せっかくの好意にお金の話はNG
京都に戻れば、
妻や子どもが温かく迎えてくれる。
そしてときに、
妻の両親が豪勢な手料理を用意して
もてなしてくれることもある。
(今は断酒中ですが)お酒もたくさんあって、
大好きな魚料理がずらり。
みんなおしゃべりで、
尽きることのない話題
飽きることのない時間は
あっという間に過ぎてしまいます。
名残惜しく、
0時前に家路に着こうとするとき
「ではそろそろ…
今日はありがとうございました。
お返しとして
20,000円でよろしいでしょうか?」
なにを思ったか突然
私がそんなことを言い出したら
どんな空気になるでしょうか?
楽しい宴は
一瞬で冷え込んでしまい、
お互いよそよそしく、
そしてもう2度と
お誘いいただけなるかもしれない、
想像するだけでも
なかなか恐ろしい場面です。
■社会規範と市場規範。
わたしたちは
異なる二つの規範が規則をつくる世界
に生きていると言われています。
友だち同士の頼まれごと、
「この荷物を2階に運ぶのを手伝ってくれる?」
といった社交性をともなう、
ほのぼのとした、
すぐにお返しする必要はなくて、
お互いに気分がいい世界が、前者。
給料、賃貸、独立独歩、個人主義、
支払った分に見合うものが手に入るという
価値観、世界が
後者になります。
そしてこのふたつの規範は
別々の路線に隔てておくことで
葛藤を遠ざけることができます。
つまり
社会規範に市場規範を導入すると、
人間関係を損ねるということ。
冒頭の事例は
その最たるものです。
■人は
お金が絡まないほうが熱心。
そんな心理を証明する実験があります。
右に四角、
左に円の図形がある画面上にマウスを動かし、
円を四角に重ねる
という課題。
Aグループは5ドル、
Bグループは50セント、
Cグループは報酬ゼロで
この作業をしてもらったところ、
Aは平均159個、
Bは平均101個、
そしてCは平均168個の成果を残しました。
さらに続けて
お金を「プレゼント」に替えて
たとえば
5ドルをゴディバのチョコ
50セントをスニッカーズ
に替えてみると
3グループの平均値はほぼ同じ。
ちなみに
ゴディバが5ドル
スニッカーズは50セント
被験者にチョコの価格を明かしたうえで
作業をさせると
現金に対して示した結果と
ほぼ同じ結果になりました。
人は社会規範が規則をつくる世界
のほうが熱心に仕事をする、
そんな心理を
科学的に証明した実験でした。
■とある託児所で
遅れて迎えに来る親に対して
罰金を科すとどうなるか?
この実験では
より悪影響が認められる結果になりました。
遅れてくる親は
先生や託児所に対して
申し訳ないという気持ち、
後ろめたい気持ちになっていましたが
罰金を科された瞬間
罰金を払うのは自分次第
遅刻をする、しないを決めるのも自分
という割り切りが発生。
社会規範で動いていたルールが
市場規範に移り変わり
迎えに遅れる率は
むしろ増えてしまいました。
その後、託児所では
罰金ルールを取りやめましたが
遅刻の数は元には戻らず
さらに増え続けたといいます。
社会規範も罰金もなくなったわけなので
無理もありません。
社会規範が市場規範によって
毀損されると
その傷はなかなか癒えず
社会的な人間関係の修復は困難を極める
そんな実験でした。
■キャップ・アンド・トレードは
金銭によるインセンティブで
企業の環境汚染を減らす試み。
汚染量が少なければ、
汚染割当量の購入は少なくて済む。
あれ?これって
託児所のように失敗するんじゃ…
そんな鋭いカンを働かせたのは
私だけではないはずです。
環境を汚すと罰金になるんだったら、
経営のバランスが優先されて
環境保全への取り組みは劣後してしまわないか?
モラルをもって
環境破壊を食い止めよう!
という社会規範に対して、
市場規範が割り込んでくるからややこしくなる。
倫理、環境への配慮は
希薄になってしまうので、
そうではなく
環境汚染を
取り引きで解決できないようにしておけば、
企業の環境を守る
意識、モチベーションは逓増するはず。
社会規範によって環境への取り組みは
熱狂的になるからです。
■もっと身近に考えると、
たとえば気になる女性をデートに誘い、
食事や映画につれていき、
なにかとプレゼントしたりしているときまって、
社会規範と市場規範の
折り合いをつけるのに苦労してしまいます。
これだけお金を使ってるんだから
付き合ってくれても…
そう思って「投資金額」を
がまんできずに彼女に伝えたら最後。
絶対に付きあってくれないでしょうし、
もう二度と会ってくれない可能性すらあります。
人間関係を
特別な領域に維持して、
市場価値から遠ざけておく。
そのために支払わなければいけない
(自分だけが知る秘密の)金額なのに、
それを口に出してしまうと、
売春婦のように扱われたと、
侮辱されたと
彼女の怒りを買ってしまうのは
当然の成り行きです。
■社会規範と市場規範。
ビジネスで考えるとどうだろう?
既述のとおり
両者は融合しませんので
割りきりが必要です。
自分たちがどんな価値を提供し
見返りになにを期待しているか?
そんな下心は
はっきりと明示すべきでしょう。
あるときは家族的に扱って
あるときは顧客として扱うなんて
消費者が売り手の都合を
気前よく受け入れてくれるわけありません。
社会的な関係を望むなら
どんなときでもその関係を維持すべき。
そうでなければ
割りきって、堂々とお金の話をする。
言うまでもありませんが
提供価値の明確な定義と
価値そのものの質の担保は必須です。
今日も最後まで読んでくれて
ありがとうございました。
それではまた明日。
おつかれっした!
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