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沢田太陽の2020年1〜3月のアルバム10選

どうも。

では、3ヶ月おきの恒例企画、アルバム10選、行きましょう。

今回は2020年1月から3月の3ヶ月で、僕が凄く好きで気に入ったアルバムを10枚選んでいます。

今回、迷いました。候補が凄くあったから。ずば抜けた作品は他の3ヶ月に比べたら少なかったんですけど、その分、「いいアルバム」はたくさん存在した。そんな3ヶ月でした。

まずは、その10枚のジャケ写から見てみましょう。

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こんな感じになりましたが、諸々、語っていきましょう。

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狂(Klue)/Gezan

 まずは1月に出た、このGezanのアルバムですけど、これ、衝撃でしたね!僕、この年間ベストに伴う企画、4年やってますけど、日本のアーティストで初めて年間ベスト、入りますね、これは。今の日本に、こんなに鋭角的だけど知的で暖かい言葉で現代の日本を描写できる言葉の力と、ハードコア・パンクとヒップホップとファンクとU2をかき混ぜたような完全にオリジナルな折衷感覚、コンセプト・アルバムを作れるだけの構築力、そしてRCサクセションやナンバーガールを強く彷彿させる「日本のロックの理想的継承者としての風格」を持ったバンドがいたなんて。このアルバムでの飛躍がすごかったとはいえ、なんで誰かもっと早く教えてくれなかったんだ、という気持ちでいっぱいです。その分、これから目一杯愛していこうかと思ってます。

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7 : Map Of The Soul/BTS

続いては、BTSのこのアルバムですけど、ご存知の方も多いと思いますが、このブログ、2月の後半は毎日、彼らのこと、書いてました(笑)。それくらい、このアルバムは衝撃的だったのと、これと共にKpopの実情のレベルの高さを思い知った、僕にとっては重要なアルバムです。RMを筆頭とした3人の高スキルのラッパーに、ジョンググ、ジミンをはじめとしたタイプの違う4人のシンガー、そしてジミンを中心とした圧倒的なダンス。彼らが「ボーイバンドのアート」を最高級に高め、それをアメリカのメインストリームのポップの中で彼ららしさを殺さない形で昇華させ、その結果、米英日仏独の世界5大マーケットで同時に1位という記録まで打ち立て、さらにモンスタXやNCT127の成功に続く「コリアン・インヴェージョン」とも呼べる道まで切り開いた。「一過性の可愛らしいアイドル」なんかじゃなく、アーティストとしての類稀なる実力こそがなした業なんだと、敬服しています。Kpopの歴史にとっても、これはマイルストーンとして語られ続けるような気がしてます。

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West Of Eden/HMLTD

続いてはHMLTD。今の、そしてこれからのUKロックシーンの一つの中心地になりそうな、サウス・ロンドンのシーンを何年か前から代表していた存在が今年になってようやく発表したデビュー・アルバム。70年代に初期ロキシー・ミュージックや10ccが築き上げたキッチュなアートポップを、架空なウェスタン・ムーヴィーの世界を結びつけた唯一無二の音楽絵巻とストーリー・テリング。今のUKロックにここまでの個性を発揮出来ているバンドも珍しいですが、あまりにも他の違い過ぎてついてこれない人が多いからなのか、商業的成功に不当に結びついていないところも、また、かなりもどかしいです(苦笑)。ただ、そうではありながらも、引き続き、サウス・ロンドンのシーンを中心となって牽引しそうなポテンシャルを強く感じさせるので、ここからまた何か始まればいいですけどね。

