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ブラック・ヒストリー・マンスに見たい映画 「夜の大捜査線」('67)と「模倣の人生('34)」

どうも。

以前から「今年に入って家で映画ばかり見てる」と語り続けていますが、今日はその成果を示すものを書こうかと思います。

2月はアメリカでは「ブラック・ヒストリー・マンス」と言って、アメリカにおける黒人の歴史について考える月間なのですが、そのテーマに合うものも結構見てます。

その中で2つ、すごく意義があるものを厳選して紹介しましょう。

まずはこれです。

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この「夜の大捜査線」ですね。これは今年の1月にも

 主演のシドニー・ポワチエが亡くなった時、この記事を書いたくらい僕は彼のことをリスペクトし、それこそサム・クックだとかレイ・チャールズ、ジェイムス・ブラウン並みに大事な存在だと書きました。その彼の最高傑作といえば、やはりこれだと改めて今回、感じましたね。

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これを初めて見たのは、もうかなり前のことなのでちょっと記憶が風化していたところもあったんですけど、今見たらこれ、かなりひどい人種差別が描かれていて、驚きました。僕が当時見た時にわかってなかったことも結構出てきたりして。

 これは、都会で殺人課のナンバーワン刑事として知られるポワチエ扮するヴァージル・ティッブスがミシシッピー州で里帰り中に殺人事件の犯人に間違われ、プロの立場からその事件を見て、田舎で捜査テクニックのないところを次々と真相を解明していく話なんですけど、まあ、登場人物の黒人差別感情が、まあ、ひどいのなんの。

 深夜に駅で電車待ってただけで殺人犯と思われるところからひどいし、「黒人を部屋に入れるな」と露骨に言われるし、今見てゾッとするのは

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このシーンですね。ティッブスが、殺害被害者と対立していた町の権力者を突き止めた時、この権力者が黒人奴隷の話を延々とした後に、それに一石を投じたティッブスに平手打ちをするんですね。それをティッブスが平手打ちを返した時に「世が世ならお前なんて撃ってた」と言うだけでなく、帯同していたギレスピー警部までもが、条件反射的に権力者の防衛することが脳裏によぎってたんですよね。これ、1967年で公民権の施行からわずか2年の時点での映画ですけど、200年近くも染み付いた瞬間の恐ろしさを改めて感じましたね。

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 そして、この直後に権力者がティッブスに刺客を送って殺そうとまでするんですけど、前に気がつかなかったんですけど、ギャングたちが車に南軍旗(フェデレーション・フラッグ)つけてたんですよね。

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これですね。もう、人種差別の証みたいな、今のアメリカではかなりご法度のものになりつつもあるのですが、50数年前の映画でも悪の象徴的に使われていたわけです。

 これは1967年度のオスカーで作品賞を受賞したほどの名作なんですけど、以前も言ったようにこの年はシドニー・ポワチエの特大イヤーでして、これに加えて、「招かれざる客」という別の主演映画も作品賞にノミネートされていたんですけど

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この時にオスカーの主演男優賞を受賞したのは、ギレスピー警部を演じたロッド・スタイガーの方だったんですよね。で、シドニーは2つも主演映画があったのに、ノミネートなしですよ。

 改めてこの映画見てみたら、確かにギレスピー警部って、リンチをはじめとする、黒人を痛めつける差別に対しては軽蔑の念を抱いてはいるものの、いざ自分が黒人より能力が劣っているのを感じたり、黒人と同情されたりすると腹をたてるという、二律背反した側面を持つ人物で、これを演じきるのは難しいものではあると思うので受賞は納得はしましたけどね。

 ただ、当時の黒人では極めて珍しい、続編も作られるほどティッブスが当たり役となったシドニーのノミネート漏れはやはりおかしいですよね。

 そして、さらに思ったのが

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シドニーの役が「夜の大捜査線」「招かれざる客」共々、スーパーマンみたいな役なんですよね。一方が超敏腕刑事、もう一方が名声高いお医者さんなんですよね。つまり、「黒人の中にもこんなに立派なすごい人がいるんですよ」というメッセージになってしまっているというか。だとしたら、現在の視点なら、こうも思っちゃいますよね。「そういう人でもなきゃ、黒人は敬意を払ってはもらえないのか」というね。当時、ハリウッドで黒人で有名なアクターなんて彼一人ですよ。そんな状況の中、一人をスーパーヒーローに祭り上げても、世の中全体はついていかないですよね。

 それだからこそ

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シドニーは70年代に自分で監督もやりだすようになってから、すごくサエない三枚目を演じるようにもなったんですけど、これも彼の中に「庶民派の黒人を演じたい」という気持ちが芽生えたからなのかなと思ってしまいましたね。

