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カニエとドレイクの週? いや、それよりもリトル・シムズ

どうも。

今週、特にアメリカはこの話題で持ちきりですね。

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はい。カニエ・ウェストとドレイクのチャート争いですね。カニエがさらに1週前ですけど、ドレイクがこないだの土曜に新作が出て。「Donda」「CLB(Certified Lover Boy)」でツイッターで検索かけると、かなりの数のアメリカの若い子たちの話題を拾うことができます。

しかし!!

以前だったら、「この2枚で今年の年間ベスト決まり!」みたいな、批評家受け抜群だったこの2つがですね、なんと批評で大苦戦なんです!

たとえば

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レビューでついた平均点をまとめるレビュー総合サイトで、この2枚、すごく苦しんでいます。Album Of The Yearのサイトでもカニエ、ドレイク、共々50点台。ということは「星3つ以下」が平均、というかなり厳しいものになっています。

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これ、ほかの総合サイトでもかわりません。Metacritic、全米映画興行成績のときに僕が使う指標ですけど、ここでも同様の結果が出てるし

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イギリスの総合レビューサイト、Any Decent Musicでもそれは同じです。

 ただ、残念ながら、僕もこのレビュー結果、納得なんですよね〜。

なぜか。それを語っていくことにしましょう。

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まずカニエなんですけど、僕はこのレビューの点数よりは評価上です。なぜか。それは、少なくとも「Ye」「Jesus Is king」よりは内容が良いと思うから。もっといえば、「The Life Of Pablo」よりも僕は好きです。なぜか。それは音造りにおいてですね。サウンド的には、それこそ名作「My Beautiful Dark Twisted Fantasy」の頃を思わせる、どっしりとしたスケールの大きなサウンドが戻ってきた、しかもベース部分を強化した進化した形で戻ってきたと思えるからです。

 そういうこともあって、僕の周りだと、これ、実は評判が良かったりします。

が!

残念ながら、それ以上の作品ではありません。なぜか。それは

リリックが、あまりにひどすぎる!!

僕はこれが、正直、「耐えられない」レベルでダメです。

 今回も前作に引き続いて、きわめてキリスト教色の強いアルバムなんですけど、カニエの場合、なにが問題かというと、「信仰」の部分がなんか嘘くさいことなんですよね(苦笑)。今作でも、「俺たちはみんな嘘つきだ!」「神は赦してくださる」くらいの単純なリリックだけで、具体的なストーリー性が全く感じられない。ストーリーらしきものを作ってるのがむしろフィーチャリング・ラッパーというありさまです。

 加えて、この「Donda」って、2008年に亡くなってしまった彼の母親ですよ。マザコンで有名だったカニエにとってはすごくパーソナルで大事な内容だっただけに、何をラップするのか期待してたら、どれだけ聞いてもドンダ・ウェストがどんな人だったか、一向にわからないんですよ。なんのためのテーマ設定だったのかなと。

しかも1曲目、ただひたすら「ドンダ」と繰り返すだけの曲ですからね。あとウィーケンドとの「Hurricane」でも「ア、ア、ウ、ウー」とか「イン、イン、イン」「テン、テン、テン」と、ラップのリリックとしてはいかがなものかなものが続いてもいて。今のカニエの問題はサウンドよりもリリックなのかな、と思ってしまいましたね。セラピー受けた方がいいレベルだと思いました。

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一方のドレイクの方なんですが、これもカニエ同様、長大なアルバムにして、新しい要素がほぼゼロという、残念なアルバムです。

 この人の場合、「歌とラップが両方できる」「新しいサウンドに対する臭覚の良さ」がウリな人なんです。

前者に関しては杵柄でなんとか今作もうまいし、そこいらのラップ風の歌を聴かせるやつよりはよっぽどうまいし、ポップなものをうまく作るのもこなれているから良くはあります。

 ただ、たくさん呼んだフィーチャリング・アーティスト、このセンスがもう4年くらい全然進歩してないんですよね。2017年でも同じような布陣だっただろ、と。いや、それ以下かもしれません。「More Life」のときには少なくともロンドンのR&B勢との共演は果たしてましたからね。それが今回は、悪い意味で南部のトラップ連中とつるみすぎてて、彼ら同様に進歩止まった感じになっています。

