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「手違い」で起こしたマーケティングくずし〜オリヴィア・ロドリゴとマネスキンの「ロック復権」の裏に

どうも。

今年も下半期に入ってもう2ヶ月目ですよね。「音楽シーンの下半期の予想」みたいな記事もいくつか目にしましたけれど

ただ、僕の感触では、今年の後半であっても、この二つが起こした旋風を上回るものは結局出てこない気がします。

それがなにかといいますと

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やっぱ、オリヴィア・ロドリゴとマネスキンですよ!


もう、これ、もう世界的というか、数の規模からして異常ですよ。この2枚の写真、ともにSpotifyのマンスリー・リスナーの数を示してるんですけど、現在、オリヴィアが5800万人台で世界第7位マネスキンが5100万人台の世界第14位ですよ。ともに今年に入ってからブレイクした人たちが、ですよ!

 こんな極端な動きしてる人、ほかに誰もいませんよ。この2つとも本当に2021年の世界の音楽界の顔だし、もう世界的に「ロック復権の立役者」的な認知のされ方もしはじめてますね。それが、賛成であろうと、反対であろうと。

 おそらく、「抵抗感がある」という人はこんな感じじゃないでしょうか。

ふたつとも、「何かのシーン」に根ざしているわけじゃないじゃないか。 

 おそらく、そのあたりに違和感抱えてるんじゃないかと思います。わからないではありません。

僕自身にとっても、究極の理想を言えば、「シーンから世界の少年少女がロックに夢中になる」。そういう感じが本当はベストです。

が!

 残念ながら、それがすぐ起きる状態にはありません。

 その理由としては、ひとつは、この2年はパンデミックで、ライブハウスに通える状況にはなかった。もし、これから、ローカルのライブハウスのシーンみたいなところから商業的に大きなヒットに結びつくものがあるとするなら、ライブハウス営業が活発化して数年、ロック・フェスが再稼動して数年のことになるでしょう。

 それに加えて、今のマーケティングがロックを完全に見捨てていた。ここが一番大きかったんですよね。大げさに言っていいかと思いますが、「今のご時世に若い子はロックなんて聞かない」。そういう思い込みがメディアにあったんじゃないかな。実際、Spotifyのデイリー・チャートに入るような曲でロックに該当するものなんてほぼ皆無だったわけですからね。

 そんな状況だったのに、なぜオリヴィアとマネスキンはウケてしまったのか。これがですね、もう、これしかないという事実を言いましょう。

 手違い!

はい(笑)。ズバリ、それでしかなかったんですよ。どちらも紹介する側が、自分たちがロックを紹介すると思わずに間違ってやってしまった、というパターンです。

だって、そうですよね。

この大ヒットしたデビュー曲「Driver's License」。これはバラードですから、この時点で彼女をロックという人はまだいませんでしたね。しかも「ディズニーのアイドルの子」というのが強調されて売られてましたからね。

この時点で僕、彼女のインタビューは結構読んでて、「かなりインディ・ロック寄りの趣味の子じゃないか」とは思ってたんですよね。ただ、世間はオリヴィアを「スウィフティー」、つまり熱狂的なテイラー・スウィフト・ファンとして伝えてたんですけど、それがLordeやHAIMの方面だと伝えてたものはあんまりなかった気がします。

で、この「Deja Vu」でた時に「あっ、Lordeみたい」って声がはじめてあがったんですよね。そこから、「思ってたのと違う」感じが出てきたところに。

この「good 4 u」で、「えっ、エモ?!」「なんでパラモア??」な感じで意表をついて、これが結果、大ヒットしました。イギリスでは18年ぶりに大ヒットしたロック曲にも指定されています。

で、さらにアルバムまで行くと

いきなり1曲目でエルヴィス・コステロの曲のパクリ疑惑が指摘された、ブラーの「Song 2」タイプのガレージ・ロックでさらに「え、ええええ」な感じが出て、これで正式にロック認定された感がありますね。アルバム全体はもう少しソフトなんですけど、やっぱインディ・ロック色はかなり強い。ロックの強度でいうならビリー・アイリッシュよりはやっぱり強めですからね。

