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沢田太陽の2020年4〜6月のアルバム10選

どうも。

では、6月も終わりなので、恒例のこれ、いきましょう!

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4〜6月までのアルバム10選です。このブログでは前から、「上半期ベスト」は出さない方針(だって年間ベストの楽しみが薄れるじゃないですか)なんですが、そのかわりに3ヶ月おきにベストの10枚、発表してます。

今回の10枚、なかなか充実してると思います。いいアルバム、ばっかりです。では、早速行きましょう。

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Grae/Moses Sumney

まず最初はモーゼス・サムニーのセカンド・アルバム。僕は2017年に出た彼のファーストは本当に大好きであの年年間ベストの2位にしたくらいなんですが、あのアルバムのときも感じた「後期レディオヘッドmeetsサイン・オブ・ザ・タイムスのときのプリンス」みたいな、ファルセットを多用した和声と生楽器の温かい響き、ストリングス・アレンジの美しさで壮麗に飾った美しいネオ・ソウルはここでも存分に聞かれます。このほれぼれするような神秘的な美学に関しては、同じ黒人もオルタナティヴな存在でもYves Tumorやサンダーキャットをしのいでいるとさえ思うし、だからこそ今回、これがエントリーしたわけです。聴いててハットしたり、息を呑むような瞬間はここでも何回もありましたし。

 ただ、それでも僕はこれ、前作ほど好きじゃないんですよね。というのは、前作からの別要素のプラスアルファが感じにくかったのと、2枚組にしたことによって間延びする瞬間がどうしても出てしまったから。1枚めの終わりの方のアコースティックの曲なんかすごくいいんですけど、あそこくらいで締めておいたほうが良かったような気もします。ただ、だからといって、彼の才能に対しての敬意が損なわれることは全くないですけどね。

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Set My Heart On Fire Immediately/Perfume Genius

続いては、モーゼス・サムニーと同日リリースでもあったパフューム・ジーニアス。この人は、インディ界隈では2010s前半から注目のゲイのシンガーソングライターでしたけどその頃から、アニョー二にも通じる、エルヴィスを中性化したような独自の声の震わせ方など一聴してわかる魅力はもってはいたんですけど、僕個人的には、やりたい音楽の方向性がいまひとつつかめない印象がありました。おそらくは、小出しにしてきたこと、全部まとめてやりたいんじゃないかとは思いました。

 そこの点に関して言えば今作も、バロックポップ、シンセ・ポップ、アコースティック、そしてギターロックと、基本は同じなんですが、今回の場合は、楽曲一つ一つの高い充実により、散漫したり弛緩する瞬間がありません。そして、そんないろんな表現の中でも、今回はとりわけ前半部の、隙間の多い、背後に華麗なストリングスをほどこした初期グラムロック風のタイプの曲が本当に合っている印象でした。1970年前後の、Tレックスやデヴィッド・ボウイ、エルトン・ジョンを育てたトニー・ヴィスコンティやケン・ダッジョンのサウンド・プロダクションが思い起こされるんですけど、あれが一番あってる感じしましたね。あと、エレクトロな楽曲もそんなに多くは必要ないかなとも。この作品を機に、自身のその後の方向性が徐々に固まって行くのもよいかと。

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The New Abnormal/The Strokes

続いて、ストロークスですと!彼らのアルバムを年間ベスト対象で入れるの、かなり久しぶりだと思います。彼らって、デビューのときからすでにバンドの「型」というものがあって、それがあるおかげでずっと他のバンドと差別化がはかれてたものなんですが、それがゆえに、どう発展させて良いのかも困るタイプでした。そのあたりの生みの苦しみが4枚目、5枚目に出て伸び悩み、そこにジュリアンのステージでの酒乱による誠実さの感じられないライブが続いたりで、だいぶ失墜したイメージもあったんですけど、7年ぶりとなるアルバムでようやく一皮むけました!

