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プリマヴェーラ・サウンド・サンパウロ2023. 2日目レビュー

どうも。

では、今日は

サンパウロはインテルラゴス・サーキットで行われたプリマヴェーラ・サウンド・サンパウロ。この二日目に行ってみましょう。前日はザ・キラーズやペットショップ・ボーイズなどが話題となりましたが、この日はどうでしょうか。

早速見ていきましょう。

Just Mustard(13:40第1ステージ)

まず、この日に最初に見たのはジャスト・マスタード。アイルランドの女性ヴォーカルのシューゲーザー・バンド。去年にセカンド・アルバム「Heart Under」というのを出したらこれが国際的にレビューで高得点を得まして。僕も3ヶ月のトップ10には選んでて年間ベスト50からは惜しくも漏れちゃったんですけど。アイルランド本国でトップ10でイギリスでもう少しでチャート入りそうになったんですよね。

そんな感じだったのでロラパルーザ・サンパウロがこのバンドを押さえたところに目利きのよさを感じましたね。

ちょっと到着遅れて見たんですけど、すごくよかったですよ。このバンドの場合、ちょっとダークでヘヴィ寄りのサウンド志向がみえるんですけど、かなり激しく歪みを入れた不穏なトワング・ギター、そこにヴォーカリスト、ケイティ・ボールの少女性の強い不安定なヴォーカルがうまい具合に相乗効果になっています。あと、スロウダイヴのときに強調しましたけど、やっぱドラムが安定した腕前のバンドはシューゲーザーの空間作るのが抜群にうまいですね。

これ、来年以降の楽しみにしてます。

Soccer Mommy(14:40 第2ステージ)

続いてはサッカーマミー。アメリカのインディ・ガールズのシーンに先駆けて出た存在ですよね。僕は2018年に出た彼女のデビューアルバム「Clean」が大好きで、あの年の年間ベストの4位にしたくらいです。以来、ずっと見たい見たいと思ってたんですけど、今日までかかってしまいました。

この日のサッカーマミーことソフィー・アリソンは黒髪にブロンドのハイライトでちょっとゴスっぽくなってましたね。コロナのときに激太りして心配したんですけど、少ししまったかんじもしました。

野郎のシンプルな三人メンバーを着けてのベーシックは編成から、アヴリル・ラヴィーンの全盛期を支えたメイトリックスみたいな曲をロウファイ・インディみたいな形で紡ぐのがこの人のお家芸みたいなところがあるんですけど、その一貫したソングライティングは相変わらず良いです。どの曲も安定して聴けます。

ただ、早くから型が完成されてたことと、そこから先の大きな進展がないまま後続がたくさん出てきてしまった運命ゆえか、今日のガールズ・インディロックに逆に一歩遅れてしまっている感があるのがなんとも皮肉なんですよね。ただでさえ、女の子共感するポイントが少なめなのにOneohtrix Point Neverのプロデュースなんてナードなとこ突くアプローチなんて最新作でしてましたけど、「そういう方向性で良いのかな」と少し気になってみました。

これが終わって第3ステージに移動。ベンチに腰かけてドリンク飲んですずんでいたら、第1ステージからカーリー・レイ・ジェプセンのパフォーマンスが流れてきました。

アイドル・ポップとインディ・ロックの間をぬってるすごく貴重な存在もいうか、それを遅かったデビューからずっとやり続けてるのは面白い存在だとは思うし、あの吐息混ざった独特の歌いかたもキュートだとは思うんですけど、なぜにそこまですごいといわれないと行けないのかまではわからないし、まだそこまで個人的に響かないんだよなあ。

El Mató A Un Policía Motorizado(15:45 第3ステージ)

続いて見たのは、エル・マトー・ア・ウン・ポリシア・モトリザード。アルゼンチンのナンバーワン・インディロック・バンドです。彼らのことは、先日の南米ロックでも27位に入れていたのですごく期待してたんですよね。こういうバンドが見れるのが南米フェフの醍醐味。アルゼンチンのバンドなんてブラジルでさえなかなか見れないので本当に貴重です。

彼らは南米のバンドでは本当に珍しい、サイケデリックな正統派USインディ・ギターロックを奏でます。音源で聴くに思い出していたのはグランダディとか、スパークスホース、リアル・エステイトにマイ・モーニング・ジャケットといったところでしょうか。

