見出し画像

「バービー現象」が映画界にもたらす7つの意義と、それを逃すべきではない理由



どうも。

全世界から遅れること3週間ですが、ようやく日本でもバービー、公開ですね。

本当は、この1行目ですでに不満がこもってるんですけど(笑)、その上に、あの騒動ですからね。あの件だって、こないだ僕が記事にしたみたいに、冷静に調べりゃ、日本が「当然常識」だと思っていた「キノコ雲は日本人にとって侮辱」という考え方そのものがアメリカだけでなく国際的にそうじゃないことはわかります(僕も「ああ、そういう見方、されるんだねえ」みたいな反応、ブラジル人からも複数、すでにされてます)。その状態で無理やり不満だけをぶつけて言っても「おまえらはナチスの同盟国だったくせに、まだ被害者であるかのように不満だけを言うのか。ドイツでもナチスを否定してるのに」と言って極右的愛国者と誤解されて相手にされないだけです。これもアメリカだけでなく、ブラジルで記事になった際の読者反応でもそうでしたからね。僕自身も原爆投下不必要論者だし、世界が認識を変えていってほしいと願う派ですが、それをやっていくには、「オッペンハイマー」みたいな反核的立ち位置の映画や、スミソニアン博物館での被曝の展示会みたいなものが増えていくしかない。時間をかけてじっくりやっていくものです。

 あと、海外在住者、国際結婚者として言わせてもらいますが、欧米人、日本に対しての差別心なんて、ないですよ。というか、普段、「意識してない」というのに近いです。それは日本人だけでなく、何人に対してもそうです。だって、普段、日本人そのものに触れる機会がない上に、日本の国際的な話題なんてものも今そんなにないでしょ?それでどうやって、良いとか悪いとか言えます?どちらかというと「頭良さそう」とか「オーガナイズされてる(社会的にケイオスがない)」「トラブル起こしそうにない」みたいな感じで僕が思う以上にむしろポジティヴで驚くくらいですよ。気にしないほうが良いと思います。

 前置きが長くなって申し訳ないです。しかし、それくらい、僕はこの「バービー」のことを伝えたくて伝えたくて待ちわびてたし、別に製作者や監督に落ち度がないこと、しかも宣伝にしても社会的な相互理解がない上で起こったことのせいで、単なる話題作の次元を超えた、映画史、エンタメ史にも間違いなく名前刻むことになること確実な存在が浸透しなくなることが非常に歯がゆかったのです。その点、ご理解いただけると嬉しいです。

 僕は、この「バービー」という映画、本当に大傑作だと思っていまして。どれくらいにそれを感じるかというと

雑誌で後年、「2020年代特集」なるものが組まれる際、必ず中央に写真が載るような存在


間違いなくそういう作品になります。そして、それが「最低限」だとも思います。そういうレベルだけでなく、もっと大きな存在になるでしょう。

僕がなぜそこまで言うのか。この「バービー」の現象的成功が映画界にとって何を意味するのか。それを要点をしぼって話していきましょう。

①巨大資本フランチャイズ映画大全盛に一石を投じた

まず、この意味がすごくでかいんです。映画館がマーヴェルとかDCとか、ディズニーとか、そう言った大資本の、フランチャイズで続編作って当たり前な、そういう映画にしか客が足を運ばなくなってしまった現状。これを憂いて危機感を覚える映画人、すごく多かったんです。

 それ以外のタイプの映画、それはコメディでもドラマでもサスペンスでもホラーでもなんでもそうだと思うんですが、いわゆるそれまでハリウッドで普通に作られてた中規模予算作品が公開しても人が入らず、どんどんそういうものの予算が削られ、仕方なく、それがストリーミングでのネット配信に吸収されていく。「それはそれで需要があるじゃないか」と思われるかもしれませんが、映画監督としては、映画を映画館で見てもらいたいと思うじゃないですか。その欲が映画監督にないとか思うのであれば、それは侮辱だとも思います。

 巨大資本のフランチャイズばかりになると何が悪いかというと、やっぱ、その中のほとんどがスーパーヒーローだったりするわけじゃないですか。作品は画一化するし、「よく知られた作品の続編もの」ばかり世の中的にたくさん作られるようになると、世の中にオリジナルなストーリーが出て行くことも制限を受けます。そういうクリエイティヴィティの点での阻害要因にもなるから恐れられてもいるわけです。

 そこに

7月21日に、この「バービー」と「オッペンハイマー」の2作品が公開されることになったわけです。これ、アメリカでは公開前から「久しぶりに最近の固定パターン以外でのヒット作になるんじゃないか」の期待が高まっていたんです。だから、お祭りみたいなキャンペーンになったんですよ!

