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沢田太陽の2022年12〜2023年2月の10枚のアルバム

どうも。

通常より1ヶ月早いですが、恒例の3ヶ月おきの10枚、やろうと思います。

なんで早めたのかというと、今年、リリースのペースがちょっっと不均等で、2月、3月がリリース・ラッシュなんですね。で、スケジュール見ると4〜6月はそうでもない。とうことは、通常通りに1〜3月でリストを作ったりすると、そこだと入りきらないくらいいっぱいになるのに、4〜6月はレベル低くてスカスカ、みたいなことがあり得るんですよね。ちょっと、それを避けたくてですね。

加えて僕の場合は、毎年年間ベスト、11月が終わっての時点での集計なので12月は入れないんですよね。翌年以降に回します。だから、その12月の分と2月までの3ヶ月でいけるじゃないかと思ったんですよね。

そうやって、選んでみましたが、いやあ充実してたと思います。10枚、こうなりました!

はい。素晴らしいアルバムばかりですが、今回はこういう経緯もあったので、りりーすされた順に見ていきましょう。

SOS/SZA

まずは現在全世界的に大ヒット中のSZAのアルバムから。これ、昨年の12月9日のアルバムだったので、去年の年間に入れ込んだ人やメディアも見かけましたが、満を持して今年のベストに回したほうがよりいいと判断してあえて僕は入れませんでした。というか、これにも入ってる「Good Days」のような先行シングルとか客演曲のレベルが高かったので間違いない気はしてたんですけど、ドンピシャでしたね。今年入ってビルボードなんてずっと1位ですしね。特集でも書いたんですけど、R&Bがバックグラウンドにない人でもスーッと誰でも入っていける普遍性があるんですよねえ、これ。ロックでも、フォークでも、はたまたクラシックとか童謡にさえも通じるような高い普遍性の楽曲が並んでいるというかね。本当に大好きです。

Indigo/RM

続いてRMの「Indigo」。ジンの入隊を皮切りにソロ活動に入ったBTS。「ソロと言っても本家を超えるわけではないからなあ」と思ってたんですけど、このナムジュンのアルバムは、バンタンではいけない領域にグイグイ食い込んで行っていたのが印象的でしたね。ネオソウルまで行くと、踊りにくいのとパーソナル色が濃いためにグループ単位でなかなかふみこみにくいところなんですけど、そこでエリカ・バドゥやアンダーソン・パクと共演して、センスの良さと、それに違わぬラップの実力を見せ、脱アイドルならいつでもできるところを示したところはさすがです。それでいてサウンドが一本調子にならないよう適度にアレンジ散らしてるのもいいし、上記のアメリカのネオソウルの大物のみならず、韓国の精鋭達とも積極的に共演して共に高めあっている様もすごく自国シーンへの目配せができてて好感持てましたね。

Rush!/Måneskin

続いておなじみマネスキンの「Rush!」。特集でも書きましたが、鳴り物入りでの世界デビューということで、アメリカのメジャー業界のポップなやり方に振り回されなければいいなと思ってましたけど、立派にロックンロールできてて安心しましたね。前作の「テアトロ・ディーラ」は、イタリアを世界のロック地図にいきなり置くことに成功した時点でやっぱ奇跡的な作品なので、あれに匹敵するマジックは最初から期待してませんでした。ここでは、前作でのクラシック・ロック的なアプローチを控えめにして、彼らの直接のルールである2000sのロックンロール・リバイバル系のサウンドを、ダミアーノ、ヴィク、イーサン、トーマスの4人のこびりついた手癖で独自なものとして堂々と展開してますね。なんかピッチフォークが予想範囲内でキャンキャン吠えてましたけど、「悔しかったら世界12ヶ国でアルバム1位にしてみろ」くらいの気持ちでいいと思いますよ。

Gigi's Recovery/The Murder Capital

続いて、マネスキンと同じ1月20日のリリースだったマーダー・キャピタルのセカンド・アルバム。彼らはフォンテーンズDCと同じアイルランドはダブリンのバンドで、デビューも2019年で、サウンドもダークなポストパンク系のロックンロールということでかなり比較されましたね。フォンテーンズはよりヘヴィかつ詩的に進化することでオリジナリティを獲得しつつ、よりキュアーとかデペッシュ・モードのようなクラシックな王道に近いてる感じなんですけど、マーダー・キャピタルの方はニック・ケイヴ的なドス黒さを保ちながら、90sレディオヘッド的なスケールの大きな表現を見せるようになりましたね。この2バンドがダブリンのような決して大きくはない町から同時期に競うように出てきたというのは、とんでもないレベルの高さですよね。

The Name Chapter: Temptation/Tomorrow X Together 

つづいてはKポップ2つめです。TXTの最新作。2020年の時点でロックに接近していたTXTですけど、本作はそれ以来の音楽的な実験が実を結びつつある充実作ですね。1曲目がいきなりマネスキンとビリー・アイリッシュの合わせ技みたいで意表をつきましたけど、それ以降もボサノバあり、ラテン・アーバン・サウンドあり、そしてはたまたアフロビーツにまで挑戦するという貪欲ぶり。2020年くらいからのBTSといい、New Jeansといい、TXTといい、HYBEの目の先がもうすでにKポップにはなくて、直感的に「かっこいい音楽」を独自に切り開いていくことに完全に絞られたな、と言う印象ですね。しばらく無双続くと思います。

