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ライブ評. The Weeknd@サンパウロ~欠点一切なしの完璧な20年代型アリーナ・ショウ!

どうも。

では、予告どおりに

10月11日、サンパウロのアリアンツ・パルケで行われたThe Weekndのライブ、これをレビューすることにしましょう。

 ウィーケンドと言いますと、もう言うまでもなく世界的な大スーパースターなわけですけど、彼に関しては2017年のロラパルーザ・ブラジルで見てて、そこで素晴らしいライブを披露してました。今回はブラジル国内では毎回優勝争いしているサッカー・クラブ、パルメイラスの本拠地スタジアム、アリアンツ・パルケでのライブでした。

チケットの発売が昨年の11月と、えらく早かったんですけど、この時、「行こうかな、どうしようかな」と迷ってたんですね、すると、うちの妻がですね、「私、すごく行きたい!」と、珍しく自分から行きたがったんですよ。それで背中を押された気がしたので買って見に行くことになった次第です。

で、普段は一人で電車使って会場に行ってたわけですけど、今回は車持ってる妻の自動車で、1週間前にスタジアム近くに駐車場予約して見に行きました。サンパウロの場合、このスタジアムと、こないだレビューしたゴーストのライブの会場のエスパッソ・ウニメッド、これがサンパウロ市西部の同じ最寄り地下鉄の駅、バハ・フンダっていうんですけど、そこにあって、僕の行くライブ、半分以上がその地域なんですけど、もういつも帰りの電車が微妙な時間に終わって、最悪の場合は拾えるかどうかもわからないタクシーを数時間待ったこともあるくらいだったんですけど、今回はその帰りのリスクが回避されたので、すごく安心してライブに行けました。

僕は車の免許ないので車内ではもっぱらナビと選曲担当なんですけど、その時に、全米、全英チャートで長らくトップ10に入り続けているウィーケンドのベスト盤「Highlights」を聞きながら言ったんですね。もう、知ってる曲ばかりで今更予習でもなかったんですけど、もう立て続けに出てくる曲がとにかくメロディが良くてね。「ベスト盤で売れる名盤」というと、アバやボブ・マーリー、クイーンが定番なんですけど、今、そこに現在の代表選手でウィーケンドが肩を並べてるのって、なんかすごく納得が行ったんですよね。これでライブ前から気分が高揚していたのは確かです。

道にも迷わず順調に進んでいたんですけど、スタジアム近くで渋滞が起き、駐車場に車を置いてスタジアムに着いたら開始予定時間3分前の午後8時27分。さらに悪いことに、僕らの席の1回席の入り口は半周しないといけない距離。「開演遅れるといいな」と思って駆け足しで入り口まで急いだんですけど、ウィーケンドは時間にしっかりしてる人なのか、8時35分にはもう1曲めのイントロが鳴ってしまいました。曲はロザリアの「Motomami」でデュエットした「La Fame」。ただ断片だけですね。そしてボディ・チェックを終えて入場券渡して入る際に実質的な1曲めの、2016年の「Starboy」収録の「False Alarm」が。この曲の中頃でステージを左斜めから見る1回席に入って行きました。

ステージがこういう風に見える位置です。このスタジアム、まだできて10年経たない新しいスタジアムで、客席の上には屋根があって、フィールドのとこだけ空いてるスタイルなんですけど、この日は晴れてたこともあって空が凄く綺麗に見えて、屋根との立体的なコントラストも見事でした。

ライブは序盤は現時点での最新作の「Dawn FM」の曲を多めに攻めますが、このアルバムのコンセプトであるFMを意識しているからなのか、曲を全部演奏するでなしに細切れで間髪おかずに立て続けてプレイします。これが批評家的に気に入らなかった人もいたのか一部新聞などで批判もされていたのですが、僕の反応は全く逆。これこそがすごくクールに映りましたね。だってロックのライブとかだと、アウトロが長かったりするから、それをいちいち全部やってたら若干間延びしやすいのは確かなんですよ。そこをカットして次の曲にテンポよく流れ込む、いわばクラブのDJ感覚が慣れた耳からすると、そこ、なおさらだと思うんですよね。それだと逆にロック聴く人からすると1曲の長さが物足りない人もいるかと思うんですけど、コンセプト的にも、今、もしくはこれからの音楽感覚の多様性の面から見ても、僕はこれは提示されてしかるべき価値感覚だと思いましたね。

 しかも彼、これをDJでバックトラックを使ってやるんじゃなくて、全部生演奏でやるんですよ。ギターと生ドラムをちゃんと使って。そこがすごいんですよね。楽器的に最もそういう曲繋ぎがしにくいものを使ってそれをやるんですから。しっかりロック的なトラディショナルなアリーナ・ライブの醍醐味を生かしながら、同時にクラブ世代以降の感覚も合わせて表現する。ものすごく計算できてます。

