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キャプテン・ビーフハートの世紀のカルト大名作「Trout Mask Replica」が遂にサブスクに!

どうも。

いやあ〜、これはうれしい!!

遂にですね

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この、魚の顔の男のジャケ写で知られます、超怪作としてロック史に燦然と輝き続けているアルバム「Trout Mask Replica」、これが遂にサブスクでのストリーミングがはじまりました!!

 このアルバムの主はというと

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キャプテン・ビーフハートです。彼が1969年、ロックにとって非常に重要な1年として知られるこの年にこれもでて、カルト名盤の名をほしいままにしている作品です。

 いやあ、これは本当にうれしいなあ。この日が来るのをどんなに待ち望んでいたことか。

 このアルバムはですね、今、いわゆるポップ・ミュージックのオールタイム名盤選でまず外れることがないアルバムです。ピッチフォークでも、ローリング・ストーンでも、「死ぬまでに聴きたい1001枚のアルバム」でもなんでも、これは間違いなく入ってるアルバムです。

 ただ、これ本当にカルト作なので聞いたことない人は聴かずに来てしまっているかと思います。なので、ここで説明させてください。

 僕がこのアルバムを知ったのは大学2年。1990年のことです。僕はアメリカン・トップ40研究会という、ビルボードのチャートのファンが集まるサークルにいたんですけど、ここは別にそれにしばられているわけじゃなくてUKロックのファンもかなり多いとこでしたけど、そこに1年後輩ですごくインディ、アンダーグラウンド・カルチャーに詳しい人が入ってきて、入部早々、「キャプテン・ビーフハートが再発される!」と喜んでいたんですね。彼は灰野敬二とかジョン・ゾーンが好きなような人だったので「おいおい、誰だよ、それは?」と部員、誰も知らなくて。そこで、あの魚のジャケ写を見せられて、なお爆笑、みたいな感じでしたね、当時は。その頃の日本では、まだ一般に「絶対外せない名盤」という印象でもなかったですね。

 で、あのジャケ写だけを覚えて、ちょうど僕がまだNHKの若手社員だった90sの半ばくらいから、ちらほら名前聞くようになるんですね。たとえばサウンドガーデンのクリス・コーネルがインタビューとかで「ビーフハートは最高だ」なんて言ってるのを読むわけです。「ああ、あれ、そんなにすごいものなんだ」と思って興味を抱くわけです。

 で、NHKにはその当時、日本でも屈指の在庫を誇る音楽資料室があったので、そこに行って借りて聴いてみたんですね。さきにパッケージ開けて日本盤の解説読むと、その当時すでに一緒に仕事してたピーター・バラカンさんが書いてるわけですよ。「あっ、ピーターさんまでオススメしてるよ」と思って聴いてみたら

かっこいい!!

と、僕の場合は最初から好反応だったんですよね、これが。

 これですね、もう聴く前から方々で「難解」「奇作」とか、そういう話を聞かされてたわけですよ。僕の場合、あんまり前衛的な作品って今もって全然理解できるか自信ないし、キング・クリムゾンとかでさえ苦手意識あったりするくらいなんですけど、このアルバムに関しては最初から何の抵抗もなかったんですよね。

このあたりが代表曲になると思うんですけど、これが「かっこいい!」となりまして。

 これ、人によってとっつきにくいのは、楽器のアンサンブルが調和取れてないんですよね。ビーフハートのヴォーカルに対してドラムのリズムはずれてるし、ギターのコード進行もあってない。そんなことがあれば、普通、めちゃくちゃにこれ、聞こえますよね?

 だけど、これに関してはビーフハートの歌声があまりに強烈だからなのか、彼の歌がそうした後ろの演奏を不思議とまとめる力があるんですよね。ドラムにせよ、ギターによせ、歌声に付随してエッジを与える存在になってて。

 特にかっこいいのはギターですね。すっごくジャキジャキ鋭角的で。このエレキギターの切れ味、まだこの当時では珍しかったんじゃないかな。この音色がすごくポストパンクを先取ってて大好きなんですよね。これはジェフ・コットンって人が弾いてるんですけど、その後のギャング・オブ・フォーとかを先取ったギターといいますか。

 あと、これだけフリー・ジャズ的に楽器のパートが各々に勝手気ままに演奏してるのに、ベースラインだけはすごく安定感があって、しかもファンキーに躍動的だったりするから、これだけメチャクチャな展開を繰り広げているのに、体が自然と乗れて踊れちゃったりもするんですよね。

 このあたりは

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ビーフハートの人となりのなせる技だと思います。

キャプテン・ビーフハートが注目されるきっかけとなったのは、鬼才フランク・ザッパの友人としてなんですけど、この2人が似てるようでタイプが全然違ってて。ザッパって、すごく複雑怪奇な音楽作るのに完全に理論があって、全部を譜面に書き写す人なんですね。かの名ギタリスト、スティーヴ・バイが彼の採譜係だったのは有名な話ですけど、それくらい譜面絶対の人なんですね。ところがビーフハートは譜面が読めなかった。だからメンバーにイメージを口で説明していた、という話です。なんか擬音で説明している光景が目に浮かびますけどね(笑)。

 で、ビーフハート自身、もともとがブルース、ソウルの心得がある人でして

 これなんて、トラウト・マスクの1年前の映像ですけど、普通にちょっとギザギザした感じのブルースロックでかっこいいでしょ?元々がこういうタイプの人で、それが1969年に突如の確変を起こしたわけです。

 これ、不思議なのは、ああいう作品を、ビーフハート自身がそれ以降、作ってないことです。

こういう風にパフォーマンス映像も結構あるんですけど、今の感覚で聞けば、結構まともでしょ?ブルーズ寄りのポストパンクみたいで。トラウト・マスクみたいなケイオスな展開こそないものの、それでもルーツそのものはぶれてないというか。だから、トラウト・マスクだけでなく、多くのアルバムですごくかっこいいんですよ、彼。

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このあたりですね。「Safe As Milk」(1968)「Lick Me Decals Off Baby」(1970)「Clear Spot」(1972)「Shiny Beast」(1978)あたりは少なくとも傑作ですよ。このほかにも良いのあります。

で、ニュー・ウェイヴの時代の80s初頭にも作品出してますけど、本当にこの当時は普通にポストパンクとして聞けます。あと、案外メディア露出も少なくなかったみたいで、デヴィッド・レターマンの番組に出たりしてるくらいには知名度あったようですね。

 残念ながらビーフハートは1982年で「画家になる」と称して引退。音楽会に戻ることなく、2010年に亡くなってしまいましたけどね。

ただ、ビーフハートは後年になればなるほど強いというか。音楽研究が進めば進むほど、たとえばシカゴブルースの鬼才ハウリン・ウルフから前衛化したトム・ウェイつへのミッシング・リンクとしても、ポストパンクのオリジネーターとしても聞けます。このほかにもまだ将来的な音楽の拡張要素があると僕は思っています。

 これまで他の作品は解禁されて、実はトラウトマスクも一瞬、解禁されてたんですよ、何年か前に。それが数日で撤去され、どうしたのかなと思ってたら、今日、正式に戻って来た、というわけです。

 これはもう、特に若い人にですね、存分に聞いたほしいと願ってます。いろいろとインスパイアすること、今後もありそうなので。






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