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Color Theory/Soccer Mommy

続いてはサッカー・マミー。23歳になったばかりのツイン・テールの女の子ソフィー・アリソンのセカンド。デビュー・アルバムも僕は2018年の年間の4位に入れるほど大好きだったんですけど、このアルバムは、前作ほどの驚きこそはなかったものの、それでも彼女自身のソングライティング・スキルの成長を力強く感じさせた入魂のアルバムです。彼女の場合、「90sガールズ・オルタナの継承者」という言われ方をしますが、僕にはむしろ、初期アヴリル・ラヴィーンのソングライティング・チームだったThe Matrixのメロディやコード進行の鋭角的な部分だけを嗅ぎとてそれをさらにインディ風味に発展進化させたような、2000年代育ちの今時の女の子らしい感覚がすごく気にいってます。同世代でも、生粋のインディロック少女なスネイル・メイルとすごく良い意味で対照的な感じがあるというか。このアルバムでようやくビルボードのトップ200に入ったソフィーですが、スネイル・メイルのリンジーとともに新しいシーンを切り開いてほしいものです。


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Underneath/Code Orange

続いてはコード・オレンジですね。彼らも2017年の前作あたりから、「時代のラウドロックを担う存在」としてかなり絶賛されていましたけど、このアルバムはそのポテンシャルをすごく分かりやすい形で高めた力作でしたね。根本はメタルコアっぽいんですが、そこにグリッチ・テクノを大胆に取り入れ、両方の音楽の持つ鋭角性を損なわず表現できているのがすごいです。同じような路線でもBMTHがメロディをポップにさせているのとは対照的に、かなり激しいままなところがツボな人も少なくないと思います。それでいて曲がないがしろにされているわけではなく、女子ヴォーカリストのリーバ・マイヤーズの歌うメロディックなフレーズもしっかりフィーチャー出来ているし、こうしたマッチョなサウンドな中にバランスよくフェミニンなニュアンスも表現できているのもいいです。彼らはアメリカのピッツバーグの出身あのですが、同じく東部と五大湖の中間くらいの位置にあるクリーヴランドが生んだナイン・インチ・ネールズの理想的な後継者だと思います。

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A Written Testimony/Jay Electronica

続いてはジェイ・エレクトロニカです。00年代から注目されつつも、なかなかデビュー・アルバムを出そうとしなかった南部のカリスマ・ラッパーが、40を超えて初めて出したアルバムですが、これも傑作ですね。この3ヶ月はUKのJハスも、エモ・ラップで頭一つ抜き出たリル・ウージ・ヴァートも良かったんですけど、アルバムの完成度でこれが上回ってました。このアルバム、現在のトラップ、エモ・ラップに見向きもせず、フレンチ・テイストや60sの映画音楽を思わせる文系テイスト濃厚なトラックを取り入れてる時点で今の95%のヒップホップと完全に一線を画しているし、ブラック・カルチャーのヒストリーにまで踏み込んだコンシャスでシリアスなリリックも、今のケンドリックやJコールを先んじていた、というか、パブリック・エネミーやKRSワンの遺産を継承していた人がいたことを証明しているようというか。そんな人をジェイZが全面バックアップし、トラヴィス・スコットが現在の若手代表で花を添えている光景もいいです。やっぱ、ヒップホップならどうしてもこれですね。

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Every Bad/Porridge Radio

続いてはポリッジ・レディオ。彼女たちは、アイドルズで注目を浴びつつあるイギリス南部のブリストル出身の女3人男1人のバンドですが、今のUKのバンドの中でも、実力抜きん出てますね。彼女たちの魅力はなんといっても坊主頭の女子ヴォーカリスト、ダナ・マーゴリンで、もうほとんど彼女のバンドと呼んでいいほど、強烈なカリスマ性を放っています。野太い大きく、サビになると感情の放出が止まらなくなる彼女の声の力。それだけで十分に引っ張れ、そこに他のメンバーの、その声とリリックにあったバッキングが入る、というパターンです。一見、グランジっぽく聞こえつつも、あくまで主役が声で、自由度の高いアレンジができている点でPJハーヴィーやジェフ・バックリーに近いものを感じさせるし、わかりやすい言葉で自身の孤独や気持ちの混乱を歌い上げるところはモリッシーに似てますね。加えて、ダナ自身の語録が面白い。「夢は世界一のロックバンド」「私にその実力があるのはもう知っている」とNMEで語って話題になったんですけど、同誌に女性でそのセリフ吐いた人って、多分、これまでいません。批評界隈では大絶賛だったので、なんかのきっかけがあればいつでも爆発できる状態にはありますね。

