新企画! 重要映画人おすすめ映画ランキング(第1回)ポール・トーマス・アンダーソン 9位〜1位
どうも。
今日はですね。新企画を始めたいと思います。
予てから思ってました。洋楽アーティストの全アルバムを対象とした「FromワーストToベスト」は、このブログの名物企画ではありますが、「これの映画版をいつかやってみたい!」と思うようになっていました。
ただ、やろうにも、全アルバムを聴くように、映画監督、あるいは俳優、女優でもいいんですけど、関連映画全作品を見るというのは容易なことではありません。全部コンプリートで見てる映画監督、僕の場合、まだ少ないです。
ただ、ここのところ、サブスクやネットを駆使して見てない作品をいかに見れば良いかのノウハウがわかって、その矢先に全作鑑賞を達成できた監督が出てきたので、今回からやらせてください。
題して
重要映画人おすすめ映画ランキング
このタイトルでいきたいと思います。
その、記念すべき第1回の映画人になったのは、この人です!
ポール・トーマス・アンダーソン!
まさに昨日、最新作の「リコリス・ピザ」のレビューを書いたばかりですよね。実は、彼が全作鑑賞達成した最初の監督ではないのですが、もう一人の監督で第1回を始めるより、彼のほうがやっぱグレードも知名度もあるのでスタートにふさわしいと思ってやることにしました。
では
この全9作品のうちからのランキングとなります。映画の場合、人によっては作品数があまりに膨大なので、基本、トップ10だけで行こうと思ってます。そうしないと肝心なおすすめ作がわからなくなってしまう恐れがあるし、サウがに映画だと厳密に細かいとこまで見ると時間おもすごくかかっちゃいますからね。
ではPTAのおすすめランキング、早速9位から行ってみましょう。
9.Inherent Vice (2014)
9位は2014年作の「インヒアレント・ヴァイス」。これは1970年代前半のカリフォルニアを舞台とした、アメリカ文学史上でも最も難解と言われるトマス・ピンチョンの小説の映画化です。70年代を描かせたら歴代の監督でも屈指のPTAで、しかもホアキン・フェニックス主演なのでかなり期待してみたんですが、音楽やカルチャーのセンスは申し分なかったのですが、いかんせん、ピンチョンの作品です。見ているうちに何についての話なのか、案の定、わからなくなってしまいました。形式上、フィルム・ノワールです。舞台がカリフォルニアで主人公が私立探偵で事件のミステリーに巻き込まれるので。ノワールの全盛期は40年代ですが、それが70年代だとどうなるか、なんて期待してみてんたんですけど、着地点がわからなかったというか。さすがのPTAでも相手がピンチョンとなると、手こずってしまったか。でも、この作品以降の作風への影響はこの映画からは感じられるんですよね。頭から終わりまでの一貫した物語の筋ではなく、エピソードをつなぎとめていくことでの行間から感じさせる作風。それを感じるようになったのはここからですね。
8.Hard Eight (1996)
8位はデビュー作です。1996年の「ハード・エイト」。これはシドニーという名のベテラン・ギャンブラーが、カジノでどうしようもない若者連中に優しさから声をかけてしまって、トラブルに巻き込まれるんですけど、でも、なんとかできるほどかなりしっかりした人だった、というお話。PTA映画全体の傾向でもある「ダメな人たちの人生の悲喜劇への優しい目線」はもう、この時点からアイデンティティが出来上がっていて、初期PTA作品を彩ってきたジョン・ブライオンによる不協和音的バロック・ポップが怪しげに美しくストーリーと溶け込む様も、どう見てもPTAでしかありません。この時点で新人ながらかなり話題になっていた、という話も今から考えればよくわかります。ただ、「現在のノワール作家」みたいなものに収まるには、PTAの映画は文学的な資質が強くて、それでは小さすぎるのかなと、のちの映画を見て思う次第です。主演を演じたフィリップ・ベイカー・ホール、ジョンCライリー、フィリップ・シーモア・ホフマンはしばらく彼の映画の常連にもなります。
7.The Master (2012)