 そこで「バーベンハイマー」というキャンペーンが自然発生的に生まれて、映画ファンの間で盛り上がったんです。そしたら、この2本が公開された週末の興収が、現在まで映画至上最高の売上映画となっているアヴェンジャーズの「エンドゲーム」が公開された週の興収の週以来の成績となったんですよ。

 バービーもオッペンハイマーも、どちらも続編を作ることを想定しないで作ったオリジナルの作品です。そういう作品が映画館で記録的な数字を挙げた。これだけでも驚きだったのに、批評の面でも大絶賛された。この2作品ともにオスカーの複数ノミネートが予想されるくらいの好評ぶりです。今のご時世、「オスカーにノミネートされる映画」なんて単館か配信の作品で当たり前になってたこのご時世にですよ。

 だから業界、興奮したんですよ。それは

この記事にも象徴されています。かの「ゴッドファーザー」でおなじみフランシスコ・フォード・コッポラがですね、この2本の現象的成功を「映画界の勝利だ!」と絶賛したんですよ。

 そんなこんなでアメリカの映画界、ウハウハなんですよ、これ以来。日本での騒動のこともほとんどの人が知らないので、それはまだ続いてるんですよね。

②女性映画監督の勝利でもある


そしてバービーの成功がなぜ大事か。それは

女性映画監督にとっての歴史上最大の成功作だから!

この記事でも書いてますように、監督のグレタ・ガーウィッグ、世界の映画界で史上初めて、10億ドルの興入を記録した女性監督になりました。

 しかも18日での達成は史上8番目の早さ。そこもすごいし、通算の興行記録も、この後、かなり伸びることになるでしょう。その意味でも、もう最終的にすごい数字になることもすでに予想されているわけです。

 映画界において、とりわけ監督業が男女格差が最も激しいものです。これまで商業的な大成功を果たした女性映画監督そのものの数が気象の上に、映画賞でも目立った活躍をこれまでしてこれてません。

これまで、95回の歴史を誇るオスカーにおいて、女性の監督で監督賞にノミネートされた人はわずか7人(8回)のみ。しかも、ここ6年で4回と、ようやく増え始めたものでもあります。

 グレタはこの中の一人です。通算5人目の女性監督ノミネートだったんですけど、彼女にとってはこのオスカー・ノミネートに続く、大きな勲章をまずは史上最大の商業的成功で受けることになりました。

③自主制作、インディ出身者にとっても衝撃的な勝利だった


そして僕としては、これを強調したいんですよね。

このグレタ・ガーウィグという人は、女性というだけでなく、筋金入りのインディ出身監督なんですよ!ここがすごいんですよね。

彼女は2000年代後半、ニューヨークの学生だった時代に、自主制作映画のシーンに入って行きます。そこでのシーンは「マンブルコア」と呼ばれる、ちょっとしたムーヴメントだったんですけど、彼女はこのシーンの女王的存在の女優として知られるようになります。「マンブルコアのアンナ・カリーナ」という言い方もされていたのを見たことあります。

 僕が彼女を知ったのが2011年くらいですね。マンブルコアでの活躍が知られはじめてメジャー作品に出始めた頃。

僕が最初に見たのは2011年の「ミスター・アーサー」のリメイクでしたね。

2012年に「フランシス・ハ」という映画に主演して、これがインディで結構なヒットになって、その時に日本でもサブカル関係で結構受けてたんですよ。このデヴィッド・ボウイの「モダン・ラヴ」を使ったシーンがかなり受けたりして。

グレタ、私生活でも

インディ監督のノア・バウムバックの奥さんです。今でもそうですが、彼の映画の常連、というか、かなりの作品で主役です。このノアですが

アメリカの映画界の鬼才中の鬼才、ウェス・アンダーソンの長きにわたるマブダチです!そんな人と公私にわたる中です。グレタ、コッテコテのインディなんですよね。

 こうした環境からグレタは2017年に「レディバード」で映画監督デビュー。マンブルコアの時代に共同監督作ありますが、こちらをデビューとした方がいいでしょう。で、このデビュー作でいきなりオスカー監督賞ノミネートでして、2年後には「私の若草物語」で2作連続でのオスカー作品賞ノミネート。それを受けてのバービーだったわけで。

 だから僕ですね、グレタの出世、すごく嬉しかったんですけど、「これだけガチガチにインディな人なのに、メジャー作、大丈夫なの??」と心配だったわけですよ。この人のセンス、大観衆に理解されるのかな?映画マニア以外にウケるかな?と老婆心ながら思ってたんですけど、杞憂でしかなかったですね。スケールが違いました。

 これ、例えて言うなら何だろう。ニルヴァーナともちょっと違うし。マンブルコアのイメージから考えれば「ペイヴメントが5万人のアリーナ会場回るツアーできるようになった」くらいのイメージですかねえ、これは。

④コメディにとっての久方ぶりの傑作


では、「バービー」、どういう映画として面白いのか、というと、いろいろあるんですけど、これ

僕は「コメディの傑作」だと解釈しています。

 もう理屈抜きに、まずはここから入って欲しいんですよね。そこだけで十分に笑えるし、楽しめます。

 詳しくはレビューする際に詳しく書きますが、これ、どのくらいの面白さかというとですね

「ズーランダー」とか「俺たちニュースキャスター」以来の傑作、という言い方してる人、欧米人の英語の書き込みでよく見ますね。「俺たちニュースキャスターの女性版」という人さえいます。

