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DADA

  大型ショッピングモールの三階フロアーの椅子に座って、私は、昼食代わりのたこ焼きを食べていた。館内は、お盆休みで、家族連れでごったがえしている。

突然、フロアー内に女の子の絶叫が響き渡った。

声のした方を見ると、小学1、2年生位の女の子が、「買ってー!買ってー!」と泣き叫びながら、若いお父さんの胸を叩いている。お父さんは、黙って女の子の前に立ちはだかっている。横には、二歳位の女の子を抱いたお母さんが、それを黙って見ている。お母さんの腕の中の女の子は、お姉ちゃんにつられて、訳分からずに泣いている。多分、女の子は、欲しい服か何かを買ってもらえず、駄々をこねているのだろう。

フロアーの通行人は、みんな笑って見ている。自分の子育てや、自分自身に似たような事があったのを、懐かしく思い出しているのだろう。

ところが、その女の子は諦めず、大声で泣き叫び、地団駄を踏み、反抗の意思を表し続けている。お父さんとお母さんは、黙ってその女の子の手を取り、引きずって、エレベーターの中へ連れて行き、ドアを閉めた。

私は、昼食を終え、一階の駐車場へ行く時、表の玄関脇のベンチで、さっきの家族を見つけた。女の子は相変わらず、泣きながら、「買ってー!」を繰り返している。凄い根性だ。それでもお父さんは、黙って女の子の前に立ちはだかり、自分の胸を叩かせていた。

 あのお父さんは、彼女の結婚式で、笑い話として、今日のことを話すのだろうか?女の子は、そんな日があったことなど、すっかり忘れて、あの執着を、勉強やスポーツや恋に発揮するのだろうか?

そんなことを、ぼんやり考えながら、駐車場を出た。

(2020.8.14.記 )

次回作の製作費として、大切に使わせて頂きます。