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「関心領域」をより深く観るために
「関心領域」の上映がキノでも始まっている。ぜひ見てほしい作品だが、パンフレットに興味深い論考を書いている、原作の翻訳監修もやっている田野大輔教授が、朝日新聞デジタルでのロングインタビューに答えていて、それが大変重要な論考になっているので、ポイントを紹介しておきたい。ネタバレ程度で半減するようなヤワな作品ではないので、安心してお読みください。
★主人公のアウシュビッツ収容所所長でナチ親衛隊幹部だったヘスは、木を傷つけないように部下に命令したり、馬に優しくねぎらいの言葉をかけたりします。ナチが自然保護に熱心だったことはよく知られていますが、我々が考える自然愛護とは相当違う。人為的に介入しなければ自然は守れない。という発想なんです。
★ヘスは虐殺を積極的に遂行することを出世のための指針としていたようなところがある。現場経験を積んで出世していこうとした個々の幹部たちの手に、具体的な実行方法は委ねられていたわけです。
★どうやってユダヤ人を絶滅させるのかという各論では見解の対立がありますが、ユダヤ人を絶滅させるという全体構想に異論を唱える人は一人もいません。
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★アイヒマン裁判を見て、ハンナ・アーレントは「悪の凡庸さ」を提唱しましたが、アイヒマンやヘスたち親衛隊幹部は、確信的にホロコーストを実行していました。アイヒマンはユダヤ人の強制移住を指揮し、その能力を認められて出世した。上からの命令で無理やり動かされているだけの意志のない「歯車」ととらえることは、明らかな間違いです。アーレント自身も、アイヒマンを単なる「歯車」とみる見方を否定し、その責任を厳しく問うています。
★「悪の凡庸さ」というのは、「アイヒマンのように普通の人間でも、巨大な悪に加担しうる」という自戒の意味であって、「アイヒマンのように巨大な悪に加担した人物もまた、普通の人間にすぎなかった」ではアイヒマンの罪を免罪するような意味になってしまいます。
★「関心領域」で描かれたヘスのようなナチ幹部は、とても「凡庸」な「歯車」とは言えない、確信的なホロコースト実行者です。
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