 そして、もう一本いきましょう。それが

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1934年公開の「Imitation Of Life」という映画。この映画に関しては

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1959年に、カルト映画監督として名高いダグラス・サークが原題だと同名、邦題だと「悲しみは空の彼方に」というタイトルでリメイクしています。ダグラス・サークは、このすごく鮮やかで品のある映像美でカルト評価が極めて高く、僕もその影響で見て大好きだったんですけど、これのオリジナルを最近見たんですね。で、内容もこれ、公民権運動が展開されていた最中の頃の、すごくセンシティブな内容でして。これは、有名女優が海岸で出会った黒人親子を家政婦として雇って、その家政婦と、さらにその娘と一緒に生活する話です。

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すると、実の娘と世代の近い家政婦の女の子が、肌の色の薄い子で、多くの人が「白人」と実際に勘違いしていたレベルだったんですね。なので彼女にしてみたら、白人として生活できたらすごく楽なのに、黒人であるために生活で差別を受けてしまう。それがゆえに、実の母親を憎んでしまい、母親がそれに深く傷ついてしまう。そういうお話です。

 この映画そのものが、世界の批評家の選ぶオールタイムのリストで今日かなり上位に入る作品で、僕自身が選んでも上位20作の中に実際入れるくらい好きだったんですね。で、これのオリジナルもオスカーの30年代にオスカーの作品賞にノミネートされるくらいの実績があったと知って、今回見てみたら

名作リメイクより、ある意味、すごいかも!


と、衝撃を受けたんですね。なので、これも是非とも語ってみたいと思いました。

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30年代のヴァージョンでは、ヒロイン、この人、名作ロマンティック・コメディ「或る夜の出来事」でのクラーク・ゲイブルの相手役のクローデット・コルベールだったりしますが、こちらはリメイク版の女優と異なり、「幼い子供を抱えた金持ちの未亡人ベアトリス」の設定です。そこに、家政婦募集の住所を間違えてきた黒人女性ディライラがやってきます。

 生活が大変なので彼女を家政婦として雇ったベアトリスですが、そこでディライラがパンケーキ作りの名人であることが気付かれます。もともと亡き夫が食品関係の成功した商人だったことから

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 ベアトリスはパンケーキ屋を開くことを決意。「ふるさとの味」と題して、ディライラをロゴにして店を売り出したら、それが大成功してしまいます。この設定はリメイクと全然違います。

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ただ、そこから後の話は同じです。ディライラは、肌の白い娘ペオラに嫌われ、母親であることを否定され、傷心とともに・・・という話です。

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これ、ペオラ役は、このオリジナルでは実際に肌の色が薄い黒人女優(左)です。これがリメイクだと白人女優(右)でして。この点のリアリティはオリジナルの方が上でしたね。

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さらにディライラを演じたルイーズ・ビーヴァーズという女優さん、彼女、ハリウッドで最初に成功した黒人女優です。「風とともに去りぬ」の召使い役でハッティ・マクダニエルがオスカー史上初の黒人での受賞となるわけですが、この映画は「風とともに去りぬ」より、さらに5年前です。ディライラはテレビ草創期の50年代に自分が主演の番組も持っていたりで、アメリカにおけるショービジネスの門戸を開いた重要な人でもあるわけです。

 あと、このオリジナルはもう一つ優れた点がありまして

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オリジナルではラスト・シーンで、ベアトリスがスティーヴという、交際をしていた男性から求婚されるんですね。ところがベアトリスは、大学生になってスティーヴに叶わぬ恋心を抱いている自分の娘ジェシーに気を使い、結婚をしない選択を行います。これ、1930年代の女性だと考えると、「結婚をせずにシングルを選択する」という結末も、かなり先進的ですよね。黒人差別を扱い、同時に女性の新しい生き方まで提示していたという。しかもベアトリス、成功したビジネス・ウーマンの役ですからね。この辺りが1959年の名作リメイクでは省かれていて、ちょっと残念にさえ思ったくらいです。オリジナルはレイシズムだけでなくフェミニズム的にも傑作だった、というオチでした。

 そしてこれ、驚くことに

日本で、時差なしで公開されてたんですよ!

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こういう風にDVDでも出てるんですけど、日本公開が昭和10年。第二次世界大戦よりも前ですよ!

 これ、でも、戦前の日本にレイシズムとかフェミニズムのわけですよね。公開されたところで、理解はされたのかな、という疑問は僕の中でありますね。

 何せ

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アメリカでの公開当時のポスター、これですからね。話のほとんどがディライラの話なのに、ポスターに写真どころか名前も載ってないんですよ!映画の内容がせっかく進歩的なのに、宣伝側が人種差別してしまっている、最悪の例だと思います。このポスターで日本が宣伝受けてたら、確実に勘違いしてたでしょうね。

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