発生/遺伝学者、父になる

妊娠初期とつわりの話

まだ安定期前ではあるものの、妻が妊娠。現在7週目。
妻は絶賛つわりと格闘中。主に吐き気と倦怠感、脱水症状。

日本から妻が取り寄せた育児本には非常に分かりやすく妊娠と胎児の変化が記されていた。現在7週目はマウスでいうところのE14.5を過ぎたあたりだろうか。発生生物学者だった頃にさんざん見てきたE13.5も過ぎ、ほぼヒトの形をしたちいさな生き物が妻の中にいるらしい。

胎児の発生図やら、妊娠に必要な栄養素の解説などを見るに、医学と生物学が果たしてきた成果が見えるのは大変誇らしい。
安定期前で8週目あたりまでが初期流産のピークだそうだが、実際に染色体異常や遺伝子ノックアウトマウスの胎生致死の分布などを見てもおよそ一致するのである。おそらくは胎児自身の心臓や血管に依存しはじめる時期なんだろうと推測しているが、はたして。
昔は母体側の異常なんかをよく疑われたと聞くが、書籍やウェブページには初期流産のほとんどが遺伝子異常による結果だという知見が広まりつつある。科学リテラシーの広がりがこのまま継続されることを願ってやまない。

一方で、つわりのメカニズムやら個人差なんていうのはどうにも参考知見が少ない。マウスのつわりを調べるというのはなんとも難しいし、そこからヒトに応用するのも大変である。ヒト母体に色々と注射して応答を見るなんてもってのほかであろう。そういえばマウスは嘔吐反射も無い。

そんななかでタイムリーなことに、昨年のNature Communicationsに妊娠悪阻の遺伝学的解析の結果が出ていた。ここから少し学問寄りの話。

遺伝子診断23&Meの利用者の情報を元に、妊娠悪阻と関連する遺伝子を探すという、なんとも時代の流れに沿った論文である。しかもGDF15といえば、2017年のNatureで、食欲不振と体重減少についての論文が出たばかり(https://www.nature.com/articles/nature24143)。見事な結果であり、統計値も良い。受容体もはっきりしているので、これはもう阻害薬を作るしかない(などと言っているあいだにも製薬会社は動いているのだろう...)。GDF15は拒食症や、化学療法中の体重減少などにも関わるターゲットらしいので、これからの進展が楽しみである。

発生学の果たせてこなかった領域に遺伝学が手助けをして、多角的に知識が積まれていくことを思うと、まだまだこの業界を楽しみたいなと思うこの頃。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?