「バービー」こそ、ミレニアム・リバイバルの最たる映画だ!
どうも。
まだ、エンタメ界の話題をバービー独占中ですね。日本でも全体はどうかはよく知らないですが、SNS見る限りではコアな映画ファンには刺さってて、かなり熱っぽく評論はされているように感じます。
いろんなことは語られ尽くしているかと思いますが、今回は「ここがまだあまり語られてないな」と思うところに言及したいと思います。
それはですね、このバービーが
ミレニアム・リバイバルの映画であるということです。
この映画、今を代表する映画、つまりZ世代的な感性に訴えているタイプの作品ではあるとは思います。Z世代とは、定義によりますと、1997年から2010年生まれの人たちのことを指すのですが、ミレニアム世代、別名Y世代は1981年から1994年生まれまでの人たちがそこだと一般的に定義されています。
ミレニアム世代の流行りというのが何時頃から出だしたかというと、90年代の後半から2000sの後半くらいですね。音楽でいうと、ロックならグランジ四天王の時代が終わってオルタナティヴ・ロックがかなり商業的になる、ヒップホップだったら2PacとノトーリアスBIGが暗殺されて以降、イギリスだとイメージとしてはスパイス・ガールズ現象とビッグビート始まるあたりかな。ブリットポップだとさらにその前のX世代と時期によって共有する感じでしょうか。
そのミレニアム世代の最たる例と言えば、バービーだとこれですね。
ケンが後半、バービーに歌い掛ける「Push」という曲ですね。これは「男はおだてると4時間でも歌い続ける」という皮肉の効いたジョークとともに描かれるわけなんですけど、これの元ネタは何かと言うと
https://www.youtube.com/watch?v=HAkHqYlqops
マッチボックス・トウェンティの曲なんですね。これは1997年の大ヒット曲。これ、当時のアメリカでは本当によくかかってきた曲です。あの当時のビルボードの変な決まりでシングル盤出してなかったのでシングル・チャートには入ってなかったんですけど、ラジオ・エアプレイでは5位まで上がってるので実際にはそのくらいのヒットと思っていただいていいです。
実はアメリカって国は、70sのリバイバルでもそうなんですけど、暗い時代を振り返るの嫌いなんですね。70sのリバイバルでも前半のベトナム戦争のヒッピーの時代は振り返らずに、1976年以降の、反動的にすごく派手に明るくなった時代を懐かしがるんです。スター・ウォーズとかチャーリーズ・エンジェルとかサタディ・ナイト・フィーヴァーがそうであるようにね。
90sもそれは同様です。グランジやギャングスタ・ラップのマジな頃だと振り返るには重いんです。だから音楽的には良い時代なんですけど、そこはリバイバルの対象にはなりにくい。したがって、一方ではバックストリート・ボーイズやインシンクみたいなアイドルが出だして、ヒップホップも殺伐とした内容避けてポップになって、そしてロックでは一方でポップにマイルドに、一方ではヴァイオレントでやんちゃな感覚をキッズが消費する、そういう感じのものが好まれた。ミレニアム世代の音楽はそんな感じですね。
これがまず、すごく「ミレニアムだなあ」と思ったんですけど、それは
監督のグレタ・ガーウィグの趣味に他なりません。彼女、生まれは1983年。その生まれたタイミングそのものがミレニアムの只中にあるんですけど、彼女のこれまでの映画で印象的にかかってた曲もこれ、思い切りミレニアムなんですよね。
実質的なデビュー作となった「レディバード」でも、デイブ・マシューズ・バンドの「Crash Into Me」とかアラニス・モリセットの「Hand In My Pocket」がかかってるんですよね。これも1996から97年にかけてくらいのヒットです。グレタがちょうど中2くらい。人が一般に思い出の音楽年打てあげるのって、大概それくらいの年齢の頃が多いんですけど、彼女はそこがジャスト・フィットのようですね。
それからですね、リアル・ワールドから戻ってきた時のケンの格好、これがですね
この格好になるでしょ。これもですね、僕、見てて「古い〜」って笑っちゃったんですよ(笑)。
これですね、このイメージなんですよ。
はい。キッド・ロック。この当時はラップ・メタル歌ってて、今やカントリー・シンガーで極右っぽいことばっか言ってますが、2000年頃、なんだか人気すごくありましたね。この彼がファーのコートがトレードマークだったんですよ。
あと、ケンがケンダムを建設中にかかる曲がですね
https://www.youtube.com/watch?v=6FEDrU85FLE
このクレイジー・タウンの「Butterfly」なんですよね。これも2000年の全米1位曲なんですけど、ラップ・メタルの代表曲のひとつです。
