見出し画像

火から水で終わる。そして始まる。~「怪物」是枝裕和監督ティーチイン


徒然に 578
「怪物」最終日の日に若い女性の方が
「是枝さんいらしてお話したって本当ですか?」と恥ずかしそうにお話されるので
29日にいらしてお客さまからの感想や質問にいろいろお答えいただいて
とても良い時間でしたよ、とお答えすると
「どうしてキノにきて来てくれるのですか?そんな身近でお話ができるなんて」

是枝さんのデビュー作「幻の光」からずっと来ていただいていて
映画も、映画館も大切にしてくださっているんです、
とお話すると
「是枝さんの映画大好きで、またそんな機会があったら是非来たいので
キノをチェックします」といって
聞きたいことをきけたとほっとしたようでした。

是枝監督の新作が発表され公開になると、キノでも上映しますか?是枝さん来ますか?
とお問い合わせが来ます。
実現するまでには時間がかかりますがずっと上映してきました。

映画が好きって本当に一人一人、映画の受け止め方、持ち帰り方も違うので
集団ではない個であることの大切さを感じます。

・・・・・
お話の始まりから抜粋ですが少しご紹介しますね。

「昨年6月に公開されて日本でも、世界各国でもリピーターが多く、
これは坂元さんの脚本の力だと思う。
2018年10月18日プロットを読んだ。
「万引き家族」公開の後で、住む世界が違うと思っていた川村元気プロデューサーから
坂元さんの名前が出て・・・映画化が決まりました。

3部構成になっていて
お母さんに振り回され
先生に振り回され
そうして3章で子供たち自身に。

坂元さんのストーリーテリングの巧みさ、勉強になりました。
1995年のデビュー作「幻の光」以来、自分で書いてはいない30年振りの脚本です。
最初に読んだときの感覚が観た人に伝わるようにと思いました。」

と監督の映画へのいきさつのあと、さぁから質問を。
場内からはたくさんの手が上がり

●始めてみたのは「ワンダフルライフ」でした。
最初のころはドキュメンタリー風、だんだん大きな作品で物語風になっていったと思うが

→ ドキュメンタリーの時の根っこを意識しながら
2008年の「歩いても 歩いても」からセリフをちゃんと書いてみようと思った。

●子どもを描くことについて
子どもが持っている個性を大事にして役を書いている。
「万引き家族」「ベイビーブローカー」フランスで撮った「真実」も。

子供が見えている世界は、
大人が思っているよりも、子どもは大人だし
子どもは、大人は意外と子供だと思っている。

撮影の時は、子どもにとって親と先生以外、初めて仕事をする大人だと思うので
子どもにとって憧れられるなるよう頑張ります。(このことについては後の質問でも詳しく語っています)

●怪物って?誰?
→理解を諦めた時に怪物って生きられるのでは?

脚本はコロナ前
撮影はコロナあと
リモートで誰と向き合っているのか曖昧になる。
断絶からくる争いがいたるところで起こっている。

●教室のシーン、セリフのない子供たちもとても良かった。いきいきとしていた。

→教室に飾ってある絵や習字はみんなあの子たちが描いた。
時間をかけてみんなで作りあげていったので
ほめられるとすごくうれしい。


2回目のティーチインでは6回目です、という方や5回目です、という方など
複数回見ている方が多く、監督からは香港では23回という方がいて僕よりすごい、と。

●映画を観て世界が変わった。
最後のシーン、ふたりが自分を乗り越えてゆく、
生き方を肯定されたみたいで そこに「aqua」がながれて

→編集しながらここは「aqua」だと思った。
坂本さんのピアノがいいなと思い、自分のイメージのものを送ったら
2週間くらいで手紙がきた。(声が出ないので)
1・2曲イメージが生まれているので良かったら使ってくださいと。
最後にご一緒出来て自分にとって素晴らしい経験でした。

●窓から水路に落ちてまるで産道のようにこえてゆく
→火から水で終わり そしてはじまる。

●けしごむ拾いそびれたシーン
お母さんが外に行って戻ってきてもそのままで
なんだかわかんないけどすごいって思う。
田中裕子さんの幸せの解釈も

→映画の中に答えがあるかどうかはわからないけれど
僕にも世界が変わって見えた瞬間は数回ある。
映画ってすごい。
映画は観た人のもの。

校長先生がなぜ子供に足をひっかけて転ばせたんだろう・・わからない。
でも田中裕子さんが「わからなくてもいいと思います」と僕にいったんです。
わかるものと、わからないものがある。

●「誰も知らない」を始めてみました。たてたかこの音楽が好きです。
今回も家族の在り方を考えてしまった。
映画と同じくらいの息子がいる母子家庭です。
映画を母として観ていた。
何をすればよかったのか、子どもをめぐる状況は良くなっているのか?
子供がより生きやすい世の中になっているのか?
私はそう感じていない。どこまでよりそって上げれるのか・・

●もうお一人お母さんから
去年6月に観て、きょう2回目です。小6の娘がいます。
学校休みはじめて、自分も大学で学び始めたころで
心がざわついていた時期だったが
観て、心が晴れた。観て良かったと思う。
二人の少年の命の輝きをみて、娘の生きる力を信じたいと思った。
娘もそうだが今の子はしっかりしていて大人だ。
将来の夢なんて持たない。
子ども時代にしかないワクワクを持てたらいいのにと思う。
今の社会に未来はあるのか?

→心がけていることが一つある。
撮影では現実に初めて出会う働く大人たち。
楽しそうに働く大人たちを見せようということを徹底している。
生きていることと働くことはイコールで、
楽しそうに子供に見せたい。

イギリス人の女性が
「誰も知らない」がすごく良くて、字幕なしで見たくて、日本語を勉強しました。
というと場内から拍手がわき

映画を観た人たちひとりひとりが自分の中にある何かと闘って乗り越えたような、
映画を超えたそんな一体感でした。

最後に是枝監督は
「いい時間でした。今年はどこかでドラマ7話を配信する予定で、今編集中です。
豪華キャストです。
来年、映画も企画中。またこんな時間を持ちましょう」



●ちなみに是枝さんが最近の映画お気に入りは三宅唱監督の「夜明けのすべて」。
役者がとてもいいとおしゃっていました。
4月13日から上映です。

●樹木希林さんの不在について触れられたとき

「まる6年が経ったね、日本に希林さんがいる前提でどの役やってもらおうかと
考えていたので、いなくなって、
日本で撮ることから遠ざかってしまった」と。

そうして生まれたのがフランス撮った「真実」、韓国で撮った「ベイビーブローカー」、
そして日本に戻って坂元さん脚本の「怪物」、
いよいよ次回作は是枝脚本・監督作になりそうですね。
楽しみに待ちましょう。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?