八木柊一郎『国境のある家』・松原敏春『黄昏れて、途方に暮れて』・野田秀樹『贋作・桜の森の満開の下』・原田宗典『箱の中身』

『国境のある家』(担当:黒澤世莉)

「失われた30年」予言の書

はじめに
個人的な話から始めて恐縮だが、私は2021年9月に、静岡にある人宿町やどりぎ座3周年記念公演として『国境のある家』の演出をした。作家八木柊一郎との出会いは本勉強会で読んだ『三人の盗賊』で、これは2020年のやどりぎ座2周年記念公演で取り上げるきっかけとなった。どちらも公演企画の戯曲選びから関わった思い入れのある作家、作品なので、ぜひ本稿を書かせてほしいと立候補した。客観的な分析に欠ける、主観的な文章になると思うが、ご寛恕いただきたい。

どんなおはなし?
『国境のある家』作者の八木柊一郎は劇作家である。『波止場乞食と六人の息子たち』『コンベヤーは止まらない』にて、宮本研『日本人民共和国』『メカニズム作戦』とともに1962年第8回岸田國士戯曲賞を受賞している。現代日本戯曲大系では、デビュー作『三人の盗賊』(この中でも三人姉妹がモチーフとして扱われている)に続いて2作目の登場である。八木柊一郎は2004年に75歳で亡くなるまでに、テレビドラマを含め142作品を発表していると、ご子息八木啓太氏の資料で確認できた。

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