このですね、ミレニアム世代って、一時的なんですけど、トキシック・マスキュリニティの台頭があった時代なんですよ。
https://www.youtube.com/watch?v=RYnFIRc0k6E
リンプ・ビズキットの台頭、この曲のビデオとか男尊女卑の典型ですけど、あとウッドストック99ですね。あの当時の人気女優、ロージー・ペレスがステージ上で受けた「脱げ!脱げ!」の公開セクハラ。今見ても、吐き気するほど醜悪です。
だから、あの当時を直撃した世代のアメリカの女性って、トキシック・マスキュリニティに敏感なんですよ。だから本当はもう古いもののイメージのはずなのに、未だに「男根主義の象徴」というと、あの当時のラップメタル的なイメージなんですよね。もう、そんなファッション、ないはずなのに(笑)。なので、グレタもわかりやすくケンダムにこのイメージを当てはめてみたのでしょう。
それから、
劇中で、ケンではない、女性に非常に理解のある中性的男性キャラにアランという人がいるわけですけど、彼を形容するセリフに「インシンクはみんなアラン」というのがありますが、これが何を指すのかというと
西暦2000年頃、地球上で最もホットなカップルだったブリトニー・スピアーズと、彼女の彼氏だったインシンクのリードシンガーのジャスティン・ティンバーレイク。あの当時って、ボーイバンド、ちょうどさっき言ったトキシック・マスキュリニティの真っ最中の時代だったから「インシンクなんてゲイだ」みたいなこともすごく言われてました。エミネムもリリックの題材として頻繁に使っててすごく叩いてましたからね。
ウッドストック99でも、オフスプリングがバックストリート・ボーイズ人形をバットで殴るパフォーマンスがあって、それがウケた時代ですからね。
でも、今となっては、そういう男根中心みたいなロック、ないでしょ?その中の一部は今、カントリーに行ってますけど。逆にアイドルの遺伝子はKポップが受け継いでとてつもなく大きくなったりもして。そういう意味でも、注目のセリフでもあったんですよね。
あと、配役もですね。
今回の主要キャストのウィル・フェレルにアメリカ・フェレーラ、マイケル・セラ、いずれも00sのコメディ・スターなんですよ。
これも正直ですね、「配役にしては古いなあ」と言う印象だったんですよ。特にアメリカとセラは。最近見てなかったですからね。ところが、意図通りの配役だったので、ドンピシャにはまって。
ウィル・フェレルのマッテルCEOはハマってましたね。「俺たちニュースキャスター」のロン・バーガンディは、改心したかつての女性蔑視者。それが約20年後に、別名「マザー」とも呼ばれる、実は男性ばかりが役員のマッテルのトップ。これ本当に事実で、本物のマザー、左の人なんですけど、この矛盾を指摘するところもまたこの映画の面白さなんですけど(笑)、これは僕、ロン・バーガンディ・トリビュートだと思ってます。
アメリカ・フェレーラはアグリー・ベティでもそうだったんですけど、魂のこもったスピーチさせたら前から上手い人だったんですよね。あそこもすごく適材適所な配役でしたね。
マイケル・セラは2000s半ばのカルト・コメディ「アレステッド・ディヴェロップメント」に始まり、「スーパーバッド」「JUNO」「キミに逢えたら!」と一貫して柔和な心優しい青年役専門でしたね。2010年のカルト作「スコット・ピルグリム」を最後に見なくなっていたんですけど、もう「人生アラン」の彼が最大のはまり役を演じたと思います。
これもひとえにグレタのコメディ好きのなせる技で、どの辺が直接のルーツなのか、わかりますよね。00sコメディの影響は大きいのでしょう。
あと、最後に
劇中に出てくる大統領の写真がビル・クリントンなんですよね。トランプでもバイデンデモなく。これがなぜなのか、と言うのも一部話題になっています。
「現代の政治論争を避ける為」。これももちろん、あると思います。
ただ、僕はそこに加えて
彼が任期2期目の頃にあった、秘書だったモニカ・ルインスキーとのスキャンダル。これに対する責任問題。これを揶揄してるのかなとも思いました。
この任期が1997年から2000年。又してもミレニアムと重なるのです。
・・・と見ていけば、ミレニアム趣味、結構歴然としているのですが、悪いことでは全くないと思います。
クエンティン・タランティーノもリチャード・リンクレイターも、ポール・トーマス・アンダーソンもソフィア・コッポラも、X世代の監督は70年代をモチーフにした作品を作るでしょ?それと同じことをミレニアム世代のグレタが2000年近辺をモチーフにして作ったって、おかしくないでしょ?もう、映画がそういう時代に入っているということなんだと思います。
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