 そのカギとなったのは、ソングライティングをジュリアン単独にもう一回戻して、サウンドの軸をいまいちど固定化させ、「いつもながらのストロークス」に立ち返りつつ、以前の彼らからは聞かれなかった成熟したサウンドを聞かせること。レッチリでいうところの「カリフォルニケーション」みたいな方向性ですけど、これはしっくり来ましたね。今の彼らだからできる進化というか。それでシグネチャー・サウンドもくずさずにすんだのだから一石二丁。もう一花、咲かせてほしですけどね。


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Run The Jewels/RTJ4

続いてラン・ザ・ジュエルズ。今年は1〜3月に選んだジェイ・エレクトロニカもそうなんですけど、ベテラン・ヒップホップ・アーティストが意地見せる年かもですね。今のトラップだったり、マンブルだったり、シンギング・スタイルのラップだったり、まあ、やればいいとは思うんですけど、そうした流行りに左右されない昔ながらの上質なサウンドに、ヒップホップがずっとそうして来た、「黒人社会を巡る現在の問題にメスを入れる」ことをやり続ける人の存在というのはやはり必要なわけで。

 そして、それがジョージ・フロイド事件という、絶妙すぎるタイミングで出たのがこれですね。キラー・マイクとEL−Pの二人が昔からやってきたことが、こうした非常事態に効いてきて、フロイド氏が死の前に命からがらつぶやいた「息ができない」という言葉を偶然引き出せていたりね。ヒップホップから、こうした時代の瞬間をとらえた言葉が諸々出てくるというのは非常に大事だと思います。

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Rough And Rowdy Ways/Bob Dylan

続いてはディランですね。こないだも特集したように、79歳にして絶好調です。そのときも書いたように、1997年の「Time Out Of Mind」、2001年の「Love And Theft」の2枚でつかんだ表現をもとに、「晩年」という言葉を使うのが失礼なくらいに、円熟期の自身のサウンドを発展・延長させてきましたけど、それが老いが加わることで説得力を増し、さらに肉体的な力強さまでを感じさせるのはすごいことです。今回なんて、自身最初の全盛期だった60sなかばを思い出させる瞬間までありますからね。

 そこに加えて、もう「生前最後の傑作」にしようと出したのかもしれない、アルバム2枚めに別収録の16分の対策「Murder Most Foul」があるわけですからね。彼自身が「時代が変わる」と歌った1963年に起こったケネディ大統領の暗殺でアメリカが失ったものを歌うというのは、彼自身の生きてきた時代を総括したようでもありますしね。この曲の存在だけでも、このアルバムの意義があるというものです。

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Women In Music Part 3/HAIM

そして、ここからはすべて女性アーティスト。まず最初は、今回の選考の最後に滑り込んできたHAIMです。彼女たちの場合も、ストロークス同様、割と自身の癖メロ、サウンドの独自性が強いタイプのアーティストで、それをどう発展させるかでセカンドでは悩んだ感じもしましたけど、プロデュースに元ヴァンパイア・ウィークエンドのロスタムを迎え、一皮むけましたね。

今回何が良いかって、楽器のひとつひとつの音色のキレがいいんですよね。とりわけギターとドラムの音。ロックって、ある時期からこういう「時代のサウンドを作る」工夫をしなくなってきてたんですけど、それを堂々と繰り出しただけでなく、彼女たち自身も80sR&B風の曲にトライして曲調をひろげるなど、自身の持ちパターンを増やす努力が感じられたりもね。ファーストほどの奇跡的な曲のキレこそないものの、自覚を持った強い前進姿勢を感じさせます。

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How I'm Feeling Now/Charli XCX

続いてはチャーリXCX.この人も本当に多作というか、毎年のようにアルバム出しますよね。僕はそのテのアーティストが大好きで、ラナ・デル・レイを強く評価するのもそのポイントです。やはり、そうした溢れ出るものを持ってる人こそが本当のアーティストだと思っているのでね。しかも今回は、かなり突発的に出した作品だったんですが、今作はそうした彼女なりの衝動がにじみ出た、限りなく最高傑作に近いものとなりました。彼女の場合、「Pop 2」もミックステープ扱いで出してたんですけど、それくらい気楽に作ったほうが、どうやら結果がいいようですね。

今回ですが、「チャーリ版サイコ・キャンディ」みたいなアルバムですね。サウンド自体はこれまでで一番ハード・エッジな、ディストーションの効いたエレクトロ・サウンドなんですが、そこに彼女らしいキュートなポップ・メロディが一貫して乗っていて。誰かがやってそうで、でも、彼女だからこそできるサウンド。通常のフォーマットのロックでは表現できなくなった「ハードなサウンド」をこういう感じのものが発展継承させていったら面白いなとも思わせるものでした。

