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「ストリーム時代に世界で本当に聴かれているアルバム」 20世紀編(後)

どうも。

昨日、反響大きくてびっくりしたんですけど、今日も昨日の続き、行きましょう。題して

ストリーム時代に世界で本当に聴かれているアルバム


これですね。

今日は1988年から2000年まで、20世紀の残り13年分のアルバムについて見ていきますが、昨日と条件は全く同じです。

①1000万ストリームの収録曲が8曲以上ある
②収録曲が8曲以下の場合は、収録の80%以上で1000万ストリーム
③1000万ストリーム7、ないし6曲で、900万ストリームの曲が1曲ないし2曲ある

これが条件となります。

では、まずは1988年と89年を見てみましょう。
88
And Justice For All/Metallica
Straight Outta Compton/NWA
Tracy Chapman/Tracy Chapman

 
 
89
Disintegration/The Cure
Bleach/Nirvana
Doolittle/Pixies
The Stone Roses/The Stone Roses

はい。早速、時代が変わりそうな雰囲気、漂わせてますね。

まずはNWAの「Straight Outta Compton」。これが黒人にとってのヒップホップにとって最初のエントリー作ですね。ランDMCだと記憶が遠すぎ、パブリック・エネミーよりもよりストリートに生きる等身大の黒人の怒りや不満が感じられる分、よりリアルに感じるのかな。もちろん2015年の栄華の影響もあるとは思うんですけど、ここからは音楽シーンがこれまで通りでなくなってますね。

この時期、いろんな意味で分岐点で、キュアーみたいなダークなカリスマも入ってるんですけど、やはり89年のUKがストーン・ローゼズ、USがピクシーズの、その後の両国のインディ・ロックの金字塔というか、「ここから何かがはじまる」感じが濃厚ですね。

ローゼズ、人によっては「日本とイギリスのみの名盤」と思っていらっしゃる方もたまにいますが、全然そんなことありません。立派に伝説の名馬な使いですよ。

日本だとピクシーズ、ソニック・ユースやダイナソーJrと変わらない印象で語られてますけど、スポティファイ上、全くそんなことありません。ソニック・ユースはキャリア通じて1000万ストリームがやっと8曲程度。ダイナソーに関してはわずか3曲。ピクシーズ、このアルバムだけで10曲ある上に、一作前には6億ストリームの「Where Is My Mind」ですからね。「ファイトクラブ」効果は凄まじい!

あと、ニルヴァーナが前倒しで入ってたり、かなり意外なとこで「Fast Car」のトレイシー・チャップマンがあったりしますね。


 
90
20 Años/Luis Miguel
Canción Animal/Soda Stereo

「これは一体何?」と思われた方も少なくないかと思われます。そう思ったので、今回の対象外にしようかとも思ったんですけど、あえて入れてみました。
 これはですね、左がアルゼンチンのソーダ・ステレオというバンド、右がルイス・ミゲルというプエルトリコのアイドルです。これがなぜ入って、どう重要なのかというとですね、スペイン語圏では80年代、ロックバンドとアイドルが台頭したのを契機に、これまでそれぞれの国で聞かれていたものを、スペイン語圏で統一しようという動きが起きたんですよね。人気者はツアーを中南米やスペインでやってそこら中で人気となる。まさに、今のレゲトンがスペイン語圏のどこでも人気なののルーツがここで築かれた「スペイン語音楽マーケット」の上にあるわけです。

ソーダ・ステレオはすごくかっこいいバンドです。センスも抜群。80sはポリスみたいなバンドだったんですけど、このアルバムは「グランジより先にグランジをやったアルバム」として伝説化してます。ルイスの方は、、これを皮切りに90年代、スペイン語のバラードの王子になります。もう破格の人気で、90年代に彼のアルバムがたくさん入ってきますよ。


91
The Low End Theory/A Tribe Called Quest
Use Your Illusion I&II/Guns N Roses
Romance/Luis Miguel
Dangerous/Michael Jackson
Metallica/Metallica
Nevermind/Nirvana
Ten/Pearl Jam
Blood Sugar Sex Magic/Red Hot Chili Peppers
Achtung Baby/U2

 
92
Dirt/Alice In Chains
¿Dónde Jugarán Los Niños?/Maná
Vulgar Power Of Display/Pantera
Rage Against The Machine/Rage Against The Machine
Love Deluxe/Sade

 
 93
Aries/Luis Miguel
In Utero/Nirvana
Siamese Dream/The Smashing Pumpkins
Doggystyle/Snoop Doggy Dog
Enter The Wu Tang/Wu Tang Clan

で、いよいよやってきました!