7位は2012年の「ザ・マスター」。これはホアキン・フェニックス扮する元第二次世界大戦の兵士のカメラマンが、新興宗教団体に入信するも、あまりにも破天荒すぎて、グルのパワーが及ばないほどだった・・とい感じの話です。なんというか「ナントカにつける薬はない」というか、そういう感じがしてコメディ的に観れたものでした。これ、宣伝の時点では、フィリップ・シーモア・ホフマンが演じたグルがサイエントロジーの教祖をモデルにしているということもあり、もっとサイエントロジーに踏み込んだ内容になるのではないかとの予想だったんですね。その見る前での期待感からするとちょっと「えっ、設定だけなの?」という期待はずれな観はなかったといえば嘘になります。この映画、どちらかといえばホフマンより、助手のエイミー・アダムスの方が、ぱっと見優しいんだけど、この人の方が実はじわじわ怖くて、そこも良かったですけど、やっぱり後ろ向いて足あげて物壊す時のホアキンの爆発力が一番だったかな。ただ、ホフマン的にはこれが生前のかなりラストに近い作品なので、その意味で感傷的にはなってしまいますね。
6.Punch Drunk Love (2002)
6位は「パンチ・ドランク・ラヴ」。これは、この当時、というかいつでもそうですが、ナンセンスでお下劣な主演コメディ作っては叩かれまくっていたアダム・サンドラーを主演に据えたロマンティック・コメディ。それで相手がイギリス切手の実力派女優のエミリー・ワトソンですからね。それだけでもかなり不思議な組み合わせではあったんですが、功を奏させてしまうところがPTAの腕の見せ所です。女性上位家庭でコンプレックスを持って育ち恋愛ベタでキレやすい主人公が、コールガールのトラブルでヤクザまがいの連中に追われ、ドタバタしながらも、心優しい包容力あふれる女性と凸凹ながらに結ばれる。それだけの話なんですけど、ダメ男の七転八倒と、ジョン・ブライオンのロマンティシズムとミステリアスな音楽が絡めば、たちまちPTA流になってしまうところがさすがです。この前の2つが長尺映画で、そこにいきなり90分のシンプルなこれが来たので、感覚的には良質短編映画の趣さえ感じるんですけど、その方の抜け具合が心地よいです。
5.Phantom Thread (2017)
5位は2017年作の「ファントム・スレッド」。これは、これまでのPTA作品の中ではちょっと毛色違いますね。そして、さらに言うと、「何についての映画だろう?」と戸惑うものでもあります。ダニエル・デイ・ルイス扮する50年代の架空のイギリス人デザイナーの伝記風にも一見見せてるんですけど、直接的にそれを描いているとは思えない。モデルになった人はいるらしいんですけどね。むしろ、ルクセンブルクから発掘してきた女優、ヴィッキー・クリープス扮する静かな奥さんとの奇妙な恋愛を描いたものです。どっちに話の焦点があるのかいまいち不明瞭なんですが、それがゆえにそれが今ひとつ気持ち悪い人もいれば、僕のように、「人生と恋愛、両方描いていて話として複合的で面白い」と思う人も絶対いると思います。ロマンスものとしては、結構ないパターンで面白いんですよね。だって、夫婦仲が険悪になると、旦那のアレルギーが出るものを料理で出して、食あたりで苦しむところの看病で愛を育むのって(笑)。変な話なんですけど、妙にクセになるんですよね、これ。
4.Boogie Nights (1997)
4位は「ブギーナイツ」。多くの人がPTAを知るきっかけとなった映画です。ある意味、彼の映画アイデンティティの原点だし、この映画の中で描かれている要素が「PTAらしい」と呼ばれ得るものだと思っています。とことんダメな人の人生、70年代、徹底した時代考証、パーフェクトな選曲センス・・・こういう要素が一つでも好きなら、PTAの映画、基本的に誰でもハマれるんですよね。この映画はまず設定がいい。「アンダーグラウンド・カルチャー」なんて言っても、例えば60snアンディ・ウォホールのファクトリーなんてオシャレ・イメージで神格化されがちですけど、70sのポルノ業界なんてこの映画が公開されて四半世紀経っても知る人ぞ知る世界。そこで精一杯生きた人たちの、あまり賢いとは言えないドタバタした悲喜劇を、酔狂のパーティ・ライフの70s後半から、そうした現実がアメリカのバブルの崩壊と同時に弾けた80sまでを、正しい時代認識に照らし合わせて栄枯盛衰を描く手腕が見事です。また、一瞬で消えたと思われていたマーキー・マークことマーク・ウォールバーグの役者としての開花やかつてのドル箱名優バート・レイノルズの復活、そしてホフマン、ライリー、そしてジュリアン・ムーアといった後の名優たちの助演と、演出で奇跡的な手腕を見せてもいます。
3.Licorice Pizza (2021)