「俺たちニュースキャスター」、バカにしないでくださいね。監督、2010年代に3回オスカー作品賞にノミネートされたアダム・マッケイですから。

 しかも、ただ単に荒唐無稽なだけでなく、社会的な意義もかなり含まれているから、コメディを超えた面白さもある。そこも強いんです。

⑤「アメリカの誇示」ではなく、「アメリカと戦う映画」

 
先日の「No Barbenheimer」運動で僕が好きでなかったのは、良心もって被爆者のことを思って声をあげた人に混ざって「普段俺たちにポリコレ押し付けてるお前らが失態おかした。しめしめ」とばかりに、本当は原爆のことなど二の次のくせに騒いだタイプの人ですね。そういう人のアカウントが反フェミだったり、投稿で移民差別をする人だったりしたものを僕は確認してるし、「ポリコレ押し付け」のセリフだけなら何10も見ましたね。

 この方たちに欠けてる視点というのは、アメリカの中で、根本的にはどうしようもない保守勢力というのがいて、長い時間かけて黒人や女性、ゲイに何してきたかを全然理解しようとしてないことなんですよ。ドナルド・トランプの表面的な煽り聞いてBLM理解してるようになってるだけみたいな感じですよね。

 僕の場合は、やっぱ長い時間かけて洋楽や洋画通じていろんな社会的な逸話聞いてきたし、そこを元にして本たくさん読んだりして歴史学んだりする努力も一応はしてるわけです。

 この「バービー」も、そういう「男性がこれまで女性にしてきたこと」をかなりの風刺で描いてます。この描き方がクレバーだと判断されるから、さらに評判も上がるんです。でも、だからこそ、保守男性にアンチが多いのもこれまた事実です。

 ただ、女性が一方的に男性責めた映画でもないんですよ、これ。いうなれば「最近、女の子たちが社会的に元気よくて抑圧された気分になっているかもしれない。気の使い方が悪かったのなら謝るけど、でも、あなたたちが歴史的に女性にしてきたことは・・・」という感じの映画です。

 まあ、それだけじゃないし、もう少しさらに別の意味がこの映画にはあるんですが、それはレビューの時に話しましょう。

⑥音楽カルチャーとも密接に結びついた、80s並みのシングル・ヒットが期待できる映画


あと、「時代を象徴する映画」になるための必要条件の一つとして

サントラの大ヒット

これがあります。

日本だと、近年の例だと

これを思い出すかと思います。

また、懐かしいところでは


こういう大ヒット曲があると、「時代を象徴した映画のヒット」ということもあり、映画もセットで思い出すでしょ?

「バービー」がさらにすごいのは、この領域でもすでに時代に残る条件満たしそうだからです。

すでにこの4曲がイギリスでトップ10入ってます。アメリカでも2曲トップ10ですね。

1枚の映画から、こんな風に何曲もヒットするなんて、それこそ80年代以来ですよ。そこのパワーでもすごいんです。

 しかもサントラに参加した人たちの陣容が、ここ最近台頭した女性アーティスト中心で、それがこの映画の趣旨とあってるでしょ?しかも人選的にビリー・アイリッシュってのが最高ですね。彼女のキャリアそのものがグレタのイメージと重なる。本来思い切りマニアなタイプの人が現象的なカリスマになるところまで含めてね。

⑦LGBTにとっても大事な映画


あと、これで締めましょうか。

バービーといえば、女の子たちが盛り上げてる映画だと思うでしょ?

それだけじゃないんですよ。この人たちも同じかそれ以上に盛り上がっています。


はい。ゲイ、ドラッグクイーンをはじめとしたLGBTの人たちですね。ブラジルでは、ゲイのユーチューバーを積極動員したプロモも実際行ってました。

 ブラジルでも、どこの国でもそうですが、映画館がピンクの服を着た人で溢れる状況ができてたんですけど、もう、この方たちが喜んで参加するの、想像できません?日本だとそこまで行くかはわからないですが、すごかったですよ、ブラジルは。まあ、ただでさえ、LGBTと左派勢力、すごい強い国なので、特にその傾向強かったですね。

 あと、ブラジルだけでなく、このLGBT勢力の影響が音楽、さらに映画でもしっかり色濃くなってきていることを決定づける映画でもあると僕は思っています。

・・といった感じですかね。

 という感じで、映画界にも社会にも、これ、もたらす影響、非常に大きいんです。それがどっちの方向に行っても、いろんな意味で語られるものにはなるはずです。

 気になるのは、この機会を今の洋画界が見逃してしまわないか、だったんですよね。ただでさえ、洋楽以上に国際的感覚から日本の映画ファンが離れていってるのに、この波についていけないことでさらに取り残されていかないか。バーベンハイマー騒動が起こる前から、僕は不安だったんです。そこで、アレでしたからね。でも、後悔を残さないためにも、こうやって色々書いているわけです。

 レビュー含め、あと最低2回は何か書きます。

 


















































本当に「世界とどこまでずれれば気がすむんだよ」というのがありますが、


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?