【カウリス 島津敦好さん解説】銀行口座の不正転売を防げ。資金洗浄へ加担するな!
☆口座買取強化中☆ A銀行新品中古OK、B銀行新品中古カード有り、C銀行(振込限度額1,000万円)——。現在、X(旧Twitter)やSNS上で銀行口座を不正に売買するアカウントが増加している。一部では、法人口座が300万円という高額売買されるケースも出始めている。銀行口座の不正売買・転売の実態について、カウリスの島津敦好代表取締役にレポートしてもらいました。(金融ジャーナル2024年4月号掲載分を、一部再編集して転載。肩書き、数字等は掲載時点)
2023年末に口座の転売価格が高騰。法人口座は、300万円で売買されるケースも。
警察庁『犯罪収益移転危険度調査書』(令和4年度公表)では、「銀行口座を買い取る」などとSNS上に掲示して、口座転売を呼びかけるSNSアカウントの事例が掲載されるようになった。
不正に授受される銀行口座は、特殊詐欺をはじめとした犯罪収益での悪用につながる。2023年はフィッシングサイトによる被害額が80億円を超えるなど金融犯罪のオンライン化がさらに進んだ1年だったが、資金洗浄で使われる受け皿口座自体が個人口座のみならず、法人口座も含まれるようになるなどある意味で多様化した1年でもあった。
銀行口座の不正転売についてはX(旧Twitter)、Instagram、TikTokなどのSNS上で、従来から買い取りをうたうアカウントが大量に出回っていることが確認されてきた。
そして、2023年には、これまでと大きく異なる3つの特徴があった。1つ目は、買い取り価格の上昇だ。2022年は高額でも7万~8万円程度であったが、2023年末には1口座20万円程度の価格を記録する銀行が出てくるようになった。価格が高くても、犯行グループにとって使い勝手が良いと思われた銀行口座が2022年の倍以上の相場で転売されるようになった。
2つ目は、買い取り対象範囲の拡大である。これまではインターネット専業銀行、メガバンクが主なターゲットだったが、2023年10月以降にSNSで買い取り対象となった金融機関は、弊社のSNSモニタリングで確認したところ230社程度まで増加し、信託銀行、地方銀行、第二地方銀行・信用金庫への買い取り範囲の拡大が確認された。
特に、2023年末には、一部の地方銀行で「18万円程度」という非常に高額での買い取りが確認されている。2024年初には信用金庫の口座を一律12万円で買い取ろうとするアカウントが出てきた。
3つ目は、法人口座買い取りの増加である。弊社が最初に確認したのは、2023年8月下旬だが、それ以降、同様のアカウントが散見されるようになった。当時の買い取り価格は平均80万円程度だったが、2023年末に価格が上昇し、1口座あたり300万円での買い取りをうたうアカウントが出始めている。
個人口座に比べて送金額を高く設定できたり、凍結されづらい点が犯行グループにとってもメリットになっていると推察される。法人口座は特定の金融機関名が書かれないケースの方が多く、全ての金融機関の法人口座が対象となっている可能性は否定できない。
業界全体で「凍結口座」「不正利用者」の情報共有が不可欠。
口座転売の検知については、大きく2つの手法がある。具体的には、業界内で凍結口座情報を相互に連携し二次不正を抑止することと、インターネットバンキングの端末情報をモニタリングし、利用者が異なったタイミングを補足することである。
前者については、警察から凍結要請があった不正な口座情報を業界内で共有することで、同様の属性の口座の存在を相互確認し、該当する場合には本人確認の上、口座凍結を進めるという手順で行われる。不正利用者情報の連携に非常に時間を有するために、二次被害が出てしまうのが課題だが、共有までの時間を圧縮することで、防止することはできる。
後者については口座開設以降、ネットバンキング・アプリバンキングの利用時に大きく端末傾向が変わる場合を補足する。これをリアルタイムに確認することで、入出金・口座利用を保留とすることで、転売件数・転売価格を大きく低減することができている。
我々は2024年1月17日に弊社と不正口座情報の共有を始めているセブン銀行、UI銀行とともに金融庁内の昼休み講演会で口座の不正売買と対応策について講演した。
そこでの質疑応答でも、「なぜそのような情報共有を実現できたか。どのような社内整理が必要だったか」などの質問が出たが、個人情報保護法第27条(第三者提供の例外規定)第1項第2号(人の生命、身体または財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき)を論拠に整理をした旨をご説明した。
口座転売は犯罪グループに資金洗浄口座を提供し、早期発見や未然防止ができなければ、金融機関は間接的に資金洗浄に手を貸してしまうことにつながる。経営層が現状の把握を行うことはもちろん、業界全体でベストプラクティスや不正利用者情報を共有することが有益な打ち手となるのは間違いない。そして、業界全体のコンプライアンス対応コスト低減につながる打ち手にもなるはずだ。
島津さんのレポートが掲載されているのはこちら。