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沢田太陽の2010年代ベスト・アルバム 20〜11位

どうも。

2010年代ベスト、いよいよトップ20に入ってきました。こんな感じです。

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もう「名盤しかない」レベルになっていると思いますが、早速20位から紹介しましょう。

20.Modern Vampires Of The City/Vampire Weekend (2013)

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20位はヴァンパイア・ウィークエンド。レディオヘッドのとこで言いましたけど、彼らのアルバムが「個人レベルで言えばもっと上」だったんですけど、逆にこちらは「客観性」で上位に入ったアルバムです。僕としては、英米で3、4枚1位を出したバンドなのにいまだフェスのヘッドライナー任せられないライブでのアピールの弱さとか、音楽界全体でのプレゼンスがまだ決定的じゃないところには不満が残ります。ただ、やっぱり「ピッチフォーク世代」から飛び出した、当時の大学生などからの共感度の圧倒的な高さ、ロール・モデルになっているところはやっぱり見逃せないし、アルバムはずっと高度なものを作り続けているところを考えると、外すことはできません。また、「このアルバムなのか」というとこでも本当は迷うところです。曲だけだったら、この前の「Contra」の方がキャッチーでわかり易い曲が多いし、今後にライブバンドとして伸びていくためには今年でたアルバムでのエズラ主体のサポートやゲスト呼び易い多彩な感じの方が希望は持てます。ただ、バンドのNo.2だったロスタムのプロデュース手腕と、「ヤング・ポール・サイモン」という他の誰も取らない独特のポジションのエズラの多彩なソングライティングが高純度でぶつかった本作こそが、彼らを最初に熱烈に支持した「世代」にとっての理想で、一番愛しやすいフォームであることは僕も疑いません。その意味で、デビュー作(2008年作)を除くと「第1期の象徴」はやっぱりコレになるのではないかな。ロカビリーと、ポリリズムと、エレクトロが融合した「Diane Young」みたいな得がたい曲は、この時期の彼らじゃないと作れなかっただろうなと、考えてみても収穫はかなり大きかったことも事実ですからね。続きは年間ベストの方で。

19.Bon Iver/Bon Iver (2011)

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19位はボニー・ヴェア。2008年のデビューの時に、全く無名のところから口コミと絶賛レヴューでジワジワ話題が広がったタイミングでこれが出てさらに大絶賛。そこで、こういうタイミングで初めて「Bonny Bear?」と彼らを知ったアメリカの大人の人が多く(これ、本当の話です、発音も同じだし)、そういう人たちのおかげもあり、本作でジャスティン・ヴァーノンは、2枚目のアルバムにしてグラミー賞新人賞という大きな賞も取りました。あえて、”彼”と言っちゃいますけど、彼の場合、デビュー・アルバムの際に、「きれいなファルセットでアメリカの旅情を美しく歌う」みたいなイメージがついてたとこあるんですけど、本作では、そのイメージもしっかりと保ちつつも、リズムが複雑で且つ大きくなり、プログレ的なダイナミズムも加えて、聴かせ方がかなり大きくなりましたね。実際、「プロッグ・フォーク」という言い回しも聞いたことあります。ちょうど、コールドプレイがポップに甘口に成り下がって、「レディオヘッドじゃわかりづらい」みたいなタイプのリスナーには、これ、すごくハマッたような気もします。ジャスティンの声がふと素に戻る瞬間が意外とコールドプレイぽかったりもしたりで、僕もそこは案外嫌いじゃなかったりしました。もう、この時点で、この当時流行ってた「インディ・フォーク」の他の人たちとは桁違いの実力なのは十分わかって、僕も今考えたら、これくらいが一番ちょうど良かったんですけど、ジャスティンはこの後、「レディオヘッドかビヨークか」くらいの勢いで進化が止まらなくなります。それに関しては是非も存在もするんですけど、続きは、これも年間ベストで話しましょう。

18.Norman Fucking Rockwell/Lana Del Rey (2019)