このライブ、僕はステージの組み方もすごく好きでして


こういう風に、グラウンドのかなり後方まで通路ステージが組んであってですね、そこを彼が走って移動するんですよ。アリーナの一番後ろまで通路続いてましたからね。そして

その通路に二つステージがあって、その一つ、グラウンドの真ん中よりさらに後ろの方にまで、こういう風に歌いにくるんですよ。しかも360度見えるような形で。ここで「Cant Feel My Face」みたいな代表曲歌うので、それまでステージ前方が見えにくかった人まで大満足、というわけです。

選曲は彼の代表的な曲から、カニエ・ウェストやドレイク、フューチャーにフィーチャーされた曲まで、かなりマニアックでしたね。この辺りはセットリストを事前に見て抑えてたんですけど、知名度高くないものまで混ぜられてたので全部は覚えられなかったです。ただ、そこはやはり天性のメロディメイカー。そういう曲やっても退屈しないんですよ。そこは立派だなと思いましたね。2010年代という、R&Bがヒップホップに完全に食われ、メロディというものが最も軽視された時代にあえてそこにこだわって時代を代表する稀代のメロディメイカーになった。そんな彼のシンガー、ソングライターとしてのいわば「ソングブック」的な選曲も興味深かったですね。後で確認して聴きたくなった曲もあったのも事実です。

 今回のツアーでウィーケンド、スタートからしばらくはダフト・パンクみたいな光るマスクみたいなものをかぶって歌ってたんですけど、真ん中らへんの、最新作からの「Faith」でマスクをとって素顔で歌い始めました。そこから「After Hours」「Earned It」、そしてブラジル・ツアーから復活させたばかりのアリアナ・グランデとのヒット「Love Me Harder」。この日はブラックパンサーでケンドリック・ラマーと組んだ「Pray For Me」、これもブラジル・ツアーから組み込んでやってましたけど、こういう曲を臨機応変に柔軟に組み込めるところも、彼みたいなR&Bのアーティストが勢いやってしまいがちな「プリセットされた音楽のみの硬直性のないライブ」を免れていて好感持てました。

そして、個人的なハイライトが亜蘭知子のサンプリングでおなじみの「Out Of Time」でしたね。「この曲、僕、大好きなんだ。みんなと歌いたいな」と客席にマイクを差し出したんですね。そしたら、マイクを受けた女性が、サビの部分の「♪Out Of Time〜」を最高にクソ音痴な絶叫で返して、会場ずっこけ(笑)。ウィーケンド本人が面白がってその女性に延々、コール&リスポンスさせて。この曲が大好きな妻は笑いながら「興ざめ」って言ってましたが、この時までには今まで見たことないくらいにノリノリで踊ってました。

ここからはもう一台ヒットパレードです。「I Feel It Coming」「Die For You」そこに初期からの「Wicked Game」「The Morning」、EPのみで発表しカルト評価になっている「Call Out My Name」まで。一般にヒットした曲から初期のファンに人気なダーク路線まで取り混ぜて。この辺りのバランスも飽きさせない巧みさがあります。

そして「Save Your Tears」、さらにパンデミック期以降の世界最大ヒット曲「Bliding Lights」で大団円。この時点で曲数は35曲。それでも声は衰えるどころかビンビンで。すごく通る上に、アドリブきかせてさらに叫ぶんですよね。これ、初期だと声が細くて、これできなかったんですよ。確実に喉が鍛えられてるのがわかって、そこも嬉しかったですね。あと、このショウ、ステージ前方では絶え間ないパイロ(炎)、通路ステージでは鮮やかな照明が実に鮮やかでした。こういうとこもすごくプロフェッショナルでした。

唯一注文つけるところがあったとしたら、ここまでに代表曲やりすぎて、最後の最後が若干、アガる曲少なくなったことかな。間髪入れずにやった4曲のアンコールで一般人気があったのは最後から2曲目の「In Your Eyes」のみ。ラストがスウェディッシュ・ハウス・マフィアとの「Moth To A Flame」というのは少し地味だったかな。電車気にして帰り始める人もいましたからね。

でも、そこさえ除けばあとは何の問題もなし。あらゆる点に配慮が行き届いた、2020年代の最先端のアリーナ・ライブ。これを欠点なくやりきった。それがとにかく見事で脱帽でした!

ちょっとこれで僕は彼のことを見直しましたね。前から十分、評価はしてたつもりでしたけど、ここまでやれるとは。どんなに才能あっても、こういう大きなアリーナ・ライブは誰もができるわけではありません。U2とか見たいな特殊な「適正」がいることだと思ってます。それを今、最もできるポジションにいるのがウィーケンドだったことがしっかり分かったライブでした。これ、DVDとか出るんだったら作品単位で欲しくなる貴重な機会だと思いましたよ。










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