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ライブ評「プリマヴェーラ・サウンド・サンパウロ」(2) フィービー・ブリッジャーズ筆頭に女性アーティスト大祭り

どうも。

では、プリマヴェーラ・サウンド・サンパウロの2日目、行きましょう。

この日は前日のアークティック・モンキーズ、ミツキ、ビヨークみたいな濃厚で強烈なものは少なかったんですが、インパクトは小さめながら良質なライブが多かった。そんな日だったと思います。

Chai(第1ステージ 15 30)

今回のプリマヴェーラ、日本からはChaiが参加してたんですよね。人が少ない時間帯だったとはいえ、第1ステージでの出演。それなりに期待がかけられていたこともわかります。

 ただ、ブッキング関係者の意向とは異なり、会場運営の彼女たちの扱いはいいものではありませんでしたね。開演前のサウンド・チェックにはメンバー本人が出てくるは、15分遅れてようやくはじまったかと思ったら

こんな風に、ジャパニーズ・ブレックファストと勘違いされてタイトルバック出されたりね(苦笑)。

 ただ、本人たちはそれにもめげず、すごく一生懸命でしたよ。見せ方そのものが面白かったですからね。最初はメンバ−4人マイク持って歌って踊ってラップしたりしてたところから、通常運転でそれぞれの楽器の位置について、最新作のようなシティ・ポップも披露して。そうかと思えばベースの子とドラムの子がDJセットやって、ヴォーカルの二人がそれで歌ったり。特にそれでスパイス・ガールズの「WannaBe」カバーしたのは、欧米人にはすごくわかりやすく、ここで最もコール&レスポンスが起こってましたね。

 なんか見ていて、チボ・マットとか少年ナイフ、バッファロードーターが90sに海外進出していた当時の日本のインターナショナルなインディ・ガールズの雰囲気があって、僕はかなり良い印象を持ちましたね。表現が洒落ててすごくオルタナティヴな感じがして。

 MCも面白かったですね。「kawaii」が国際的に通じる言葉なのをうまく利用して「ユー・アー・ミル(ポルトガル語で1000)・カワイイ!」と叫んで煽って、オーディエンスはなんとなく意味がわかって「イェー!」とか返したりもして。その日のオープニング・アクト的な立ち位置としては、場を温めた意味では機能してたと思うし、こういうライブができるのなら海外活動はやっていけますね。

あとは、音源をこれからどう聞かせていくかが課題になるとは思いますが、とりあえずは合格点出せると思いました。

 このあとは第2ステージに移ってテルノ・レイという4人組のブラジルのロックバンドを見ましたね。かなり期待はされてるようで、歌詞を口ずさむ人も結構いたくらいで。サウンドはメロウ系なインディ・ギターバンドって感じで、トラヴィスよりややハードくらいな感じかな。悪くはないと思いましたが、もう少しプラスαななにかがないと、単独公演をお金払って観に行くまではいかないかなとも思いました。

ジャパニーズ・ブレックファスト(第1ステージ 17 20)



そして今度こそ、正真正銘のジャパニーズ・ブレックファスト。韓国系アメリカ人ミシェル・ザウナー。彼女がこのアーティスト名名乗ってる限り、さっきみたいなトラブルは続きそうですね。

 彼女、以前から名前はよく知ってましたがブラジルは今回が来るのはじめて。ただ、前日のミツキほどの異様な盛り上がりはないにせよ、彼女もこの日のオーディエンスにはそれなりに知られていて、それなりに合唱は起こってましたね。

 現在のUSインディ界屈指のファッショニスタだけあって、上の写真で見るように衣装すごくおしゃれでしたね。オートクチュールな感じのドレスに、ポニーテール三つ編みにして花飾って。うなじ見ると実はアンダーカット(刈り上げ)入れてたりもして凝ってましたね。

彼女はすごく声が細くて高くてかわいらしいんですが、その声質にあう曲調をよく知ってる感じがしましたね。ファンタジックなふわっとしたものから、ディスコ調のものまで。ファッション・デザイナー的な感覚でウェルメイドな可愛い曲を作ってる感じは悪くないと思います。この路線での需要もかなりあるとは思います。

