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客席を取っ払え

―客席を取っ払え!
シネマイムVR動画制作に寄せて

コロナ禍でのテンナインのライブ配信公演からもうじき2ヵ月が経つ。
その間、八王子演劇祭の演技アドバイザーとして4団体の公演に触れる機会があった。
演劇祭自体は紆余曲折を経てアーカイブ配信公演となったが、私自身は劇場で鑑賞することが出来た。それぞれの団体が個性を強く発揮し演劇の多様性を感じるもので、これはいち演劇人として嬉しくその想像力の可能性に感銘を受けた。
一方で、関係者のみが座する客席、ホールの規模以上に距離を取り作られた舞台に、ライブの魅力とはと考えさせられたのも事実だ。
ライブ公演で、「シネマイムの中身」という試みがあった、ステージ上にVRカメラを設置し視聴者はステージの中からスマホやVRゴーグルで360°好きな場所を観ることが出来る。ステージと客席という垣根を取っ払ったものだ。
しかし、ステージ上で行われているパフォーマンス自体は客席に向けて上演する作品のため、視聴者が視点を選べる楽しさ、客席からでは観られない景色を楽しむことは出来るが、自分に向かって上演されている感覚がいまひとつ得られないのも事実だった。
この2つの経験が、いまVR制作の根源となっている。
演劇は舞台芸術であり業種としてはサービス業に属する。
サービスを提供するという視点からすれば、隔たりのある客席も、その場に居る者に向けられている感覚のない上演も、まだまだ不足している。
これまで、客席に居さえすれば当たり前に得られたものの代わりとなり、異なる魅力を持つ何かを作り上げなければ劣化版に留まってしまう。
そこで考えだしたのがVRシネマイムだ。VRライブ配信の発展形と位置付けている。
(ライブ配信が理想ではあるが、ライブにした途端に画質が劣化するので、今回は予め撮影を行い、編集し配信する)
客席という概念は取っ払う。カメラはどこにでも置ける。しかも360°のVRにおいて対面でやる以上のことが出来るのに使わない手はない。
客席を取っ払うとすべてステージとなる。もっと言えば全てが作品世界になる。視聴者は作品世界の中で能動的に視点を動かして観ていく。
ただしあくまでシネマイムである。映画の再現という点はなんら変わらない。ただ、例えば上空で起こっているシーンを実際に首を曲げ上を見上げて観るとしたらどうだろうか。
映画の中で後ろから声をかけられるシーンで実際に後ろから声が聞こえたら?下を観ても地面とは限らない、そこにも演者がいてなにかのシーンが再現されるかもしれない。
このようにシーンの再現が四方八方で行われそれが連なっていくシネマイムが行われるのだ。
視聴者は首を、または身体の向きを切り替えてそのシーンを追っていく。生の舞台を観る以上に演者に動かされる(振り回される)空間が出来上がる。
そしてどう追っていってもあの映画の名シーンがばかばかしく無理矢理な、しかし簡単ではない身体と音で真面目に再現されている。しかも息遣いが聞こえるほどの近距離でだ。
そこには視聴者ただ一人と演者が作り上げる空間があるはずだ。
客席など要らない。作品世界のみ。そこに没入させるのだ。

こんな作品を作ろう。
それがVRシネマイムだ。


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