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18位はラナ・デル・レイの最新作。このアルバム、そろそろ出はじめている年間ベストでも、このアルバム、かなり上位に入ってきてますね。僕のやつでも、言うまでもなくかなり上位に入るのは容易に予想できると思いますけど(笑)、10年代でもこの位置です。でも、このアルバムのこの評価に一番驚いているのは当のラナなんじゃないかな。これ、僕、思うに、いろんな人からの「今まで誤解してゴメンね」のコンペンセーションじゃないかと思っているので。それくらい、デビューのときは誤解が多かったですからね。このアルバムも、語り過ぎると年間ベストのところで言うことなくなってしまうので、ここでは手短に行きますけど、前にこのアルバムのレヴューでも書いたとおりに、彼女の本当の実力がわかられた、というのが大きいんだと思います。「ダークのカリスマ」の彼女でも、実は強く望んでいるのはリベラルな世の中であること、彼女のリリックのセンスが当代一のレファランスの多さと文学的素養の高さが備わった高度なものであること、そして、短期間に大量の曲を量産できる卓越したソングライターであること。今回のアルバムでそれを多くの人がわかったんでしょうね。それは10分のロングジャムになった「Venice Bitch」かもしれないし、「The Greatest」でのビーチボーイズやデヴィッド・ボウイの洒落た引用かもしれないし、「Hopeless Is A Dangerous Thing For A Woman Like Me To Have」という、「悲しみの女王」の彼女の本質を言い当てたこの曲名の文学的センスかもしれないし、ちょっとクラシカル・ミュージックのメロディ・テイストもあるタイトル曲のイメージかもしれないし、あるいはその全てかもしれない。でも、それがわかってしまえば、もうラナの世界にハマっていくのは決定的です。

17.Blackstar/David Bowie (2016)

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17位はデヴィッド・ボウイ。言わずとしれた彼の69回目の誕生日に、そして彼の命日の2日前にリリースされた最後のアルバムです。あの亡くなったときの、あの世界的な追悼現象。いろんなアーティストの亡くなったときのことを僕も覚えてはいますけど、あんなに「ロス」が世界中のいろんな人に起こったのを僕は見たことなかったし、そのあとのチャート・アクションでの旧譜の大量チャートインとかも今考えても信じられない出来事でした。そして、そんな故人を惜しむムードの中、この最後のアルバムが”伝説の現役アーティスト”として何度めかの全盛期を迎えるかもしれなかった輝きに溢れていたことが、この異常ブームを盛り上げた最大の理由だったのかもしれません。53位に入れたこれの前作の「The Next Day」のところでも書きましたが、このアルバムの前までの流れも良かったんですよ。90sまではこれまでどおり、「時代のイノベーター」になりたがっていたんですけど、それがから回ったあと、99年から「原点回帰路線」に立ち返って、それでツアーも成功し、アルバムの評判も出すたびに良くなっていった。この路線のままでも良かったんですよ。でも、それじゃボウイのプライドが許さなかったんでしょうね。最後は彼らしく、「イノベーター」として世を去った。しかも、彼のそもそもの音楽への愛の原点でもあったジャズをベースにそれがやれたんだから、本人も本望だったんじゃないかなと思います。もし70歳超えて生きてたら、このジャズがどう進化していたのかも見てみたかったところですけど、それを受け継ぐのは地球に残された現在のアーティストの手にかかっているのかもしれません。

16.Melodrama/Lorde (2017)

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16位はLordeのセカンド・アルバム。1996年生まれでまだ23歳。ビリー・アイリッシュ同様、むしろ次の世代で輝くべき人かもしれませんが、この10年ですでに才能は大きく開花しています。2013年に17歳で発表した名曲「Royals」の、ミニマルに絞った装飾のない音使いでのアンチ・セレブ・カルチャー・ソングで全米でいきなり何周も1位をとったときは、僕もチャート急上昇中のときから追っていただけにすごく興奮しました。その気持ちは音楽界のレジェンドにも届きました。まず、「ロックの殿堂」のニルヴァーナのパフォーマンスの際に、デイヴ・グロールの指名で「All Apologies」を歌い、そして生前にボウイから「音楽の未来」と称賛された縁で、ブリット・アワーズで「Life On Mars」の追悼パフォーマンスも任されて。もう、この時点で彼女のアーティスト運命は宿命付けられたも同然で、そんな期待とともに出たのがこのアルバムでした。「パーティの夜に自分探しをする女の子」をテーマにしたこの作品では、デビュー作の暗く混沌したケイオスが。覚えたてのアレンジ、テクニックと共に華やかにコンセプチュアルに進化。それは、かねてから比較に上がっていたケイト・ブッシュの現在のアーバン版の趣で、本作はリリースと同時に大絶賛されました。ただ、僕自身は若干、心配になったところもあったんですけどね。ちょっと想像以上に垢抜けすぎた感じもして、デビュー時の暗さとツッパったところが後退した気がして。だけど、本作のツアーでの、アレンジ、ステージング、ダンスも含めた、彼女自身の総合演出による高度なショーを見たとき、彼女の表現の迷いのなさぶりに改めて感嘆して一気に惚れ直しもしました。2020年代もずっと追っていく人に間違いなくなるでしょう。

15.This Is Happening/LCD Soundsystem (2010)