いやあ、壮観ですね。グランジのアルバムが目白押し。ニルヴァーナ、パール・ジャム、アリス・イン・チェインズ、そして本当はサウンドガーデンが良かったんですけど、93年までに条件を満たすアルバムがないので、代わりにスマパンを。僕は彼ら、グランジとしてアリですけどね。

そして、その一方ではミクスチャー。そんな言葉は欧米にはないのでファンク・メタル、ラップ・メタルでしょうか。レッチリにRATM。まあ、グランジと並んで、オルタナティヴ・ロックの大きな柱のひとつですよね。

こういう感じのものに押されて、メタル、これまでの全盛から影が薄くなって、メタリカ、ガンズの孤軍奮闘に、パンテラみたいなオルタナ以降のサユンド感覚(それ言ったらメタリカもグランジ意識したから、そうですが)をもったものが強くなりますね。

で、この時期にATCQのセカンドとか、ウータンのファーストみたいなヒップホップのマスターピースが顔を覗かすようになってきます。スヌープのファーストもかな。ヒップホップが名盤カルチャーに定着していきます。


あと、Manáは「マナー」と、ナーの部分を高くして発音するんですけど、これはメキシコの人気バンドです。この人たちはビルボードのアルバム・チャートの上の方に入ってきてたので、当時から知ってました。

94
Dookie/Green Day
Grace/Jeff Buckley
Segundo Romance/Luis Miguel
Merry Christmas/Mariah Carey
Illmatic/NAS
Ready To Die/Notorious BIG
Definitely Maybe/Oasis
Smash/The Offspring
The Division Bell/Pink Floyd
Dummy/Portishead
Amor Prohibido/Selena
Weezer/Weezer

95
Me Against The World/2Pac
Jagged Little Pill/Alanis Morissette
No Need To Argue/The Cranberries
(What's The Story) Morning Glory?/Oasis
The Bends/Radiohead
Herzeleid/Rammstein
Pies Descalzos/Shakira
Mellon Collie And The Infinite Sadness/The Smashing Pumpkins

96
All Eyez On Me/2Pac
The Score/Fugees
Sublime/Sublime
Aenima/TOOL

ここは語ること多いなあ〜。

この当時はなんか西海岸がやけに強いですね。グランジのバンドも、ミクスチャーのバンドも西でしたけど、このグリーン・デイ、オフスプリング、ウィーザー、サブライム、みんなカリフォルニアですからね。この中でデビュー直後だったかなフロントマンが急死した悲運のバンド、サブライムが伝説化してるあたりは興味深いですね。

この頃、日本といったら燃え盛るブリットポップ・ブームだったんですけど、国際的には本当にアメリカ押せ押せ。ただ、その中でもオアシスは実はアメリカはじめ、いろんな国で人気がありまして、それに次ぐ人気がレディオヘッドだったんですよね。早くからアメリカ受けが良くてね。その意味では、ブラーとは対照的でしたね。

そしてヒップホップではトゥパックとビギー・スモールズによる東西対抗ですよ。もう間違いなく、この2人の抗争あたりでヒップホップ全体のセールスが跳ね上がったものだし、2人してベスト盤も非常によく売れることからともに長きにわたってレジェンダリーなカリスマ化してますね。ラッパーとしては今日に至るまで間違いなく5本指に入るカリスマですしね。

そして、女性アーティストもたくさんいたものですけど、今回の条件を満たすアーティストは少なくて、アラニスとクランベリーズだけでしたね。ビヨーク、PJハーヴィー、フィオナ・アップル、トーリ・エイモス、ホール、リズ・フェアー、ガービッジ、ノー・ダウト、カーディガンズ・・・といろいろいたはずなんですけどね。まだ、女性アーティストがロックに至ってまでも「アルバム」でしっかり聞かれることが少なかったのかなと思います。