そして3位に「リコリス・ピザ」です。「ブギーナイツ」より上にしたのは、ちょっと冒険しすぎかなとは自分でも思わないではないんですが(笑)、PTA自身にゆかりのある二人の新人役者、クーパー・ホフマンとアラナ・ハイムの演技のキャリアをローンチさせただけでなく、ロマンス枯れが目立つ昨今のハリウッドに対し、まだ「恋愛」という題材に有効性、可能性があるのだということ一石がを投じるが如く実例として示した意味で、これ、彼の作品だけでなく、映画界全体にとっても意義のある作品として、長く愛されるものになるんじゃないかなという予感がしています。基本的にPTA、「パンチ・ドランク・ラヴ」「ファントム・スレッド」もそうですけど、見事なロマンスものの名手ですよ。あんまり、そんな風には評されませんが。あと、先日のレビューで触れ損ねたんですけど、これ、サントラ・センスがすごくいいんですよ。その点ではさっきの「ブギーナイツ」に近いですね。すごく70sのアメリカのロック系のラジオ局の黄金期そのまんまというかね。僕がパッと思い出すだけでもウイングスとかボウイがすごく記憶に残る使い方されていて、音楽ファンならそこだけでも十分酔えます。
2.Magnolia (1999)
ここまでの作品も本当に素晴らしんですけど、上位2つは、もう「文学」の領域に入り込んでさえいる意味で、やっぱり強いです。2位は「マグノリア」。PTAの存在を映画界に一気に知らしめた、3時間にも及ぶ長時間サーガですね。これ、ロサンゼルスに住む、9人の、一見バラバラな人たちの人生が実は、ある一つの老舗のクイズ番組を中心として一つにつながっている、という構成がまず見事です。その主人公たちがいずれも人生で「こんなはずじゃなかった」と混迷を自分の内側に抱えて生きてるんですけど、その一つ一つの例が極端で独創的なのが光ります。トム・クルーズが演じるテレビでナンパ学みたいなのを教えるグルなんて設定、なかなか思いつかない奇想天外なものだし。当時、キューブリックの「アイズ・ワイド・シャット」などでイメージ変えたがっていたトムの冒険期を代表した最もエッジィな役立ったと思います。あと、トムのもそうだし、クイズ番組の裏側もそうですけど、メディアの影響力の負の部分だったり、そこにまつわる人々の世知辛さなどは、PTAが参照にしたというシドニー・ルメットの名作「ネットワーク」を彷彿とさせますね。そんな話の結末が、村上春樹の「海辺のカフカ」もびっくりなカエルの雨というところにもシュールな文学性を感じさせます。こうしたことのインスパイアのもとが、彼自身が大好きなエイミー・マン(スコア担当だったジョン・ブライオンの元恋人でもある)の歌だった、ということにも唸らされます。劇中でキャストみんなが歌う「Wise Up」って曲、元はトム・クルーズの「エージェント」の挿入歌という偶然もあるんですけどね。今、HAIMに熱を上げてるPTAですが、HAIMの曲から映画までに発展するものは生まれるかな。
1.There Will Be Blood (2007)
そして1位はやっぱりこれです。「ゼア・ウイル・ビー・ブラッド」。2008年のオスカーでコーエン兄弟の「ノー・カントリー」とともに最多の8部門にノミネートされ、作品賞や監督賞などで敗れはしたものの、それでも主演のダニエル・デイ・ルイスが主演男優賞を受賞するという、PTAのオスカー史上、現時点での自己ベストを記録した作品になっていますね。これは20世紀前半を舞台に、油田採掘の企業家ダニエル・プレインヴューを描いた物語なんですけど、「これまで歴史で記されてこなかった、尊敬できない馬鹿野郎の伝記」のような趣があるんですよね、これ。僕が最初に見た時にパッと思いついたのは、スタンリー・キューブリック1975年の傑作「バリー・リンドン」なんですが、その映画との類似性を指摘する声も当時からあったし、また「市民ケーン」と比較する人もいましたね。それくらい、「反面教師」としての伝記文学としての趣、この作品、非常に強いですね。このプレインヴューの、耳が聞こえなくなった息子を足手まといとばかりに電車に置き去りにしたり、都合の悪いやつ殺したりする利己主義ぶりはまあ褒められたもんじゃないんですけど、彼と、油田開発と宗教で町おこしを企むポール・ダノ扮する若き宗教家との絡みがまた奇妙でね。ルイス、ダノともに、常軌を逸した男の役演じさせたら恐怖の領域なんですけど、この2人が最後、ボーリング場で口論して、よりによってボーリングのピンを武器にして暴れるなんていうのも、「なんだこれ?」なんだけど(笑)、あれも一回見たら二度と忘れないシーンですしね。PTAがこれまで得意にしてきた「ダメ野郎の人生」の最初の集大成がここだと思います。なお、この映画から音楽担当がレディオヘッドのジョニー・グリーンウッドに変わってますけど、ここからがPTA映画の第二幕だというのが僕の解釈です。
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