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【#100文字ドラマ】聴こえるはずのない声

突然に本が、時計が、鞄が身のまわりにある【物の声が聴こえるようになった】
嘲笑う同僚、心配する家族、距離を置く恋人。
止まらない物からの声に精神的に追い詰められるが『ある事件』をきっかけとして物語は意外な展開に…。

聴こえるはずのない声
プロット

ある日を境に、朝出かける時に上着の袖を通すと「おはよう」と言い、靴を履けば「いつもより遅いぞ」とまわりの“モノ”たちが話しかけてくる日々。もしかしたら一生このまま?と嘆いていると、まわりの“モノ”たちが色々と教えてくれるようになった。「この先で事故が起きるから迂回しなよ」ある日そんなハンカチの声を聞いて、いつもの道より遠回りで地下鉄の駅へ行くと、駅前はパトカー、救急車が何台も行き来し大変なことになっていた。事故だ。こうやって、ずいぶん得をすることもある。ただ、モノたちと交流するととたんに孤独になる。なぜかというと、人間と話す時間がほぼ無くなってしまうのだ。と言うより、人間と話すことよりモノたちのほうがはるかに有意義だから、人と話す気がなくなってしまうのである。モノたちは、色んなところに居て、色んなものを見ている。普通知らなくてもいい情報が話し好きなモノたちからどんどん入ってくる。「お前の彼女、これから上司とホテルで待ち合わせだ。」僕の腕時計がそう囁いた。何を言い出すかと思えば。「ホテルの名前は・・・あ、泊まっている隣の部屋で誰か殺されてるよ。」はい?仕事中だがとりあえず僕はホテルへ行った。部屋の呼びりんを押すと彼氏が来たと思いドアを開ける彼女。当然、彼女は天地がひっくり返るほど驚いたがそんなのはお構い無しだ。腕を掴みパニクる彼女を外へ連れ出しタクシーに放り込んだ。理由も何もかも必要ない。その後彼女の上司は遅れて部屋に着いて、ボケーっと待つこと1時間。突然警察がやって来て事情徴収となる。喚き立てる彼女に何の言い訳もせず、最寄りの地下鉄の駅の入口で降ろす。そうだな、もう彼女と二度と会うこともないだろう。でもいいことをしたと思っている。会社には直帰の連絡をして、公園でモノたちとそんな会話をしていると、こちらをチラチラと見る視線を感じた。そういえば、また見られてる。その娘は多分僕ほどではないが聞こえてるんだ。試してみた。枯葉くん、あの娘にこう伝えてくれ。「今夜、一緒に食事でもいかがですか。」すると、目の前に石ころが飛んできてそいつはこう言った。「はい。ぜひお願いします。」僕は小枝を拾って投げた。「何か嫌いなものはありますか?」小枝が帰って来てこう言った。「いいえ。何でも大丈夫です!」僕はとてもおかしくなって、笑いをこらえながら彼女の目の前に行った。「いつからなんですか。」「最近なんです。」「もしかして、さっきのホテルの、みんな知ってますよね?」「・・・はい。彼女さん大丈夫ですか?」「さあ。あ。あいつとはもうそういう関係じゃないです。」「ですよね。」この能力はあれが
隠し事は絶対にできない。逆に何でも隠さなくていいことって、とてもストレスがなくていいと僕は思った。

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