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「バンド史上最高傑作」? いや、2021年の日本の最高傑作候補 グレイプバイン「新しい果実」

どうも。

今日は久しぶりに日本のアーティストの話です。すごく大事なアルバムがでたので。

それは

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この「新しい果実」というアルバム。これを作ったのは

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グレイプバイン。実に17枚目となるアルバムなんですけど

最高です!

僕はグレイプバインに関しては

去年の11月にこういう記事を書いてまして。これがかなり読まれたみたいでですね、なんと今、Google検索で「グレイプバイン」って打つと、彼らのウィキとYouTubeのアドレスの真下にこれが来るんですよ!どうりで、僕がバインについてツイートしたらやたら反響があったわけだと思いました。自分でもびっくりしているし、非常に恐縮です。

そのときにも書きましたが僕はデビューしたての頃にすごく彼らのことが好きで、途中から長いことだいぶ離れてたんですけど、去年、ツイッターの企画の「みんなで選ぶ邦楽オールタイムベストアルバム」において、バインのアルバム、EPにすべて得票が入っていた、という記録を作ったという話を聞いてすごく気になり、サブスクでひととおりあるものを全部聴いてみて、「アーティストとしてこんなに立派に成長していたとは・・」と思って上の記事書いたんですね。この成長に関しては今でも本当に驚いているし、「なぜ、ここまでの才能がしかるべき知られ方をしていないんだ・・」と悔しさや歯がゆさも感じていたりもしていましたが

今回の「新しい果実」でその思いはさらに強まりました!

いやあ〜。これ、本当にすごい。

聴いていない方も少なくないと思うので、まずは聞いてみましょう。


これが冒頭の2曲なんですけど、これでいきなり持っていかれますね。これは彼らなりのディアンジェロみたいなネオソウルやシティポップを解釈したものだと思うんですけど、日本のアーティスト、いや世界でもでここまでねっこく歪みを入れた解釈をしているもの、聴いたことがありません。これを作ったのはヴォーカルの田中和将ですけど、彼はもともとすごくソウル・ミュージックの影響を受けた歌い方をする人で、こういうアプローチをやってくるのもわかるし、前2作もソウル・テイストの曲、ありましたけど、今、日本の多くの音楽ファンが気にしてるところのものを、ここまでわかりやすく自己解釈したものはなかなかないですよ。

両曲ともに僕がこないだも絶賛した西川弘剛の70s初頭を彷彿させる鋭角的な歪みがあって2曲目のプレイに関して言えば高野勲のハモンド・オルガン・プレイもあいまってアイズレー・ブラザーズのアーニー・アイズレーを彷彿とさせます。前も言いましたけど、このバンド、西川のような強力なバイプレーヤーがここぞというところで切り札的に使える、この時点で他のバンドとは決定的に差が出ます。

で、そうかと思えば、3曲目、第1先行シングルになった「Gifted」では、中後期のレッド・ツェッペリンを彷彿とさせる、曲で言えば「When The Levee Breaks」とか「カシミール」思い出させる、深いエコーをかけたズシンッ、バシンッのスネアドラムが入ってきたりもして。この3曲までは、バインとしてはかなり新しい展開だと思います。

・・と、普通のバンドならこうした新しい基軸の元で全体を作ってしまいがちなんですけど、ここからあとに「前までだったら、これ絶対シングルだったろ」というキラー・チューンが3曲立て続くところが、これ、すごいんですよ。

アルバムでいうところの4、5、7曲めを占めるところなんですけど、ここに関してはバンドのメイン・ソングライターの亀井亨、彼特有の憂いを秘めたメロディアスな旋律が光りますね。「居眠り」「さみだれ」が彼の曲なんですけど、このメロディの光り方もメロウ系のバインの歴代の曲の中でも屈指の出来だと思いますね。

そして、「ぬばたま」はまた田中の曲なんですけど、こっちの方は「アムニージアック」とか「ヘイル・トゥ・ザ・シーフ」以降に顕著になるタイプのレディオヘッドみたいな曲ですね。ちょっと変則的なコードの感じのある高野のピアノプレイが印象的です。

 冒頭とこの中間の対比がきわめてバインらしいです。

レディオヘッドといえば、6曲目の「阿」は「Sing」での「Core」のように「The Natonal Anthem」系のベースラインのグルーヴ感でたたみかけるナンバー。後半8曲目はシンセポップ風の「josh」を挟んで、9曲目に今作でもっともロックンロールな「リヴァイアサン」。これも人気ありますね。そしてラストの、サビでのスケールの大きい「最期にして至上の時」まで。曲の流れとして申し分ないです。

 あと、今作は言葉に関しても、かなり指摘されることが多いですね。「ねずみ浄土」ってなんだよ、っていうのがまずあるし、「ぬばたま」なんて言葉もふだん聞かないじゃないですか。これだけ、海外のシーンの刺激的なところからの影響が強い音作りをしながらも日本語の語感をここまで大事にできる、というかしっかり両立できているというか。このあたりの意識にもすばらしいものがあります。歌詞の意味に関しては、ある時期をすぎてからは特に「意図は作者のみぞ知る」的なものが目立つので断定は避けたいとは思うんですけど、「旧約聖書のことばをもとにしながら、コロナ禍の今も自然と反映されている」といった田中のインタビューでの言葉を読むとさらに深みがあるというか。

 ということからして、

バインの最高傑作!

