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映画「逆転のトライアングル」感想 カンヌ・パルムドール作は「未来のルイス・ブニュエル」的皮肉な寓話

どうも。

オスカーが近くなってきてるので、ここから数日は映画レビューを続けていきたいと思います。

今回のレビューはこれです。

この「逆転のトライアングル」、これをいきましょう。この映画、昨年のカンヌ映画祭の最大賞のパルムドール受賞作、そして今年のオスカーの作品賞、監督賞にノミネートされている話題作です。

この実績からすればかなりいい映画のはずですが、どんな作品なのでしょうか。

まずはあらすじから見ていきましょう。

ストーリーはモデル・カップルのカールとヤヤの話からはじまります。ヤヤはインスタのインフルエンサーで稼ぎはカールよりも上なんですが、カールにディナー代を払うように命じるエピソードが描かれます。

その2人はある日、縁あって、金持ちばかりが溢れるクルーズ船の旅に参加します。そこにはロシア出身の年配の企業家カップルをはじめとした大ブルジョワ・ファミリーが集まっていました。

クルーズ船の乗客はわがままに振舞ってあたりまえ。乗組員はそれを断ることなく、なんでも言うことをききます。そして乗組員自身も、滑り台で洋上に出るなどのレジャー・タイムが設けられています。

そして船長は引きこもりの酔っ払い。さらに、コミュニストでした。

ただ、クルーズは悪天候で最悪なものになります。あまりの揺れで乗客たちは次々と気分を害し、船内は汚物で覆われ、やがて遭難します。

そして、遭難先の無人島では、これまでトイレ番や掃除担当に甘んじてこきつかわれていたアジア系女性、アビゲイルが食料管理の実権を握っていたことから、生存者たちを乗っ取り・・・。

・・・と、ここまでにしておきましょう。

これはですね

現在のヨーロッパの鬼才のひとりですね。スウェーデンのリューベン・オストルンド監督の最新作です。

この人といえば

2017年に「ザ・スクエア/思いやりの領域」という映画でカンヌのパルムドール取っていました。これはアート展をやろうとしていたところが奇人の乱入でめちゃめちゃに・・という、なんとも摩訶不思議な映画だったんですけど、彼はその前にも

2014年に「フレンチアルプスで起きたこと」という作品がオスカーの外国語映画賞の最終の5本に残ったことで注目された人でもありました。

こっちは、スキー場で雪崩にあった一家の父親が「自分は一目散に逃げた」という良心の呵責から苦しみ続ける、それをコメディ・タッチで描いた、これもちょっとシュールな映画でした。

こういう風にこの監督、すごく「作家」的な視点を強く持った、かなりアート志向な監督なんですけど、今回の映画

スペインが生んだ鬼才、ルイス・ブニュエルの次元に行った感じがしましたね。

ブニュエルという人は、1930年代の映画草創期の頃には実験的な作品を作ってた人で「アンダルシアの犬」なんかが有名でしたけど、彼がキャリアを重ねて50〜70年代とベテランになっていくにつれて、不条理ドラマを作るようになります。

この「皆殺しの天使」「ブルジョワジーの密かな愉しみ」といった作品では。上流階級をかなり特殊な状況で描いて、彼らがそこでとる奇妙な行動を通して上流階級を痛快に風刺する手法をとっています。

このやりかたって、もしくは

名画選で必ず出てくるフランス映画戦前の金字塔、ジャン・ルノワールの「ゲームの規則」、これにも通じる、エスタブリッシュ批判でもあります。

が!


今回の映画、「単なるブルジョワ批判」ではありません!

しかも

叩きやすい人をたたいてない!

ここ、すごい新鮮だったんですよね。

それどころか、むしろ、今、世の中的にむしろよく思われてそうな人たちが皮肉られてます。

ここは見るべきポイントです。

だいたい、この主役の2人からして、そこまで大きな共感を得るタイプではありません。特にヤヤの方。そこまで悪い人だとも思わないんですけど、ちょっと狡猾なところは否めません。

このロシアの富豪にせよ、ソ連の独裁制生き延びてきた人だし、なぜかウディ・ハレルソンがやってる船長だって、金持ち相手のビジネスしてるのにコミュニスト。基本、根が善良なはずの人たちなんですよね。

このアビゲイルにせよ、「人種的マイノリティで女性」ですよ。しかも、登場人物の中ではもっとも下層の人ですよ。でも、そういう人が実験握ったら、はたして理想的に物事が進むのか・・・。

 この映画が、カンヌでパルムドールを受賞しながらも、賛否両論分かれたのには、こうしたリベラルたちにとって耳の痛い皮肉が入っていたからだと思います。

 ただ、とはいえ、これ、強烈なブルジョワ批判であることには変わりありません!

そうでなきゃ

こんな描き方、しないでしょ(笑)!

この映画がもうひとつ嫌われる要素としては、このシーンをはじめ、遠慮なしのお下劣シーンが満載なんですよ。これが生理的に受け付けられない人は、そりゃいてもしょうがありません(笑)。ただ、こここそが痛快なんですけどね。

この映画、僕はオスカーの作品賞ノミネート作でも、かなり上に入る気に入りようです。一番ではないんですけど、トップ3には入るかも・・という感じですね。

あっ、あと残念なことがひとつあって

このヤヤ役の女優さん、チャールビ・ディーンという人なんですけど、去年の8月にバクテリア感染で急死してるんですよね。まだ32歳。この映画でパルムドール取って、さあこれから、というときだっただけに、これは本当に惜しい逸材を失ったと思います。謹んでご冥福を祈りたいと思います。





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