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Petals For Armor/Hayley Williams

続いて、これも本当に大好きなアルバムです。パラモアのヘイリー・ウイリアムズのソロ・アルバム。特集のときに書きましたけど、彼女のことは2013年の「パラモア」ってアルバムのときから、「エモ・プリンセス」からの明らかな脱皮を求めているのがわかったのでそこからずっと好きなんですが、その努力が一気に開花したのが今作ですね。

全編通して「イン・レインボウズ」期のレディオヘッド色が強いんですけど、そこにソランジュのネオ・ソウルっぽさやジェイムス・ブレイクの静寂なエレクトロのムードまでうまく混ぜて、それを「今を生きるロック」にしっかり落とし込んだ、最先端のあるべきロックを作り上げたのは感動的です。しかもそれをパラモアの盟友テイラー・ヨークと作り上げた、「実はパラモア」の進化の姿だったところもうれしいです。パラモアに戻ってからの今後にもかなり前向きな期待ができます。


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Fetch The Bolt Cutters/Fiona Apple

続いては、フィオナ・アップル。もう、これはリリースのときからあらゆるメディアがこぞって10点満点を出したアルバムですが、もう、これは僕も文句なかったですね。少なくとも、彼女の音楽的な恩師だったジョン・ブライオンの元を去ってからは自己ベストだし、全キャリアを通じても最高傑作ではないかと思います。

 なにがすごいかって、これ、「生身の人間が出せるマックスの表現」がここにあるというかね。あるのは彼女自身の声とピアノ、そして削るだけ削った、ほぼリズムだけの簡素な音。そうした成約を自らに課し、まるで自身のを楽器に変身させてアドリブで作ったような、すさまじい表現力。それくらい、彼女の歌い手としての表現力とメロディメイカーとしての潜在能力が桁外れに違います。2012年の前作もほの同じアプローチだったんですけど、あれ、ちょっと気持ち悪かったんですけど(笑)、そこを曲としてうまくまとめただけかなり聞きやすくなったのもいいです。この感じって、トム・ウェイツの80〜90年代を彷彿とさせますが、ようやく後継者が出てきた感じもありますね。


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Punisher/Phoebe Bridgers

そして、フィービーです。正直な話、「今年、フィオナを超すアルバムなんて出てこないだろう」と思っていたんですけど、超えたかどうかまではわからないものの、いい勝負になったのがこのアルバムだと思います。あふれでる天才的な才能こそフィオナに分があるものの、「紡ぎ出す全曲が聞かせる名曲」ということで、このアルバム、文句なしの傑作だと思いますね。

 彼女には一貫して、「アメリカーナやフォークをいかにモダンなものとして響かせるか」というのが根底にあって、そこは前にも書いたようにケイシー・マスグレイヴスのこないだのアルバムっぽくもあるんですけど、それをプロデューサー経由でなく、自分の手で作り上げた充実感がありますね。もっとソリッドでバンドっぽいアプローチで、インディ・ギターロックとか、ストリングスやホーンを交えたトゥイー・ポップ、かなりトラディショナルなカントリー・スタイルまで自在の上に、ささやきかける丁寧な歌い方でどどれもこれもうならせる。しかも、コナー・オバーストやボーイジーニアスとの共演経験をしっかり引き継ぐ学習効果の高さまでも証明してね。20代なかばのアーティストとしての伸び盛りの勢いをしっかり出した、2020年の今を代表する傑作だと思います。

・・という感じでしょうかね。

今回選びたいの、ほかにも多かったんですよ。のせておきますね。

Deep Down Happy/Sports Team
It Is What It Is/Thundercat
Song For Our Daughter/Laura Marling
Notes On A Conditional Form/The 1975
Sideways To New Italy/Rolling Blackout Coastal Fever
What's Your Pleasure/Jessie Ware
Chromatica/Lady Gaga

こうしたあたりもよかったですね。スポーツチームは本当はトップ10に入れたかった!このあたりの話は、明日、続きでします。

















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