Heavy Heavy/Young Fathers

続いて2月の怒涛のリリースから。まずはスコットランドの黒人2人白人一人の鬼才トリオ、ヤング・ファーザーズのアルバム。彼ら、2014年にマーキュリー・プライズ受賞したデビュー作からずっと評判はいいですけど、そのときから前作までは「オルタナティヴ・ヒップホップ」といえばそれで通用する感じではあったんです。ところが、この4枚目のアルバムでは、多様なサウンドをこれまでまとめていたヒップホップの手法をあえて取り除いてみたら、ケイオティックな実験性が表に出てサウンド的により自由になりましたね。ミニマルな電子ビートに、ロックから、ゴスペル、クラシック・ソウルの要素をたたえたサウンドは、未来型の祝祭音楽の趣で尊ささえ感じさせます。これでついに全英トップ10を記録です。

My 21st Century Blues/Raye

そしてヤング・ファーザーズと同じ2月3日に出たいぎりすの女性R&Bシンガー、Rayeのデビュー・アルバム。「Escapism」の世界的大ヒットで突然出てきた印象の彼女ですが、2017年、彼女がまだ10代のときから請来を嘱望されていた人です。それがレイプ被害にあったり、確執をめぐり所属のメジャー・レーベルを追い出され、その影響で今作がインディ・リリースだったりと苦労の連続だった人です。ただ、細い体からかすれ気味な声で歌われるソウルフルな熱唱がどんなタイプの曲でも耳を引くし、長年ソングライターをしてきただけあって、曲調の幅もネオソウルからエレクトロまで器用に対応もできます。ただ、声質の渋さと堂々とした歌いっぷりから、やはりエレクトロの曲調よりはネオソウル的な曲の方が抜群に合いますね。そのあたりを今後どうするか。想像するだけで楽しいです。

This Is Why/Paramore

そしてパラモアです!会心作「This Is Why」を2月10日に出したばかりですよね。そのときにも書いたんですけど、2013年のアルバム「Paramore」からやろうとしていた脱エモ路線が、その次の2017年の「After Laughter」、2020年のヘイリーのソロ・アルバムを通って、ポストパンクや後期レディオヘッドのフィルターを通った形での新しい鋭角的なメインストリーム・ロックへと進化してます。インディ・ロックから出そうで出なかった作品をパラモアが先に作った形となりました。それでいて、2000年代までの彼女たちのエモ・ファンを完全に捨て去ったわけでもなく、アレンジを変えた形でエモも発展させている包容力が本作にはあります。あと、最近ヘイリーはビリー・アイリッシュやフィービー・ブリッジャーズ以降のガールズ・ロックでのリスペクトかねてから強かったんですけど、決定的なものにしてますね。この3ヶ月でのベスト評価です。

Desire,I Want To Turn Into You/Caroline Polachek

続いてはキャロライン・ポラチェック。2月14日、バレンタインデーに出たアルバムですね。彼女は2019年に出た前作「Pang」(傑作!)が大好評だっただけでなく、チャーリーXCXへの客演や、以前ニューヨーク・シーンでも注目されていた男女デュオ、チェアーリフトやその頃からの裏方ソングライターとしての活動でも注目されていましたが、その才能が爆発してますね。元々、エレクトロの範疇だけにおさまらない多様な音楽性を引き込める力はあるんですけど、ここでもこれまでにも見られたトラッドフォークをはじめ、先行曲でも話題となってフラメンコ、そして彼女のルーツを示すべくドラムン・ベースやフランスのエールの影響を感じさせる、かなりレイト90sを感じさせる曲を披露するなど、自身のキャラクターをしっかり出せてますね。それだからこそ、通常のリリース日でない火曜なんかに作品発表して、みすみすチャート入り逃した点はいただけない!そういうとこ、マイナーな裏方意識はそろそろ払拭して欲しいです。

Cuts & Bruises/Inhaler

そして最後、10枚目を飾るのが2月24日に出たばかりですね。インヘイラー。彼らに関しては2021年デビュー当時に「U2のボノの息子」との触れ込みが大きすぎたこともあって、やや斜に構えてみたところがありました。ただ、そのときも「何の変哲もないインディ・ロックだけど、歌は上手いので曲が何かのはずみであたればいけるかも」と思ってたんですけど、それ以上の飛躍作になりましたね。「These Are The Days」がまさに決定的なキラーチューンだと感じて去年から気になってたんですけど、その後にモータウン・リズムを入れた「Love Will Get You There」やスプリングスティーンやディランを意識した、アメリカ本格進出時のお父さんの曲みたいでもある「If Youre Gonna Break My Heart」と、バンドとしての成熟を早くも見せています。これは大きくなるんじゃないかな。僕としては彼らと同世代のマネスキンの対抗馬になってほしいと願ってます。



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