 ただ、僕個人としては、ミツキ見た翌日だからなおそう思ったのかもしれませんが、もう少し内側に切り込んでいく感じが欲しい気もしましたね。

フィービー・ブリッジャーズ(第2ステージ 18 20)

そして、この日僕が最も楽しみにしていたフィービー・ブリッジャーズです。開演の30分前に場所取りのために近づきましたが、もう少し遅かったら前方アウトくらいに早々と人でぎっしりでしたね。やはり期待値高かった。

 それはやはり、彼女が2020年に出したセカンドアルバム「Punisher」がロングヒットしましたからね。僕のあの年の年間ベストアルバム堂々の第1位作品でもあるし。見たくてたまらないアーティストのひとりだったわけです。

そして、いざライブ始まると、いきなりこうですよ!


この1曲目の名曲「Motion Sickness」から取り乱したような大合唱ですよ!もう、この前日のミツキとほぼ同じリアクションでしたね。彼女もここからほぼ全曲合唱状態となります。

 選曲は、もうほぼ「Punisher」からの曲で構成されますが、あのアルバムで聞かせたようにとにかくソングライティングのレンジの広いこと。本来最も強い、か細い声で語りかけるフォークから、渋谷系を彷彿とさせるホーンを使ったトゥイーポップ(ギタポ)、そしてヴェルヴェット・アンダーグラウンド風味のインディ・ギターロック。それぞれにウェルメイドな曲の連打連打でとにかく飽きないんですよね。

 そしてフィービー本人もショーのバラエティさ加減を楽しんでいてですね。大筋はアコースティック・ギターのスタイルではあるんですけど

エレキギター弾くときは、こういうメタル系のギター弾いてみたり、あと、気が高まるとステージから降りて、客席の前方の柵まで行って積極的にコミュニケーションをはかるは。かなりステージは降りてましたね。

 そしてMCになると、歌声とは対照的な少し低めの声でちょっとぶっきらぼうに客を煽る感じなんですよね。それがまたかっこよくもあり。

 曲の幅も、積極的なライブの進め方も申し分なく、すごくオーディエンスの掌握が上手い感じがしましたね。

 ただ、この日に関して言えばちょっっとナーヴァスなところも
あったのも事実です。中盤の山場のバラード「Moon Song」のとき、彼女、演奏2回止めたんですよね。ちょっとこのとき、モニターに映った顔がイラっとしてるように見えたので、なんか神経質になることがあったのかなと、少し不安にもなりました。それがなければ、このライブも前日のアークティック、ミツキ、ビヨークに並び得るものだったと思います。

 ただ、そこを除くとほんつに申し分なし。前日のミツキ同様、カリスマ性と求心力の強い、今様の新しいロックスター像を見たような気がしました。

ジェシー・ウェア(第1ステージ 19 30)


続いて、本当はここで夕食を入れたので、半分見てないのですが、このジェシー・ウェアのライブはすごく見事な感じでしたね。

彼女はイギリスの女性R&Bシンガーで、デビューの時からそこそこ成功はしてたんですけど、2020年に発表した4枚目のアルバム「Whats Your Pleasure」と言うアルバムがやたら評判良かったんですよね。これでちょっと気になってたんでどんなものか見てみようと思ったら、やっぱ百聞は一見にしかず。少しでも見れて良かったと思います。

 まず彼女、アルトの声の伸びが素晴らしいんですよ。いまどき声を張り上げる女性シンガー、黒人女性R&Bでもなかなかいないから、まずここが気を引きました。それプラス、すごくUK R&Bらしい感じなんですけど、ハウスやポストパンク調のトラックがすごく今っぽいイギリスだったんですよね。特にハウスはアメリカでも今年ビヨンセがふんだんに取り入れてもいたので、2年前のアルバムは時代の半歩先をいっていたんだなとその価値を再確認しましたね。

 あと、バックダンサーのゲイたちの濃厚なダンスですね。僕がイギリス旅行してた頃に、金曜の夜にそういうのが多かった気がするんですけど、「ゲイ・ナイト」みたいのがあって、女性アーティストがそこに出演するようなケースがあったんですね。僕は実際には行ったことないんですけど、ただここでジェシーがやったステージって、いわばそのルーティーンを大きなfゲスの場でリアルに見せた感じでしたね。こういうとこでも「本場」が感じられて興味深かったです。

