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「自分のことは自分が一番よくわかっている」という嘘


「ソロモンのパラドックス」は、以前noteに書きました。旧約聖書に登場するソロモン王は、深い知恵があり、問題解決に長けていましたが、自分のこととなるとけっこうミスをしていた、という話。人間は意外と「自分のことがわからない」ということを示唆する史実でした。

「汝自身を知れ」とは、デルフォイのアポロン神殿に刻まれた言葉。フランスの哲学者、アランは「幸福論」のなかで、最大の敵はつねに自分であり、自分の判断ミスや思い込みこそが、ムダな苦しみを生むと指摘しました。人はだれしも「自分のことは自分が一番よくわかっている」と思いがちですが、自己評価ほどあてにならないものはありません。

他人の言葉に気をつける人は多くても、「自分の言葉」に疑いを持つ人はけっこう少ないと思います。他人のことはなるべく具体的で詳細な事情まで考慮するようにして、自分のことはあまり特別視せず、ちょっと引いた目で一般化してみるぐらいが、他人とのコミュニケーションではちょうどよくなります。

経験があるからといって、いい判断ができるわけではなく、年をとっているから、正確な意思決定ができるというものでもありません。アランの言葉は科学的にも認められていて、ライス大学のハヨ・アダム教授の研究では、「自己の理解が深い人ほど仕事で成功する確率が高く、人生の満足度も高い」傾向を報告しています。

「セルフコンセプト・クラリティ」とは、心理学の用語。「私は人生で何がほしいか分かっている」「私はどのように行動すべきかを理解している」と心から思える人のことを指します。自分の欲望や行動原理をよく理解できている人ほど幸せで、仕事のパフォーマンスも高いそうです。

組織心理学者のターシャ・ユーリックは、95%の人は「自分のことは自分が一番よくわかっている」と考えますが、実際の理解度は10%程度。自己分析能力には驚くほど欠陥があって、自分のパフォーマンスや能力は正確には把握できていないことを報告しています。ドキッとする研究結果です。私も仕事の生産性、リーダーシップなどを過大評価してしまっている可能性が高いです。

運転のうまさ、頭の良さ、仕事のでき、周囲からの信頼。大半は自己を甘く見積もって、「平均よりは上」と回答しますし、犯罪で起訴された人も「自分は親切な人間だ」と答えるなど、受け入れがたいデータはたくさんありますが、自分のことを正確に判断できないことはもう間違いないと思われます。

ということで「クリティカル・シンキング」の本を読み漁る日々です。自分自身を客観視する冷めた視点を持ち自問自答するためには、しかるべきテクニックがあるようです。できるかぎり偏りのない主張を構築できるように、思考力や判断力を磨いていきたいものです。仕事だけではなく、友人関係もよりよくなるように。

久保大輔




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