 だって、レコード会社の側からしてみても「ディズニーのアイドル、売るよ」って言った時にインディ・ロック売るなんて予想しないでしょ?もっと、ポップというか。しかも、アヴリル・ラヴィーンはポップパンクの当時のブームに便乗したアイドルですけど、オリヴィアの音楽性なんて別にその前になんにも流行ってなかったでしょ?レコード会社とか、ラジオ局とか面食らったと思いますよ。だって、むしろ「今、こういうの作ってきても売れない」とオミットするものの一つだったと思うから。しかし、これがマーケッティングの落とし穴。新鮮にとらえられて、世界中で大ヒットしたわけです。

もっともオリヴィア、「ディズニー・アイドル」で「ハイスクール・ミュージカル出身」とはいいつつも、コアなディズニー・ファンにはだいぶ印象が違うようでして

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この「やりすぎ配信ビザードバーク」、こっちのイメージの方が強いみたいなんですよね。

ここでのオリヴィアは、完全に三の線なんですよ(笑)。かなり振り切ったコメディエンヌです。しかも、キャラクターは、ユーチューブで楽曲配信する音楽の女の子。

これ、番組内でのかなり有名なエピソードみたいなんですけど、チョコバナナの着ぐるみ着て踊って「ウンコみたい!」ってなってる話とかあったりね(笑)。

あと、この番組、番組内でこういう疑似ミュージック・ヴィデオをたくさん作るのが常なんですけど、この手法って

これ、2010年代のコメディで流行った手法なんですよね。サタディ・ナイト・ライヴのアンディ・サンバーグがやってたデジタル・ショートとか、オーストラリアのインディ・コメディ・デュオ、フライト・オブ・ザ・コンコルドがやってたHBOの番組とか。つまり、ビザードバークはディズニーの中でかなりトンがってたショーだったんですよね。だから、こう考えると、オリヴィアのなげかけたメインストリーム・ポップの中でのオルタナティヴ(反主流)の感じって、実はこの頃から一貫してたんですよね。世の出方に恵まれたというか。

続いてマネスキン、行きましょう。彼らは

多くの人がご存知のように、このユーロヴィジョンでのパフォーマンスで一躍注目されたわけです。

でも、そのユーロヴィジョンって


去年、ネットフリックスで配信されました、その名も「ユーロヴィジョン歌合戦」。この映画の中でもさんざんパロディにされてるくらい、「ヨーロッパ中が小林幸子」みたいな、けったいな衣装とステージ効果で見せるショーです。かかる曲も、ちょっと前のユーロビートみたいな曲とかも少なくない、ここ最近のダンスポップの焼き直しっぽい曲が多い印象でロックなんてほとんど及びじゃない感じなんです。そこで、アリーナロックのリアリティを持ち込んで人々を驚かせて優勝したことで話題をさらったんですよね、マネスキンは。

 本当にその異物混入のインパクトで話題をさらったマネスキンなんですけど、彼ら、その異物混入に関しては実はかなり意識的でして

ユーロヴィジョンの2ヶ月前、イタリアの伝統あるサンレモ音楽祭に出場。これもかなり驚かれたと聞いてます。これでまさかの優勝を飾ってイタリア国内でも相当話題になったんですよね。

 だってサンレモ音楽祭のイメージっていったら、

1960年代のカンツォーネのイメージですよ。その当時のフレンチ・ポップスのイメージとダブる。古くさいなつかしいイメージですよ、一般的には。そこにロックで混入して注目されたわけです。

 ただ、マネスキンのこの混入の手法というのは、もう彼らのデビュー前からはじまっていまして

出身そのものがイタリア版の「X Factor」ですからね。

この番組はオリジナルがイギリスの同名番組でして、この番組にしたって、やっぱ仕掛けたのが「アメリカン・アイドル」で一世を風靡したサイモン・コーウェルのわけですから、ポップシンガーとかアイドルの番組ではあってロックバンドなんて普通出ないんですよ。出たらむしろバカにされるというか。そこをマネスキン、2017年の9月にオーディション受けた時からバカ受けして、結局準優勝してるんですよね。これでテレビで顔を売って、イタリアではこの頃から幸いにして人気が出たんですよね。