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After Hours/The Weeknd

続いてウィーケンドですね。今年に入ってからのメインストリームのポップでは、昨年の年間ベストにギリギリで入れたハリー・スタイルズと、このウィーケンドの新曲群が群を抜いていいですね。彼の場合、ヒットはこの5年くらいずっと出しつつも、いつもインディ時代のEPと比べられて時に批判もされていたんですが、このアルバムでのアイディアが痛快なこともあってか、今回、そういう批評の論調が消えてますね。それくらい、突き抜けて面白いアルバムです。80sテイストは予てから強い人ではあった人ですけど、今回のアルバム、前も書きましたけど、思い切り「マイアミ・バイス」でシンセの使い方が同じあの時代のリバイバルでも、より立体的になったというか。それがヴェイパー・ウェイヴのブームと重なる現在せいもあるしね。本人も80s後半を思い切り意識してるのは、肩パッドのスーツとマスターシュでわかるし(笑)。安っぽいサックス入れたレトロなアーバン感しかりね。それでいて、アルバムの根幹を成しているのがB級ホラーという根の暗さも、今回のサウンド・コンセプトとの絶妙なミスマッチでそのズレが面白いし。今年を代表するヒット・アルバムになるとは思いますが、中身もこれ、素晴らしいですよ。

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3.15.20/Childish Gambino

ジャケ写は反映されないのがもどかしいですが(笑)、チャイルディッシュ・ガンビーノのアルバムです。ドナルド・グローヴァーの場合、僕はどうしても俳優、脚本家としての印象と愛着が強すぎて、ガンビーノに関して言えば、「趣味の良さで得してるよね」と、前々からそこまで評価をしてきてないのですが、今回に関しては、ミュージシャンとしてもしっかり評価できる作品ですね。これまで、「オルタナティヴ・ヒップホップ」とか「現代流ファンク」とか、着眼点の面白さを彼自身のドラマや映画の好印象とともに雰囲気で乗り来っている印象が強かったんですけど、今回に関して言えば、去年のソランジュやタイラー・ザ・クリエイターが示した、「モダン・アーバン・サウンドの実験性」を、よりポップな楽曲でまとめた印象なんですが、そのまとめ方が絶妙にうまい。前から、「ラッパーじゃなくてシンガーでいくべき」と思ってたんですけど、今回は彼の持ってるメロディメイカーとしての資質が、時代に適切なサウンドとともに生かされたというか。その意味では本当に「時代も味方しているな」と思わせる勢いがあります。ただ、それでも、このジャケ写と、曲の頭出しの時間を曲名にしたのはいただけないですけどね(苦笑)。


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Saint Cloud/Waxahatchee

そして、最後を飾るのは、目下のところ、ナンバーワン候補です。これか、ポリッジ・レディオなのかなあ、この3ヶ月は。ワクサハッチーのこのアルバム。ケイティ・クラッチフィールドといえば、前々からアメリカのインディ・ロック界隈の中ではエンジェル・オルセンとともに次代を担うことが期待されていた人ですけど、このアルバムでは彼女が本来持っていた、南部出身者らしいトラディショナルなカントリー・テイストが、インディギター・ロックと高度なケミストリーを起こしたというか。絶好調時のライアン・アダムスとかに匹敵する見事な新世代カントリー・ロック・アルバムですね。とにかくメロディと、曲の進め方の説得力がここ数年に聞いた音楽の中でも秀逸の出来だし、インディとか、カントリーとか、フォークとか、そういう音楽的なことを何も知らなくても、スーッと入り込んできます。歌の力だけで、ここまでいいアルバムって、去年のビッグ・シーフのアルバムくらいじゃないかな、ここ数年だと。余計なアレンジが一切ない、骨格だけのシンプルなアレンジも文句なし。ケイティ、もっとカリスマティックに目立っていい人だと思います。


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