 そうでなくても今回のプリマヴェーラ、観客のLGBT率がものすごく高いんですよね。欧米の場合、女性アーティストのファン層に潜在的に多くはあるんですけど、サンパウロのその規模は南米一の影響力の大きさですからね。そのパワーが特にこの2日目に強かった気がします。

Lorde(第2ステージ 20 50)


 続いては、Lorde。正式には、この日のヘッドライナーととらえてもおかしくないと思います。動員だけで見たら、前日のアークティックについで人集められるの、どう考えても彼女なので。

 Lordeといえば、2010年代の女性アーティストで、インディ寄りのアーティストで限りなく上から数えたほうが早いくらい成功した人だと思ってます。僕も彼女の登場には興奮したし、2014年、2018年とサンパウロに来た際には2回とも見に行きました。あの頃はまだ18歳、22歳と歳もひときわ若かったからなおのこと期待していたわけです。

 そんな彼女も昨年、サードアルバム「Solar Power」がキャリア史上はじめてコケたアルバムになりました。それに関しては正直僕はそんなには気にしてませんでした。アルバム1作外す程度のことは誰だってあると思ってましたから。いったんライブでも見てしまえば、そういうネガティヴな印象はすぐに一掃されるだろう。そんな風に思っていたのです

が!

えっ、え〜。

ちょっと、このヘアスタイルに、この衣装。ちょっと微妙・・・・。

 で、ステージングも

まあ、きれいちゃきれいなんですけど、ちょっとアイドルじゃないんだから・・・という印象は正直ぬげないものでしたね。

 あと、曲もファーストのときのダークさとか、セカンドでの「今の娘らしいケイト・ブッシュ」っぽさが消えた、どこかライトウェイトな感じが否めないんですよね。

この歌ってるときのクネクネした動きとかも、前日に見たミツキの豪快さ、必死さに比べると、「ポップスターにでもなりたいわけ?」と言う感じだったし。

僕が望んでいる彼女というのは

ブリット・アワードでボウイ、ロックの殿堂でニルヴァーナのトリビュートをやったときのLordeなんですよ。男が歌っても難しいボウイやニルヴァーナの曲を堂々とシリアスに聞き応えあるものにして歌った、あの姿なんですよ。

 こんなテイラーもどきなポップショーじゃない。過去2回見に行った時は、そんな僕の求める姿があったのに、今回はそれが消えてるんですよね。

 あと、進行でも彼女はなんか司会者みたいな話し方をして、不必要にMCが多かったんですよね。しかもあんまりそれが面白くなくて。真面目なメッセージとかもあったんでそこは良かったんですけど、なんか事前に決めた台本を読んでいるかのような進行はロックっぽくなかったですね。


唯一、フィービーをゲストに呼び寄せてデュエットしたのは見てお得感はあったんですけどね。ただMCで「今夜は素晴らしい夜よ。フィービーも、カロリナ・ポラチェックもチャーリーXCXも出るんだから」と煽ったのは違和感ありましたけどね。「いや、別にあなたが呼んだわけじゃないのに」というか。

 まあ、これまで築き上げてきたファンが熱狂的に盛り上げていたので悪い印象は一般的には与えてないとは思うし、それがアリーナ・スターとしてのテイラー・スウィフト程度で満足するタイプの人には十分なのかもしれないとは思います。でも、もっと、もっと精神的な刺激を求める、よりロックな感性を求める向きにとっては、今後に対しての一抹の不安は抱かざるをえないショウでしたね。

トラヴィス・スコット(第1ステージ 22 00)

 続いて、形式的なヘッドライナーとなります、トラヴィス・スコット。この2日、特に2日目の女性アーティスト続きの中でかなり浮いた存在にはなったかと思うんですけどね。ここだけなんで、野郎のトラップのラッパーなのかと。

これ実は伏線がありまして。本当はトラヴィス・スコット、2020年のロラパルーザでサンパウロ来る予定だったんです。ところがそれがパンデミックでキャンセルとなり、2年後のロラ再開のタイミングで来ず。結果的に今回のプリマヴェーラでリベンジとなったわけです。