そしてライブが、もうスタジオ盤と寸分たがわず同じで、むしろそうした本家よりも演奏うまいくらい。かなり丁寧な上に、小太りで髭面ヴォーカリストの声もすごく清らかに通るんですよね。あと、エレクトロを通過したリズムとギターの痕跡にここ最近のストロークスの感触もあって、ここが現在進行形でモダンでしたね。今、このクラスのバンドがアメリカにいたら、もうそのままトップクラスになれますよ。これはかなりの収穫でした!そして前方の観客の反応見る限り、ブラジルにも一定のファン層がいる感じもしましたね。

ステージの距離が近すぎてカーリーのライブが曲間で入ってくるのだけが玉に瑕でしたね(笑)。

そして本来ならここでブラジルの現在のオルタナ・クイーン的立ち位置のマリーナ・セナを第2ステージで見るはずだったんですけど、2曲で退場してしまいました。なんか、やってる音楽とそのパフォーマンス表現が噛み合っていない気がしたので。

サウンドそのものはレゲエ風味のネオソウルですね。その昔、アメリカにインディア・アリーという人がエリカ・バドゥの頃にいたんですけど、あれをもうちょいレゲエに寄せた感じですね。だから民族衣装っぽい衣装でも着て楽器でも持てば一番様になる感じなのに、ほとんど下着姿でダンサーつけて踊るアイドルみたいなパフォーマンスなんですよね。なんかみすみす自分の音楽価値をわざわざ下げてるような感じで。さらに下着姿で踊る必然性もわからなくて。容姿はなかなかの美人だとは思うんですが体が痩せすぎてて骨と皮でかえって不健康な上に躍りもうまいわけでもない。考えた方がいい気がしました。

Róisin Murphy(第3ステージ. 17:30)

そして僕がこの日にもっとも期待していたと言って過言ではないロシーン・マーフィー。イギリスでは絶大な人気を誇るクラブ・ディーヴァです。彼女はミレニアムの頃にモロコというクラブ・ユニットのシンガーでチャートの上位のシングルヒットを出す活躍をみせたあと、2005年にソロ転向。最初は下積みしたんですけど、アルバムを出し続けて評判になり、さらにゲイ・マーケットでのライブもすごく好評でその筋のカリスマになってたんですよね。アルバムも2020年の作品の時点でトップ20に入ったところで、50歳を手前にしたところでのブレイクが期待されたんです。

そして9月に「Hit Parade」というアルバムが本当に最高で大絶賛されたんですけど、彼女が直前にピュバティ・ブロッカーという、思春期を遅らすことでトランスジェンダーになる処方があるんですけど、健康上に危険があるということでやめるように発言してそれが大炎上。LGBT界隈からキャンセルされてしまったんですよね。

その件があったのでゲイ大国ブラジルとしては心配していましたが、フタを開けると会場には、マスターシュにタンクトップと網タイツの人たちだらけ。もしかして数は減っていたのかもしれないですが、そういう人たちがカーリー見終わって大量に駆けつけていました。思えば去年はチャーリーXCXとかジェシー・ウェアが思いきりそっちマーケットで、さらにその層との相性抜群のミツキやビヨーク、Lordeあたりが大量に参加してたので大LGBT祭りだったんですよ。今年はその要素は少ないもののしっかりそっちも掴んでいました。

ライブは5人横並びの男性たちがそれぞれに楽器やシーケンサーをいじってはじまり。そこに真っ赤な大きな着ぐるみを着たロシーンが登場。肩までのきれいなブロンドの髪を手ぐしでかきわけ、サングラスをとると自然に加齢した皺はあるものの素敵なマダム然としたロシーン。いざ歌い出すと、ややかすれた高い声を力強く伸ばします。その声質、ブリティッシュ・ポップをずっと聞き慣れてるとすぐにわかるんですけど、イギリスが60年代に生んだ不世出のホワイト・ソウルシンガー、ダスティ・スプリングフィールドに本当にそっくりなんですよ!ここだけでも十分引き付けましたね。

 選曲的には最新作「Hit Parade」で聴かれたモダンなブルーアイド・ソウル色よりも、前々作「Róisin Machine 」で聴かれたような正統エレクトロの方が目立つ感じでした。新作からもっと聴きたい気持ちも強くはあったんでさけど、この日は彼女がロンドンのゲイ・クラブでやってきたようなパフォーマンスがリアルに垣間見れた気がして、これはこれで楽しめました。着ぐるみの度重なる衣装変えや、謎の人形を振り回す光景とか不思議なものはかなりありつつ(笑)、こういうのが一つのお約束というか流儀なんだろうなと思って楽しみました。

モロコ時代のなつかしのヒット曲「Sing It Back」が力強いロング・ヴァージョンになって進化してたりしていたのも嬉しかったですね。

ロシーンのショウのあとは、第1ステージで3曲たまけでしたけどベックを体験。「E-Pro」「Loser」「Where It's At」とお馴染みの3曲だったんですけど、えらくハードでノリノリでブルージーだったんですよね。これが来るべき新作へのヒントなのかな?