 ドレイクの場合、過去5作がずっとビルボード200に何年も独占して入り続けている状態なんですね。今回、このアルバムの内容で世間がそれを許してしまったら、それはいくらなんでもアメリカのリスナーそのものの体たらくだろ。そんな風に思ってしまいましたね。

 この2つが低評価なことは、ピッチフォークでもカニエが6.0、ドレイクが6.6だったので気がついているリスナーも結構いますね。

 あと、アメリカのキッズのあいだで、「この2つが良くないなんて。何を聞けばいいんだ!」と騒いでいる子も結構いましたね。彼らにとっては、この両者のリリースが1年の音楽界を象徴する一大行事だったんでしょうね。

 でも、そういうときだからこそ

 今、本当に耳を傾けるべきものを聴こう!心を開こう!

僕はそう思わずにはいられません。

 そこで僕が勧めたいのは

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イギリスの女性ラッパー、リトル・シムズの新作「Sometimes I Might Be Introvert 」。いやあ、これはもう、2021年を間違いなく代表することになる、大傑作ですね!

1曲目がこれから始まる時点で、もうすでに「勝った!」感が濃厚なアルバムなんですけど、これ、ネオソウルと呼べばそうなるんですけど、その完成度の高さたるや、驚くべきものがあります。とにかくサウンド・スケールがあまりにもデカい。なんなんでしょう、このオーケストラ・アレンジ!ロックやソウル・ミュージックの場合、「ストリングスがいい」とかだったらわかるんですけど、これ、ストリングスも、ホーンも、ヴォーカル・ハーモニーも、本気でオーケストラのスコア、もっといえば映画のスコア書ける人のレベルですよ。これにまず驚かされます。

 今回、この曲をはじめ、オーケストラ・アレンジが豪華絢爛な上に、リズム・パートの研ぎ澄まされたタイトさ、ソウル、ファンクの熟成したセンス、なにもかも一級品の仕事なんですけど、oこれを手がけているのがInfloというプロデューサーでして

去年のイギリスの年間ベストを席巻したSaultのアルバムですとか、あと、マイケル・キワヌーカ、彼も今のイギリスで孤高の黒人ロッカーですけど、彼らの名作を手掛けていた人。彼ら聞いてても、「アレンジの観点、すごいなあ」と感心してたんですけど、今回のシムズ聞いて、「ああ、全部同じ人がやってたのかあ」と線が点としてつながった感慨がありましたね。

あと、リリックもこれ、素晴らしいんですよ、このアルバム。これは自叙伝みたいな内容で、内気だった少女が、黒人たちが置かれている過酷な状況に胸を痛め、心の内側で戦う意識を持つことを時間をかけて覚えていく、というないストーリーになっています。その過程で、彼女の育ってきた家庭環境の話などもあって、かなり内省的な成長物語を描いたものとなっています。

 これ、聞いててですね

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ローリン・ヒル、1998年の名作「Miseducation Of Lauryn Hill」を思い出しましたね。23年の月日を経て生まれた、この作品の娘みたいなアルバム、という形容がぴったりな感じがあります。

 一般に「大物」と呼ばれている人たちのリリースがあるかたわら、こういう「新しい歴史」を築き得る作品というのはちゃんと世に出ているわけです。カニエもドレイクも、もう10年以上、音楽界のど真ん中にいてシーン牽引してきたと思うんですけど、それが永遠に続くわけじゃない。調子出ない時だってあるし、そういうときこそシーンの潮の目の変わり目なんですよね。

いいじゃないですか。アメリカ人、自分の国のシーンばかり盲目的なんだから、もうそろそろイギリスの活発なシーンに目を向けた方がいいですよ。「デイヴがキングにシムズがクイーン」。2021年はそのことに気がつくべきです。

 あと、フィーメール・ラッパーにも改めて注目して欲しいですよね。これに関してはイギリス国内でも課題で、シムズは前作の「Grey Area」もすごく絶賛されてたのに、あの時点で87位という、ありえないくらい低い数字でしたからね。今作は中間発表の時点で3位になってたので、トップ5は確実な、うれしいことになっていますけどね。

今作はそれこそ、批評的な評価もすさまじいです。上の2枚との比較でいうと、AOTYで90点、Metacriticで87点、Any Decent Musicで8・8と、いずれもここ最近の作品の中での最高得点を記録しています。

 これはもう、是非とも聞き逃さない方がいいですよ。







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