 会場一帯にはちょっと幻想的な煙がもくもくと湧きました。まあ、これがいわゆるマリファナってやつなんですけどね(笑)。日本じゃなかなか考えられない光景ですね。


10分押しくらいでライブはスタート。トラヴィスはのっけから馴染みの曲を立て続けにやりはするんですけど、正直なところ、すごく古臭く感じたんですよねえ。

 これ時期の問題なんですよね。ロラパルーザが2020年に呼ぼうとした時が2020年3月頃。この時点ではまだ彼が2018年の秋口にリリースした「Astro World」がヒットしたばかりでしたから、まだ新鮮な感じがあったんですよ。

 ただ、もうトラヴィスみたいなトラップ・ミュージックも、その後の2年間でもうすっかりいろんなところで流れすぎて、普通の音楽になっちゃいましたからね。なんか新鮮味が全然なかったんですよね。まだ「Astroworld」のアルバムの方にトラップを先に進めてやろうとする野心は感じられたものだったんですけど、今回のライブではそういうのが感じられませんでした。

実際の話、彼自身もあのアルバムからもう4年、次のアルバムを出していないし、トラップをどうしていきたいのか、という命題が彼の中でもまだ見えていない感じがしたんですよね。その意味でちょっと物足りない感じがしたし、「今やるべきタイミングではなかったのか」とまで思います。せめて、アルバムが出た後のツアー・タイミングで呼ぶべきだったんじゃないか、とも思えてきます。

カロリナ・ポラチェック(第3ステージ 23 20)



ここから先は正式にはクロージング枠です。この前の日も実はあってビーチハウスとか出てたんですけど、会場が家から遠くてタクシー代がかかるのでさすがに2日連続は難しいんで前の日は断念。この日ももっと長くいたくはあったんですけど、このカロリナ・ポラチェックのみで終わらせることにしました。

 ポラチェックは更にこの後にでるチャーリーXCXとの共演でも知られる、今のアメリカで最も冴えたエレクトロ・ポップの女性SWSなんですけど、その関係か、第3ステージでこそあったんですけど、会場は満杯。「そんなに知名度あったのかよ」と驚くくらいに合唱も起こってましたね。

 彼女の曲はエレクトロの部分の音色のセンスの良さもさることながら、曲展開のドラマチックさや、曲そのもののフォーク、それもトラッドフォーク風味がすごくいい人だなと、改めて思いました。カバー曲にコアーズの「Breathless」を選んで本家よりはるかにアイリッシュ風にアレンジしたりするところにそれを見ましたね。最新シングルの「Sunset」のフラメンコ風味もすごく今のラテンブームの意識もありつつ、根っこからしっかり音楽理解してる感じがあるし。

でも、やっぱり一番かっこいいのは2019年の名曲「Pang」のダイナミズムですね。エレクトロの高音部とピアノの低音部。この二つを使ってるだけで曲に劇的なドラマを生み出せているこの名曲は、ライブでやると更に高揚感がありましたね。

元がソングライター仕事も多く地味な印象もある人ではあるんですが、ファルセット多めのフォークシンガーみたいな歌声もしっかり通りが良くライブ映えするし、歌の際のコアグラフ(振り付け)もしっかりあってエンタテインできるし、かなりちゃんとしてます。もっともっと注目されて良い人だと思いますよ。

そんなポラチェックが終わって、24時30分。月曜の朝で終電はもうありません。次の日の仕事も早いし、クロージング・アクトのチャーリーXCXには1万人くらいの人が待機してる。午前2時くらいにチャーリーのライブ見た人たちが一斉にタクシー、ウーバーを争奪戦するわけです。そんなの何時になるかわかったもんじゃありません(笑)。というわけで泣く泣く会場を後にしました。ポラチェックの真裏がファーザー・ジョン・ミスティだったのもうらめしいです。この辺りはもう少しうまくプログラミングして欲しかったところです。

 でも、2日間ですごく充実のラインナップ。来年以降もぜひ開催して欲しい!あと、制作がこれ、LIVE NATIONだったんですよね。日本にも支部あるから、日本版もぜひやってほしいです!








 







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