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全オリジナル・アルバム FromワーストToベスト(第37回) カエターノ・ヴェローゾ その2 10位〜1位

どうも。

では、昨日に引き続いて

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ブラジル音楽界の巨匠、カエターノ・ヴェローゾのFromワーストToベスト、行きましょう。今日はいよいよトップ10。まずは10位から見てみましょう。


10.Meu Coco (2021)

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10位は先週出たばかりの最新作ですね。「Meu Coco」。2000sの後半以降はバンダ・セーを率いてかなりロウファイなインディ・ロックを展開していたカエターノでしたが、このアルバムではむしろ70s半ばから後半の、フォーキーかつソウルフルなテイストの路線に回帰した印象ですね。ただ、その当時の感じをまんまやってるのではなく、バンダ・セーで培ってきたロック的なエッジを伴って、あくまでもこれまでやってきたことの延長でやってるところが聴きどころですね。そして、もう79歳になるというのに、声に加齢感がゼロなのが圧巻です。もともと、そんなに強い声で歌うタイプではないですが、それでも声の艶が微塵も損なわれないのはすごいことです。これから80代に向けどう進化するのかも楽しみになってきました。

9.Toropicália 2 (1993)

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9位は「Toropicália 2 」。これは1968年のカエターノの金字塔、「Toropicália」から25周年を記念してつくられたものです。本家のトロピカリアはムタンチスやガル・コスタ、トン・ゼー、ナラ・レオンらと作ったオムニバスなので今回のランキングには入れられなかったのですが、今作は前作の参加者で唯一、永遠の盟友ジルベルト・ジルとの2人で製作した作品です。このアルバム、すごいのはカエターノがアルバムの使命、ちゃんとわかってて、「25年前がサイケデリック・ロックなら今回は」とばかりにヒップホップでも止まらず進化したところをアピールしてるところなんですよね。しかも表現に頑張りすぎた無理もなく、すごく自然に。この対応力の巧みさには驚かされます。90sのカエターノだと、僕はこれが一番とんがってて刺激的だと思います。

8.Caetano Veleoso (1969)

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8位は、その本家「トロピカリア」にもっとも近い時期に出た1969年の自身名義での2枚目のアルバム。初期のカエターノはサイケデリックうんぬん言われるものですが、サイケ色でいうならこれが一番大胆にサイケですね。「トロピカリア」を手がけたプロデューサー、ロジェリオ・ドゥプラによる壮麗なストリングスはここでも生かされていますけど、そこに加えギターのディストーションやスネアのケミカルな響きにトリップ感がぎっしり詰まってます。もう69年というと世界的にはサイケは終わりに近づいてる時で若干古くなりつつあるときであり英米との時差は感じるんですけど、懸命に世界の文化や音の変革に同調、共感しようとするカエターノの血気盛んな姿が垣間見れます。

7.Joia (1975)

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7位は1975年発表の「Joia」。カエターノは1975年に2枚のアコースティック作を発表します。1枚が「Qualquer Coisa」で、もう1枚がこの「Joia」。ともに評判は良いアルバムなんですが、この「Joia」の方がより音の隙間が多くパーカッシヴでより実験的な感じがして僕の好みですね。それプラス、この当時のブラジルだとまだ珍しいんじゃないのかな、初期のアナログ・シンセサイザーとポリリズムのリズムだけの「Lua,Lua,Lua,Lua」みたいな、きわだつ美しい曲もあったりして。また、「Qualquer Coisa」で3曲のビートルズ・ソングをカバーしたカエターノでしたが、ここでも超大ネタ「Help!」をカバーしています。

6.Muito (Dentro Da Estrela Azulada) (1978)

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6位は「Muito(ムイント)」。1970年代後半から80年代初頭のカエターノはブラジルで最も売れた時期なんですけど、そういう時期に入って2枚目のアルバムがこれですね。アコースティック・ギターでサンバっぽいフレーズのギターを弾きつつ、曲はノーザン・ソウルみたいな感じが、この当時のカエターノ、すごく多いんですけど、その典型のようなアルバムです。一番ソウルフルな気はしますね。スラップ・ベースとかディレイかけたエレピとか、この当時のAORやフュージョンと共鳴するるようなことやってますしね。ハイライトはサンパウロ市に捧げた「Sampa」という曲で、これはサンパウロ市民のあいだでいまだに人気あります。歌詞の中で元ムタンチスでソロとして大成功していた最中のヒタ・リーにオマージュが捧げられています。

5.Caetano Veloso (1971)