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15位はLCDサウンドシステム。この人たち、というかジェイムス・マーフィーも、この時代を代表する大事なクリエイターですね。僕、いまだにエレクトロはそんなに得意ではないんですけど、そんな僕でも、「この人の作る電子音は大好き!」といえる人は2人だけいてですね。ひとりはエイフェックス・ツイン。そしてもうひとりがマーフィーです。なんか二人とも、どうやって作っているのかわからないんですけど、音がむき出しというか、ゴツゴツした音なんですよね。あと、マーフィーに関しては、生リズムの音処理もですね。とりわけスネアとハイハット。スネアがパタパタ鳴って、ハイハットのパシパシッて音がせわしなく畳み掛けるあの感じですね。そんなこともあり、マーフィー関係の音はいつも心して聞くようにしています。それプラス、このアルバムは、これまで”名プロデューサー”、もしくは悪く言ってしまえば「裏方的なイメージ」もあったマーフィーが、この前作、「Sound of Silver」の成功を受け、40過ぎて急にロックスターに目覚めた。それがとにかく、カッコよかったんですよ。風貌的には中年太りで、ステージに立つ姿も、これのまえまでは全くファッションなんてものに気を使わなかった人が、この当時、ロックが地味になっていくばかりのこのときに、「では、俺が」とばかりにシーンで目立とうとして。本気だったのか冗談だったのかが今ひとつわからないんですけど、これに責任感のような心意気は感じましたね。あと、このアルバムが、この当時に猫も杓子もやるようになっていた”ポスト・パンク”をトーキング・ヘッズや”ベルリン三部作の頃のデヴィッド・ボウイ”を継承し、それを自らの独自の音像で更新して行くさまも見事でしたね。メロディのひねり具合とかまで、しっかりアピールもされていて。本作のあと、7年ほどマーフィー、引退状態になるんですが、その休養をやめさせようと動いていたのが、かのボウイでもありました。

14.Let England Shake/PJ Harvey (2011)

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14位はPJハーヴィー。彼女もこの10年で非常に欠かせない存在でしたね。今、2010年代ベストって、いろいろ出てますけど、どこも彼女か、ビヨークか、フィオナ・アップルといった90年代フィーメール・アイコンのいずれかをいれてますけど、僕は圧倒的に彼女だし、「最盛期」と言えるものに近いものを出していたのは彼女だけだと思っています。このアルバムは、2011年に発表の、唯一の2度目の受賞者となるマーキュリー・プライズのウィナーになっています。彼女はアルバムごとに、サウンドもファッションもガラッと一新するのがカッコいいんですけど、このアルバムは、アフガン紛争をテーマに、かつ第一次世界大戦のトルコでのガリポリの戦いをもモチーフにした、ハープ、バリトン・サックス(最近彼女がよく吹いてます)をはじめとしたブラス、マーチング・バンド風のドラムを、彼女らしいギター・ロックにまじえた、それだけでもかなりユニークな作品ではあるんですが、齢40を超え、声の出し方を大胆に変えてきた作品でもあります。彼女は昔から、地声(キンキン声です)の高さを逆に活かして、時に不安定なトーンとかを出すことによって、不安な気持ちの揺れなどを表現する技術に長けていたところがあったんですけど、ここではすごく高いソプラノやファルセットも使って、ヴォーカルがなおのこと変幻自在になっています。この題材の選び方の独自性といい、テクノロジーに頼らない、楽器と声を応用することで新しい音楽を導く創造性といい、この人はアーティストとして無尽蔵です。それでいて、しっかりロックもできてるしね。PJは僕と同じ学年で次の年代で50代なんですが、一貫してクリエイティヴな、リスペクトされ続ける女性ロッカーのロールモデルになることを僕は疑っていません。

13.Ghosteen/Nick cave & The Bad Seeds (2019)

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13位はニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズ。33位の「Push The Sky Away」についで2枚目のランクインであり、2019年のアルバムでの6枚目、かつ、「ここでは」最高となるランクインとなっています。いま出ている、様々な2019年年間ベストでも軒並み上位です。もう、以前から何度も言ってますけど、2010年代、ニック・ケイヴ、50〜60代にしてキャリアの最盛期を迎えるという、これまでのロッカーの常識を覆す創造性を発揮しています。いみじくも14位に入れたPJハーヴィーも40代女性として圧巻の活動内容でしたけど、実はニックとPJは90sにおつきあいしてまして、PJの方から別れを申し出て、ケイヴいわく「俺が驚きのあまり、注射器を落としそうになった」って最近、本当に暴露したんですけど(笑)、当時はそれくらいのヤク中。そんな状態だった人が、この年令でピーク毎度更新と言うのもすごいことです。このアルバムは、歴代の彼でも最高傑作に近いんじゃないのかな。この前作の「Skelton Tree」に続いて、本作もニックの転落死で15歳で亡くなった息子に捧げたアルバムなんですけど、前作が殺伐としたレクイエムなら、今作は「天国での祝祭」で、もともと優れたバラッディアーであるケイヴが、相棒ウォーレン・エリスの織りなすストリングスと時折の電子音と共に、ゴシック・テイストの強いケイヴなりのゴスペルを聞かせてくれています。あまり書きすぎると年間ベストで書くことなくなるから、このあたりで切らないといけないのですが、ケイヴをまだ聞いたことのない方は、このアルバムから入るのも一つの手ではあります。