また、ラテン・ミュージック界に象徴的な女性が出た頃でもありました。ひとりは、アメリカで英語デビューする直前に殺人事件で亡くなったメキシコ系アメリカ女性のセレーナ。あと、当時まだ18歳でコロンビアからデビューしたシャキーラ。一方が世を去り、一方が世に登場。なんか因縁を感じますけどね。

あと、女性といえば、ローリン・ヒルがフージーズで注目されたのもその頃ですね。

さらにもう一人女性でいえば

あの当時、シングルで売れまくってたマライアが、クリスマス・アルバムのみでエントリーです。これ、マライアに限らず、ホイットニー、ジャネット、さらにマドンナまでそうですけど、アルバムだと、どうしてもシングル曲に集中する傾向が強くてまとまって聞かれてないんですよね。TLCやメアリーJブライジにしてもしかり。まだ、女性ポップ・アーティストの聞かれ方がラジオとかでのシングル曲中心だったのかな、と思わされます。この辺りの感覚がどう変わったかは、21世紀編の大きなテーマでもあります。

そしてイギリスのクラブからポーティスヘッド、アメリカのオルタナティヴ・メタルからTOOLという、全く異なったバックグラウンドから、ダークでヘヴィな時代のサウンドトラックが生まれていたのもすごく興味深いものでした。ナイン・インチ・ネールズでも可なんですが、意外とストリーム少なかったんですよねえ。あと、奇遇なことにピンク・フロイドのこの年発表の晩年作もエントリーしてますね。

でも個人的には

やっぱ、ジェフ・バックリーの「Grace」ですね。なんかニルヴァーナからレディオヘッドへのバトンタッチを、神がかった尊い奇跡の歌声でやったようというか。早逝が惜しまれたものですが、しっかり伝説化していることは、今日の聞かれ方でも明らかです。
 
 
97
Buena Vista Social Club/Buena Vista Social Club
Around the Fur/Deftones
Romances/Luis Miguel
Life After Death/Notorious BIG
OK Computer/Radiohead
Sehnsucht/Rammstein
Come On Over/Shania Twain
Third Eye Blind/Third Eye Blind
The Colour And The Shape/Foo Fighters*

 
98
The Miseducation Of Lauryn Hill/Lauryn Hill
Clandestino/Manu Chao
Mezzanin/Massive Attack
Garage Inc/Metallica
In The Aeroplane Over The Sea/Neutral Milk Hotel
Americana/The Offspring
Dónde Están Los Ladrones/Shakira
System Of A Down/System Of A Down

まあ、ここはお約束のOK Computerのあるとこですね。

あとはやはり

やっぱりローリンですよねえ。彼女の才能と主張、東西抗争でパックとビギー失ったヒップホップ界の希望だったものでした。ただ、そんな希望のはずだった彼女自身がこの後、まさか失速することになろうとは・・。

あと、この時代、ミッシーとかアウトキャストとか音楽的才人、、いたんですけど、ここにエントリーしなかったのは惜しいなあ。R&Bでもエリカ・バドゥ、さらにディアンジェロも結局入ることはありませんでした。

あと、カントリーの世界から、ここまで通じて初めてエントリーしたシャナイア・トウェイン。彼女の音楽がカントリーかどうかは置いておいて、歌詞が命のカントリー・ミュージックにおいて、女性のエンパワメントを表現する、その意味ではテイラー・スウィフトの10年前に彼女がいた、というのは可能なのかな、とも考えてしまうわけです。

ブエナ・ヴィスタ・ソーシャル・クラブに元マノ・ネグラのマヌ・チャオ。商業化されたラテン・ポップでない、古くからの民間の伝承音楽のグルーヴが突然時代の顔になるような思わぬ嬉しいこともこの時代にはありました。

あと、サード・アイ・ブラインドのこれが入ったのは正直意外。今聞くとオルタナ・ギター・ロックを基調とした、ウェルメイドなロックなポップ。マルーン5じゃなく、こっちがポップの代名詞になればよかったと思ってます。