ただ、彼らって、面白いのは、そうしないことには世に出て行けなかったんですよ。

彼らって、「平均年齢20歳」なんて言ったら作られたイメージがあるんですけど、それ、とんでもない話で


「X Factor」に出る前までは、路上パフォーマンスをするか、家での練習を公開するか、どっちかしか選択肢がなかったんですよね。

それは

このローリング・ストーン日本版のインタビューでもヴィクトリアが語ってますけど、「ローマにはライブハウスがなく、ストリートに出るしか方法がなかった」「イタリアでは若いバンドが世に出て行きたくても出る方法がない」。そんな中でのハングリーな選択肢が「人目につくものに紛れ込む」だったわけです。

 そうしたら、それがまんまと成功して、「もう若いひと、こんなもの聞かないよ」なんていうギョーカイの予想がまんまと外れて世界中で得大ヒットとなったわけです。

 このマネスキンの話って切実なんですよ。だって、ローマの現状はサンパウロでも同じです。日本にいたらピンとこないかもしれませんが、世界でライブハウスが圧倒的に不足してるのが現状なんです。

マネスキンのトーマスとヴィクトリアって、かなり小さい時から、何がきっかけなんだかよくわかんないんですけど、もうすでにロック少年少女で、こういう映像が実際に残ってるんですよね。こういう子供たちが、才能があっても世に出て行けない状況に陥ってるのが現状なんですよね。

そこを打破するきっかけを作った意味で、マネスキン、すごく重要なんですよ。

 こうしてオリヴィアとマネスキンは、「メインストリームに紛れ込む」ことで、「ロックなんて誰も聞かない」というマーケッティングの固定観念をぶち破った。その結果、今があるわけです。

 ただ、果たして

このあとに一体、何が続くのか?


これに関しては、僕もまだ正直、見えてこないですねえ。

僕の希望的な観測で言えば、「結局、ロックをもう若いひとが聴く音楽でないなんてしていたマーケッティングが間違っていた」と業界が気付いて、異物を混入させるというやり方でなく、それなりにシーンで支持がある人たちの売り出しにかかる、というのが一番いいんですけどね。多分考えてないことはないと思います。「パンデミックの後だから、人々がライブショーを渇望している。だからロックを推そう」ということも考えられそうですからね。

 ただ、そうなった場合に、一体何を推すのか。その辺がまだ僕にはまだ見えてこないですね。多くのひとにとってもそうだと思います。

このウイル・スミスの娘のウィロウのこの曲も、オリヴィアやマネスキンの流れで解釈して捉えてるひと、いますよね。

 これに限らず、この曲でコラボやってるブリンク182のトラヴィス・バーカーって今、黒人のエモ少年少女にロックやらせて売り出そうとしてたりしてます。こういう形での混入の狙い方もアリと言えばアリです。

 あと、マシンガン・ケリーのロック化が成功したように、「すでに他の音楽で成功していた人のロックへの転身」、これもアリだと思います。実際、ホールジーがもう少ししたらナイン・インチ・ネールズのトレント・レズナーのプロデュース作出すし、ヒップホップでもトラヴィス・スコットの次のアルバム、ロックになるのではないかという噂もあったりしますからね。

 そうでなくとも、ハリー・スタイルズやマイリー・サイラスの目下のところの最新アルバムがロック寄りで、それでキッズの耳がロック側に少し慣れていたのも前触れとしてはあったのではないかと、僕は思っていたりもするんですけどね。

 そういう意味で、このオリヴィアとマネスキンが起こした流れが今後どうなっていくか、見ものではあります。一過性で終わるのか、今後に続いていくのか。ただ、一過性に終わるには、上に示した通り、両者とも、あまりにもウケすぎてるのが気になるところですけどね。

 













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