12.Good Kid M.A.A.D City/Kendrick Lamar (2012) 

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12位には、ようやくここでケンドリック・ラマーです。やはり彼の場合は、「入れるからには上位」という気持ちが僕の中にもどこかありますね。それくらいに彼は、2010年代のMVP的な存在だと僕はとらえています。彼の何が素晴らしいって、過去最高級のラップ・スキルを満ちながらにして、文学者並みのストーリー・テリングができ、さらにサウンド・クオリティも高いという、三拍子が高純度で保たれた、ヒップホップ史においても稀有な存在だったから。2000sって、90sにヒップホップを聞いていた立場から言わさせてもらうと申し訳ないんですけど、ヒップホップって商業的になりすぎて面白くなかった。そこをガラッと変えたゲームチェンジャーこそケンドリックであり、このデビュー作だったと僕は思います。このアルバムはですね、「どこか1曲だけ抜粋」というのができないアルバムです。それは、本作が頭から最後までがひとつのストーリーとなっているから。これは、あのNWAの伝記映画でも有名になったLA郊外のコンプトンで育ったラッパー、K Dotが、犯罪に手を染めた劣悪な家庭環境の中に生きて、自らも悪気なく軽犯罪もして育っていたのですが、ある日に、「こんな生き方はやめよう」と決心。でも、コンプトンのような荒廃した街で、真面目に生きていくのは大変だ・・ということを綴った、半ば伝記作です。その間には、アルコールの海に飲まれて死ぬような誘惑を歌った代表曲「Swiming Pools(Drank)」のような誘惑もあるんですけど、やがて現実へと目を開いていくさまが描かれます。アルバム1枚がここまで短編小説のような趣を持った作品といえば、僕の20代の頃にもナズの「Illmatic」ってアルバムがあって、実際にかなり比較もされ、それだけでもかなりの栄誉なんですが、頭からの一貫したつながりでは本作がむしろ勝っているとさえも僕は思います。次の大傑作さえなければトップ10入れてましたね。

11.My Beautiful Dark Twisted Fantasy/Kanye West (2010)

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そして11位はカニエ・ウェスト。事前に11位先行発表で伝えたとおりになっています。カニエももちろん、2010年代に活躍したアーティストの一人であることは間違いないんですけど、僕はいささか”過大評価”だと思ってます。これは前にも言いましたけど、僕にとっては、最初の4枚で一切の捨て作がなかった2000sこそが最高だったと思ってます。「ちょっと鼻につく、でも、才能に溢れたマザコン野郎」の時のほうが憎めなかったですね。でも、そのママを2007年に整形手術の過失という悲劇で失ってからの彼はどうも言動の不安定さの方が勝ってしまって、それが音楽にも影響するようになってしまったなあ、というのが2010sの僕の彼に対する印象です。ただ、ママの喪失後も、2008年の「808 & Heartbreak」と2010年の本作に関しては、まだ日常の煩わしいことも音楽的創造に昇華させることが出来ていたと僕は疑ってません。特にこれに関しては、「ヒップホップによるプログレ」ですね。別にキング・クリムゾンをサンプリングしたからプログレだという意味ではなく、本来の言葉通り「進歩的」という意味で。この前後のカニエって、大音量の出せるパーカッションをかませた複合的なリズム使ってましたけど、あのグルーヴによってかなりサウンドに立体感を持たせることができたし、それによって、これまでのヒップホップ、いや、その後も現れてはいないかな、長大なスケールの曲が表現できていたと思います。とりわけ、「Runaway」あたりは、カニエのキャリアの中でも絶頂と呼べる1曲だったと僕も思います。ただ、サウンド的には非常に優れたアルバムではあるんですけど、「Douchebag」だ「Asshole」だ、使う単語でリリックはだいぶ危うくは当時からなってきてましたけどね。その後は、アヴァンと下世話が奇妙に共存した次作「Yeezus」はどう解釈するかにもよりますが、さらにその後は何かが失われて行ったような気がしてます。

では、「全米チャート」をはさんで、いよいよ次はトップ10です!




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