という声をよく見かけます。

実際に僕もそう思いますよ。これまでだと僕は「Sing」がベストだと思ってましたけど、あれと比べても楽曲の内容が同等、もしくは上回って聞こえるので。

今回新作リスニングにあたり、前作、前々作も比較して聞いたんですけど、悪くはないんですけど「すごさ」がわかりやすさを伴って表現できている分、やっぱり今作なんですよね。これが今回すごく大きいのだと思います。

が!

本当にそれだけでいいの?

と僕は思ってしまいます。

だって、よく言われてるでしょ?「グレイプバインのファンはいつも新作を最高傑作と行って騒ぐ」って。最高傑作だと叫びたいその気持ちはわかりますよ。でも、

「2021年の最高傑作」じゃなくていいの?

これは僕は改めて問いたいところです。

 だって、固定ファンだけのものにするには惜しいじゃないですか。これ、全音楽ファンにとってすばらしいアルバムですよ。

 これ、少なくとも、日本だと今年聞いた中で最高傑作クラスのできですよ。これがもし、CDショップ大賞のノミネートやミュージック・マガジンの年間ベスト10を逃すようなことがあれば苦情出していいレベルだと思います。それくらい日本だと圧倒的な作品だと思うし、他に誰がいます。だって、音のワンフレーズを、ここまでこだわって出してるアーティスト、日本でそんなに他にいますか?これはある時期の「ロキノン系」なんて言われてたバンドたちが流行った時、多くのバンドが「リスナー共感」ってとこばかりに神経がいきすぎた結果に一斉に失われたものですよ。そういうとこでバイン、損してたかな。最近はまただいぶこだわり強いアーティスト、戻ってきてはいますけど。で、それでいて、音楽的にもわかりやすくてね。そういうバランスで音を、しかも感性が衰えるんじゃなしに、それを成長に変えて表現できるバンド。坂本慎太郎とかサニーデイ・サービスとか向井秀徳とか、そういう人たちくらいでしょ?

洋楽のバンドでも、いまどきの40〜60代で生き残ってる人たちってものすごい才能と努力を感じますけど、今作のバインから感じるのはそういうオーラですよ。レディオヘッド、ウィルコ、PJハーヴィー、ニック・ケイヴ、スプーン・・・。いろいろ名前あげたらこっちは豊富にはいるし、現時点のバインが彼らのレベルまで到達したかはわからないですけど、でも、そこに行き得る可能性は感じさせるものですよ、これは。

 バインの場合、惜しいのは、でてきたときにすごく高い音楽性で注目されたものの、いったん伸び悩んだ時にくるりやらナンバーガールやらスーパーカーが最高のアルバム出してた時で、そのときにメディア・アテンションや影響力のある音楽ジャーナリストの寵愛がそっちに行ってしまった。で、そういうバンドが解散などでいなくなってしまったかと思ったら、さっき言ったようなロキノン系のブームがあって。そんな中で「イデアの水槽」やら「SIng」みたいな力作が目立つ評価をされてこなかった。でも、その間、音楽的進化を続けていて、気づいたら今みたいな彼らの状況ができあがっていた。それが実際のところなんだと思います。

でも、心ある熱心なファンのおかげもあって、ここまでずっとシーンからは消えずに、ある程度のリスナー層はしっかり離さずにやってもこれた。これも事実だと思います。ただ、今作のような作品を作れるのであれば、もう一段階ステータスを上げて欲しいと思うのも僕の本音ですね。

バインの場合、オリコンの順位だと良くてたまにトップ10、だいたいは20位以内のどこか、みたいなのがパターン化してるみたいで今作もそこらくらいらしいんですが、次作あたりくらいから、これまでと同じやりかたのままでトップ5とか入るアーティストになってほしい!これは偽らざる希望ですね。

彼らのアルバムの最高位は1999年のセカンドアルバムの「Lifetime」が記録した3位なんですけど、数年後に「20数年振りに並んだ、もしくは更新した」なんていったらかっこいいじゃないですか。それが可能なポテンシャルがグレイプバインにはあると思うし、それができるかなり限られたアーティストだと思いますよ。







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