それから、ドイツのニュー・メタルの鬼才、ラムシュタインが2作連続でエントリー。この頃、TOOL、デフトーンズ、システム・オブ・ア・ダウンと、西海岸のニュー・メタルが勢いを増していく中、ドイツでひとり異彩を放ち独自の道を入っていた彼ら。アメリカでのニュー・メタルがブームとして下火にある中、向こう20年で勢いむしろ増してきてるのは、我関せずの独自な奇妙さと神秘性を保っているからなのでしょうか。

でも、ここでやはり最大の異彩を放っているのは、ニュートラル・ミルクホテルのこのアルバムですね。この時代、アメリカでのロックの主流がニュー・メタルやポップパンクに流れる中、昔ながらの地方都市の手作り感覚のインディで作品的に最も輝いていたのがこれですね。「アンネ・フランクがナチスに殺される前に助け出したい少年のタイム・トラベル・ロマンス」。エレファント6がうんうんかんぬんのジャンル的なことより、こうしたロマンティシズム溢れる愛すべき文学性の方がはるかに大事です。
 
99
Millennium/Backstreet Boys
Enema Of The State/Blink 182
2001/Dr.Dre
Slim Shady LP/Eminem
Make Yourself/Incubus
Significant Other/Limp Bizkit
Play/Moby
Californication/RHCP
Slipknot/Slipknot

 
 
00
Parachutes/Coldplay
White Pony/Deftones
The Sickness/The Disturbed
Marshall Mathers LP/Eminem
A Day Without Rain/Enya
Chocolate Starfish And The Hotdog Flavored Water/Limp Bizkit
Hybrid Theory/Linkin Park
Kid A /Radiohead
 

いやあ、この年はしんどかった・・・。

あの悪夢としか思えない狂気の沙汰のウッドストック99。あれの主役たるリンプビズキットが2年連続2枚あるだけで、状況わかるというものです。

リンプの他にも

今、まさにフィービー・ブリッジャーズがライブのオープニングに使ってるディスターブドのこれとかもですね。これの「Down With The Sickness」と言う曲を自分の「Motion SIckness」につなげるんですけどね。

 ただ、この2年みたいなノリは長く続いたわけではなくて。デフトーンズとか、インキュバスとか、そんなマッチョ方向に訴えないタイプもいることはいたんですけど、決め手となったのは

やっぱ、これだったかな、と思いますね。レッチリもかな。


あと、空前のアイドル・ブームを、ポップパンクのバンドがからかう、といったようなことが起こった頃でもありましたね。アイドル・ブーム、インシンクとかブリトニーとかあったはずなんですけど、BSBしかエントリーがないですね。このあたりの事情も21世紀編で話しますね。

 まあ、アイドルからかってたのはブリンク182だけでなく

エミネムもでしたけどね。まあ、彼の場合は軽い風刺もできて、かつ時代の暗い部分にも切り込め、かつスキルも文句無しでしたけどね。いまだに、今のうちの子みたいなキッズにはヒップホップ初心者向けで通用する、R&Bにおけるマイケル・ジャクソンみたいなわかりやすさとカリスマ性があるんですよね。

あと、日本のフェスではケミカル、プロディジー、ファットボーイ、アンダーワールドが四天王で盛り上がったのに、彼らは全く入らず、モービーのこれが入ってるところも、なんからしいというか。アメリカ市場の攻略に関して、このアルバムの方が完全上手でしたからね。ただ、続きませんでしたけど。

そして締めに

コールドプレイのこれですね。レディオヘッドが「Kid A」での気鋭の実験性で尊敬されるバンドになっていた傍らで、それと引き換えに失ってしまった
、レディオヘッドがアメリカ進出当時に持っていた繊細な歌の力、これで思い切り勝負して受けてしまったのがコールドプレイだったんだと思ってます。

・・という感じでしょうか。日にちおいて、今度は21世紀編。こっちは対照作ではなく、それぞれのジャンルで「聞かれるアルバム」が生まれるようになった時期についての考察です。






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