2010年代ベスト・アルバムを終えて、音楽シーンを振り返る
どうも。
いやあ、2010年代ベスト・アルバム、楽しかったけど、疲れましたね(笑)。やっぱ、100枚選んで、50枚レヴュー書くって、好きでやってることではあるけど、結構な労力ですよ。このあと、今年の年間にすぐ行こうかとも思ったんですが、ちょっと疲れたのでいったん休ませてください(笑)。来週は月曜にゴールデン・グローブのノミネートもあるし、今週からオスカーに向けての前哨戦の結果も出てきているので、週末から週明けはそっちやって、それ済んでから年間ベスト、行かせてください。
それにしても楽しかったなあ。改めて、トップ100見てみましょう。
こうやって、改めて見てみると、いいアルバム多かったなあ、と思います。やはり、10年単位でこうやって見ると、100枚以上、いいアルバムがあるものですねえ。
今回は、「では、2010年代は音楽にとっていい時代だったか?」について、語って行きましょう。
①音楽のリスニング環境
今回は、いくつかの項目でチェックして見ることにしましょう。やはり、そうして見ないことには、たしかなことは言えないと思うので。
まずは、「音楽のリスニング環境」、これについての見解を述べましょう。この10年でCDの時代が終わり、サブスクの時代へと本格的に移行しましたけど、これに関しては
素晴らしいことだと思います!
なぜなら、リスナーにとって、お金のリスクを考えることなしに、世界中の多様な音楽を聞くことができるから。しかも、時代やじゃんるも全く関係なしに。長年の音楽ファンの立場から言わさせてもらうと、こんなの夢ですよ!
たとえば、上にあげた2010年代ベストだって、「CDで買う」ということで選んでいたら、こんなバランスにはならなく、僕のもっと昔からの癖みたいな感覚で無意識に選んでいた思うから。こういうことができるのも、やはり、「いろいろな音楽をリスクなく聴いてみたい」と思うリスナーの気持ちに答えるメディアが出来たからこそだと思うんですよね。たとえばツイッターでいろんな方の2010年代ベストも見させていただいているんですけど、やっぱり一昔前のマニアの感覚からしたら、ずいぶん音楽聞く範囲が広くなって見えるんですよね。たとえばこれが90sだったとしたら、絶対こんなことは起こらなかった。マニアであればあるほど、ひとつのジャンルの専門性に特化する方向に行きましたからね、あの時代は。そこへいくと今は、いろんな人が、それがたとえつまみ食いであったとしても、とりあえずいろんなジャンルに手を出している感じがあって、その上で包括的に物が見れるようになっている感じがする。これはすごいことだと思いますよ。
②流行りの音楽について
①の観点でいくと、僕自身は「音楽マニアにとってはいい時代」ということにします。この点で言えば、90sの前半の「CD再発ブーム」で廉価で過去の名盤があされた時代、あれに匹敵するとさえ思っています。
では、今度は、「マニアにはいい時代」でも「マニアじゃない、一般リスナーにとっていい時代だったか」についてですけど、それに関しては
NO!
と言っておきます。これに関しては、残念ながら、歴代でもかなり悪い年代だったように思います。
これ、ひとえに、アメリカの業界が全部悪いと思うんですけどね。ひとつ、「これがウケる!」と決めたら、同じようなものばかりを売ろうとして、ラジオのエアプレイとかがそれ一色になっちゃう。前半のEDMがそうだし、後半のトラップ、エモ・トラップがそう。すごく大量生産的というか。ヒットチャートがそれ一色になってしまう現象ですね。
たとえばこれが80sの前半とかだと、チャートの中で本当に多様なものが流行ったんですよ。マイケル、プリンス、マドンナって言われやすいですけど、それだけじゃなく、ニュー・ウェイヴも、メタルも、ブルース・スプリングスティーンとかブライアン・アダムスみたいなハートランド系って言われたロックも、シカゴとかエア・サプライみたいな、その当時の大人が好んだアーバンなバラードも。チャート上にも、アメリカ、イギリス、オーストラリア、時にはドイツとか北欧のアーティストまで混じってね。こういう体験があったからこそ、僕に近い世代の洋楽ファンって、ジャンルにこだわりなく聞ける体質なんですよね。
若い子だと、さっきも言ったような、音楽マニアのレベルになると、サブスクとかネットの情報駆使して聴く幅を増やすことが可能なんですけど、「流行りものさえ聴いてりゃいい」というマインドの人は、その流行り物の傾向が偏っているので、そのままになりがちなんですよね。そこはすごく問題だと思います。
