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乳ガン手術をしないという選択

病院の待合室。病院の無機質な感じとは違って、ブレストセンターの家具は全てピンク、コミュニティエリアまであり、沢山の本や雑誌が置かれている。診察を待つ間、今まで避けてきた乳ガンに関する本を初めてじっくり読んだ。


乳ガンの治療は、ステージが何であれほぼ100%手術となる。そこで真っ先に気になったのは、乳房再建に関する本。乳ガン手術、再建と言えば、女優のアンジェリーナ・ジョリーだ。彼女のように再建できるなら手術をしても良いかなという気持ちになる。しかし、その本には、沢山の症例が写真付きで説明されていて、上手く再建できるケースは非常に少ないことに気づかされる。


インプラントの場合、シリコンのサイズは数種類しかなく、また米国製のため日本人に合うサイズはなく、たとえ再建できても左右対称にならない。シリコンの代わりに自分の脂肪を注入することも可能だが、脂肪が壊死してしこりのようになることが多い。そして、再建によって局部が化膿し、ゾンビのようになってしまうこともある。人間の身体はそんなに単純ではないのだ。また、乳輪については人工的に作成したものに刺青するので、再建できたとしても不自然であり、結局温泉など人目が気になるところには行けない。ほぼ絶望的な気持ちに追い討ちをかけるように、2019年7月に乳房再建用シリコンの発ガン性が問題となり、米国製シリコンの回収がされ、再建手術が中止となっていることが分かった。


その時、私の名前が呼ばれ、診察室へ。ここは女性医師のみと思っていたのに若手男性医師が座っていた。彼は、私の顔も見ることなく、デスクトップスクリーンを見ながら、「最短だと来月末に空きがあります。」「は?」いきなり手術日を決められそうになり、急いでスマホのスケジュールを開く。秋の連休の週末は、ほぼエデン農園フェローシップで埋まっているため、「11月末はどうですか?」と返事をしてみた。医師は、ため息をついて「乳ガンの手術は、1日20件、年間800人の方々が受けられていて、先延ばしにしたら、手術しても抗がん剤治療を受けるようになりますよ。」彼は戸惑う私に呆れた様子で、「では1週間後のMRIの結果を見て日程を決めましょう」と言った。


診察室を出て、自分の意思とは関係なく、促されるままに尿検査、血液検査、心電図と手術の準備のための検査が行われた。ますます手術をしたくないという気持ちと、このままいけば手術されてしまう。どうにもならない成り行きに戸惑い病院を後にした。

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