  ここからは待つこと約1時間。前日ほど暑くはなく風も吹いてたので楽でした。この間に食事もとり、来るべきヘッドライナーにそなえました。

The Cure(第1ステージ. 20:30)

そしてヘッドライナーを務めるのはザ・キュアーでした。日本にもフジロックに2回出てるような気がするのですが、ブラジルも僕がサンパウロ越してから2回目。前回も見に行ってるんですけど、日にち確認したら2013年4月でビックリ!そんなに前だったとは。妻と、彼女の兄の夫婦と行ったんですよ。最近のことかと思いきや。

あのときすごい長いショウをやってて、それも調べたら3時間40分もありました。そして今回、フェスなのに2時間30分も時間とってます。その間、ロバート・スミスも10歳年取ってるわけですが、そんなの関係ないようです。

その間、ニュー・アルバムが毎年のように出る出ると言われながらもなにもなし。そのテの期待はしないでおこうかと思っていたのです

が!

今回に関しては、そこの部分で大きな進展を見た、かなり貴重なライブの瞬間になったのでした!!

20時30分を過ぎキュアーの面々が姿を表し、ロバート・スミスも、みかけがだんだん「ハマのメリーさん」みたいな白塗りが浮き出る感じで、頭の爆発もすごい感じになっていましたが、いざフロントにスタンバイすると、そのツッコミどころ満載の風貌のことはすぐにどうでもよくなります。

そこでならしはじめたのは、すごくシューゲーザーやドリームポップを思わせる長いインプロビゼーション。「これは、はじまりのためのインスト曲なのか」と思いきや、3分近くになってロバートがようやく歌い始めました。これが「Alone」という曲。前日に見たばかりということもあり、スロウダイヴを彷彿とさせました。

そこからセットリストは1985年の「The Head On The Door」と、1989年の最高傑作「Disintegration」の2枚を主体に進みましたね。なんかランダムにやってる感じではなく、ロバートのなかで必要なパーツを繋ぎ会わせる感じで進行しましたね。その間に「Pictures Of You」「Lovesong」「In Between Days」「Just Like Heaven」さらには「High」といったヒットシングルは披露されるんですけどヒットの羅列というのとは少し違う。

そうしているうちに、また長い「インストか?」と思われるジャムが始まります。今度はストリングスを多めにしたアレンジ。これも3分近くでロバート歌い始め。これまた「And Nothing Is Forever」という新曲。これもインパクトとして、馴染みのヒットよりこっちの聴いたことない新曲の方に焦点があってる感じで、そこを代表曲で繋いでる感じなんですよね。

それが終わると、今度は1980年、まだバリバリのポストパンク・バンド時代の「Seventeenth Seconds」のモノトーンな曲が3曲ほどプレイ。そしてもろもろやって17曲目にまたまた長尺曲。今度のは10分近くあって、今度はちょっと重め。これまた「Endsong」という新曲。イメージに合う馴染みの曲でつなげた新作からの大プレビュー大会の趣。「ああ、これなら今日ここにきた意味あったわ!」と思えるほど有意義だったし、それだけ新曲、さらに新機軸に対して強い手応えを感じた瞬間でした。

ここからは新曲はなかったんですが、アンコール1回目は「It Can Never Be The Same」「Charlotte Sometimes 」といった、かなりレアな選曲。あまり人気アルバムとは思えない感じ「Wild Mood Swing」(1996)からの「Want」なんかもやったりして。このあたりが新作の他の曲に繋がるなにかなのか。そこまではわからなかったですが、興味深かったです。

続いてアンコール二回目は、もう理屈抜き。みんなが好きな曲で固めたヒット曲集。「Lullaby」「Hot Hot Heat」「The Walk」「Friday I'm In Love」「Close To Me」「Why Can't I Be You 」そして「Boys Don't Cry」まで問答無用に続き宴の終焉となりました。

このライブで聴いた感じだとキュアーの新作、今度こそ本当に近いかもしれません、もう「Lost World」というタイトルはついてて今回のツアーの名前にもなってます。ここで聴かれた展開もシューゲイザー、ドリームポップ、さらにはプログレ・メタルとかデフトーンズみたいなものと音圧でなく雰囲気的にリンクするようなものだったら、リリース、あまり後ろにしないほうがよいと思いました。復活タイミングとして、かなり旬な感じで出せるのではと思います。





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