加えて、それに一石を投じるようなカッコいいものがなかなか出てこない。これも問題ですね。たとえば90sだと、ニルヴァーナ、パール・ジャムを筆頭としたグランジ/オルタナティヴのブームがあって、レッチリだ、グリーン・デイだ、とばかりに巨大なロックのカルチャーが出来て、アルバム・チャートなら長期で上位を独占したんですよ。だから、シングル・チャートがどんなにつまらないものでも、「自分らにはこっちがあるし」と気にせず、好きな音楽聞いて、共有できる友人も少なくない環境だったんですよ。
ところが、2010sのヒットチャートって、シングル見てもアルバム見ても、「これだけなんか違うよね」という、刺激的な異物が少なかった。そこは問題だったかな、とは思います。
たとえばR&B/ヒップホップだと、フランク・オーシャンとか、ケンドリック・ラマー、ウィーケンドあたりから潮流ってガラッと変わったとは思うんですけど、あのジャンルの昔からの悪い癖で、すぐに同じようなもの、同じプロデューサーの作品がチャートに並ぶようになるでしょ。あれ、90s後半くらいからのひどい癖なんですけどね。
それ以外だったら、やっぱりビリー・アイリッシュかな、とは思うんですけど、まだ、存在が特殊すぎるからなのか、同じような形でポジティヴな方向でなにか変えるような流れって出てきてはないわけでね。
あと、勢い、マーケッティングが子供寄りになりすぎて、他の世代が入って行きにくい感じになっているのも問題ですね。99年とか2000年くらいの感じ思い出しますね。ブリトニーとかBSBとか流行ってた、あの時代ですね。あれに近い。
だから、どんなにマニアの中で絶賛の評価されても、それが一般に伝わらない悲しい事態も起きるんですよね。たとえば、今、もう、いろんなメディアで年間ベストの発表はじまってますけど、それで軒並み上位のエンジェル・オルセンが全米でトップ50、ビッグ・シーフがトップ100にも入らない状況なんですよ!
やっぱり、「新鮮味を失った似たような音楽ばかりが流行って、評判のいい音楽が商業的に食い込める場所を失っている」、そのような状況を僕は「良い音楽シーン」とは呼びたくないですね。
③音楽は「時代を象徴している」か?
続いて、「音楽が時代を映す鏡たりえているか」についてです。「歌は世に連れ」とは言ったもので、その音楽を聴くことで、その時代の世相まで見えてくる。そういうことが起こる時代も、僕はシーンの良し悪しを図る材料にしてるんですが、そこに関しては
そこそこいい時代だった
と思います。
それはやっぱり、「女性や、黒人がはっきり自己主張を行えている、エンタメ的にはかなりリベラルな時代だった」と思いますので。
それが別にポリティカルなものである必要もないと思いますが、女性アーティストによる、気持ちを鼓舞するような曲、いっぱいあったでしょ?それがビヨンセでも、テイラー・スウィフトでも、ケイティ・ペリーでも良いと思うんですけど。ああいう、「エンパワメント」って言葉で言われるたぐいの音楽が流行ったことはいいことだと思ってます。マドンナが30数年前に撒いた種が育ったような感じもするので。「メッセージはよくても、曲そのものはつまんないダンス・ミュージック」みたいなものがもっと減ればさらに良いとも思いますけど(苦笑)。
あと、「事件が起こってしまった」「保守反動が強くなった」というネガティヴな社会背景があるのは残念なことだとの前置きもありつつも、ケンドリック・ラマーとかJコールみたいなソーシャル・メッセージがあるヒップホップが大衆的な支持を受けることもすごく良いことだと思います。僕は90s前半にパブリック・エネミーとスパイク・リーの映画で黒人の人種差別問題に目覚めて、公民権運動の頃の文化とか、60s後半から70s前半にかけてのソウル・ミュージック、そしてリアルタイムのヒップホップもトゥパックとビギーが殺されるまでは掘り下げた時期があったものですけど、その時のことを思い起こさせるようなことが起こっているのはやっぱり嬉しいですよね。
あと、トランプ政権の時代もあった割に、妙な愛国右翼ソングが流行らなかったのもホッとしてます。これが2001年以降、しばらくあった、あのブッシュ政権初期に比べたらずいぶんマシですよ。今思い出しても3ドアーズ・ダウンの曲とか、吐き気しますからね。トビー・キースとか。トランプの就任式しか仕事なくなってましたけど、ああいうのが目立たなくてよかった。ただ、密かにクリスチャン・ミュージック暗躍の動きもあるので、気にはなってますけどね。
・・ということで、総合すると
問題はあるし、改良の余地はあるけど、悪くはない
そんな時代だったかな、と思います。
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