすかったこともあるんですけど、低く朗々と響く声を強く伸ばすテクニックなんて見事ですよ。

唯一残念だったのは、ちょっと後半、曲を詰め込みすぎた関係で駆け足になって、本来のセットリストから漏れたカット曲が出たことですね。その中には、最新トップ10ヒットの、かのスティーヴィー・ニックスを強く意識した「ミッドナイト・スカイ」という、今の彼女を象徴するアンセムが聞けなかったことかな。でも、その代りに成熟したヴァージョンでの「Wrecking Ball」そして「Party In The USA」で、20曲を超えるセットリストのライブは堂々と幕を閉じました。

 マイリーの場合、もう10年以上もの間、「ディズニー・アイドルのお前なんぞにロックなんて歌えるわけない」と嘲られてきました。そこで彼女は乱心も時にはおかしつつも、でも決して歌への信念を諦めないでずっと鍛錬した結果、すごく成熟したシンガーへと見事に脱皮してると思います。もう、過去の彼女のこと一切知らないでこの日のライブ見たら、普通にロックシンガーだと思って何ら不思議ではないですからね。

 ただ、今の彼女にとっての代表曲が出てくるのはむしろこれからのような気がします。まだ、現在の歌唱力に見合った曲を歌ってはないので。そういう曲が出てきてハマりさえすれば、ライブに来て僕が驚いたようなことがライブにまではいかない人のレベルにまで届くようになるのではないか。そんな気さえし始めてます。

では、明日は3日目となります。























 

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