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5位は1971年発表の「Caetano Veloso」。このアルバムの2年前の1969年、カエターノは圧政化した軍事右翼政権から睨まれ、ロンドンでの亡命を余儀なくされます。このアルバムは、彼がロンドンで過ごした頃の曲を集めたもので英語で歌われています。サウンドは60年代のときのサイケ・サウンドとは打って変わって、シンプルなエレキギターの弾き語りに、そこに曲によってファンキーなリズムやストリングスを取り入れたりしたものとなっていますね。7曲しか収録曲ないんですけど曲調にも幅があります。最大の聴きどころは「London,London」ですね。「ロンドンの街では誰も話かける人がいない。もちろん君にも会えなくてさみしい。今日も僕は上空を見上げ、空飛ぶ円盤を探すだけだ」と歌われるこの言葉からは、戦いのために故郷を追われ、耐え難い孤独の中で生きるカエターノの切羽詰まったリアルな心の叫びを感じますね。

4.Cê (2006)

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4位は「Cê」。60、70年代の作品がズラりと並ぶ中、これは2006年と、かなり最近の作品です。この作品から一転、カエターノはペドロ・サー(ギター)、ヒカルド・ジアス・ゴメス(ベース)、マルセロ・カラード(ドラムス)の3人をバックに従えたバンド、バンダ・セーと共に、他に音を足さないインディ・ロックスタイルの音を出し始めます。イメージとしてはストロークス以降に近い感じですね。中には、これまでのカエターノのイメージに無かったハードな曲まであって一部「どうしたの?」となったアルバムです。日本だとウケ悪かったみたいな話、聞きますけど、ブラジルでは実はこれ大好評で、「カエターノ、30年ぶりの傑作」みたいな声も聞くくらい好評です。やっぱり、かつてサイケデリック・ロックやってたカエターノですから、表現として尖ったことやってほしい、みたいな声、本国で多いのはたしかなんですよね。あと、この当時にブラジルでベストなバンドにロス・エルマーノスという、「ウィーザーやストロークスのスタイルのカエターノ・フォロワー」とされている’バンドがいたんですけど、「エルマーノスよりかっこいい」という評価まで実際見たことあります。

3.Bicho (1977)

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3位は「Bicho」。これもすごく人気あるアルバムです。ソウル・ミュージックの影響の強い、カエターノの中でもっともアッパーでファンキーなアルバムです。「サンバのコード進行のマナーの則ったカエターノ流R&B」といった趣が強く、この当時のAOR、フュージョンの流れと共鳴しやすい作品だと思います。カエターノのブラジルでの商業的成功に加速がつきはじめるのがこのアルバムですね。このアルバムからは、そんなソウルなカエターノで屈指の人気曲の「Odara」、そして、就学前の小さな子供に向けた定番曲として今日でも国内で非常によく耳にします名曲「O Leaozinho(オ・レオンジーニョ、ライオンの子供の意味)」が入ってるアルバムとしても知られています。

2.Caetano Veloso (1968)

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そして2位が、本人名義の作品の第1弾となります、1968年の「Caetano Veloso」。ブラジル初のサイケデリック・ロック・アルバムと呼んでいいでしょう。これと、いまだにブラジル音楽を語る際に必ず登場する名盤「トロピカリア」が、これまでボサノバ、サンバ一辺倒のイメージだったブラジル音楽に革命をもたらしたことはたしかでしょう。カエターノのサイケって、英米のソレに対しての強い批評になっているというか、同じストリングスやギターのディストーション、エフェクトでもより複雑で強度も強いし、そこにブラジル、とりわけ彼の出身である北東部バイーアの手数の多いパワフルなリズムが加わることで、より立体的でクレイジーでさえある世界観を築くことに成功できてたと思います。これは当時の世界のどのサイケデリック・アルバムと比べても上位に入るできだと僕は思ってます。曲としても「トロピカリア」、「アレグリア、アレグリア」「スーペルバカーナ」あたりはマストで知っておくべき曲です。

1.Transa (1972)

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そして1位は1972年発表の「Transa」。これはブラジル国内だと圧倒的に「カエターノの最高傑作」とされているアルバムです。いろんなところで最高傑作指定されてるのを見ます。Apple Musicで出てくる彼の「Essential Albums(必須アルバム)」でまず最初に出てくるのもこれですしね。

これ、なぜそんなに人気なのかというと、やはり5位に選んだ「Caetano Veloso」(1971)同様、ロンドンへの政治亡命時代、故郷を不本意な形で追い出され、見知らぬ地での孤独を赤裸々に表現していて、その思いが強く伝わるからです。それを71年版のセルフ・タイトルのアルバムでもカエターノは表現していますが、こちらの方がより内省性が強く、かつ、より簡素な作りで、さらに彼の持ち味であるバイーアの複合的なリズムの活かし方がより効果的なんですよね。いわばこれ、ジョン・レノンの「ジョンの魂」のブラジル版の趣が非常に強いんですよね。まさに「カエターノの魂」。そう呼んでも差し支えない傑作だと思います。


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