ジョコビッチが戦う理由

"僕らは誕生日も近いし、ジュニアからいろいろな大会で会っていたよ。テニスに対する情熱は同じだし、良きライバルだと思っている。けど、実のところ、テニス以外のプライベートの彼をよく知らないんだ。"

マレーは数年前のインタビューでジョコビッチについてこう答えている。

彼らがプロの舞台で初めて対戦したのは2006年のマドリードオープン。ジュニア時代のジョコビッチはマレーに歯が立たず、常に後塵を拝していた。
もちろん、ジョコビッチは今までの仕返しと言わんばかりに並々ならぬ思いで勝利に燃えていた。これには深い理由がある。最初のコーチ、エレナ・ゲンチッチの言葉だ。
彼女は練習中、ジョコビッチに口を酸っぱくしてこう言っていた。

"我々セルビアの民は常に1番でなければならない。この国でマイナースポーツであるテニスにおいてもだ。この世で1番以外は価値がない。お前がNo.1になればセルビアの偉大さを世界に知らしめることができる。そう、セルビア人が世界で1番であることを示せば、それ以外の民族は無価値であることを証明できる。"
ジョコビッチはこの言葉を胸にテニスに取り組んでいた。

ジョコビッチはプロになり力をつけ、前年のウィンブルドンではマレーと同じ3回戦に駒を進めた。

"やぁ、ノール! 君はプロになってからランキングをどんどん上げているね。けど、僕は簡単に負けないよ。"
ロッカールームでマレーはジョコビッチに声をかけた。

ジョコビッチは薄ら笑いを浮かべ、淡々とこう答えた。
"俺はやっとテニスというものを理解してきたよ。"

マレーは困惑しながらも笑顔で返した。この意味を試合で体感するとも知らずに。

試合開始からマレーが有利に試合を進めた。1stセットは6-1、ジョコビッチは何もできなかった。

"このまま自分の力を出せれば勝てる"
マレーはそう確信したに違いない。

しかし、2ndセット開始前のジョコビッチ表情を目の当たりにし、この考えは一変した。

それは顔に穴が空いているだけのような無機質な目。その瞳の奥は深く、冷たい。この世には感情を持たない人間が存在する。それは、ダンブレーン事件で彼が遭遇した、殺人者の目そのものだった。マレーは自分の友人、教師が殺害される光景が蘇った。
彼の手は震えた。瞬く間にサーブは弱々しくなり、ストロークも続かない。簡単なスマッシュ、ボレーのミス。彼はまるで別人になったかのように顔が青くなり、敗れ去った。

マレーは以前このような噂を聞いたことがあった。ジョコビッチはあのユーゴスラビア紛争でクロアチア人およびボスニア人虐殺を主導したスロボダン・ミロシェヴィッチらと同じベオグラード出身で、彼もそれに加わっていたと。ジョコビッチの戯けた振る舞いからは、彼がそのような悪人には見えなかったので、この噂は気に留めていなかった。しかし、この試合を通じてマレーは確信した。あぁ、彼はその通りの男だ、と。

ジョコビッチはこの試合を通じて新たな力を手に入れた。それまでの戦いはテニスというスポーツで勝つか負けるかだった。しかし、気づいてしまった。テニスも戦争も同じだ、いかに相手を辱め、屈服させるか。そう、まさに自分がユーゴスラビア紛争でクロアチア人およびボスニア人に行ったこと体現するだけだと。

このエピソードから分かるように、ジョコビッチのテニスの根底にあるものは民族差別意識である。彼の強さを支えているのはユーゴスラビア紛争で積み重なったクロアチア人およびボスニア人の夥しい●体である。彼はセルビア人がセルビア人たることを証明するために、これからも戦い続ける。


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