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終わらないリズム、陶酔の17分間~「ボレロ 永遠の旋律」

徒然に 267

「主題も伴奏も、意図的にスペイン風にした。
昔からスペインのものが好きなんだ。
僕はスペインとの国境近くで生まれたし、
両親がマドリッドで出会ったからね」

   —1930年 ラヴェルが指揮したボレロの録音セッションのインタヴュー

・・

パリ・オペラ座で初演されてから100年近く、
時代と国境を越えて愛され続けている「ボレロ」、
私たちにとっても馴染みのある音楽ですね。
お盆のお休みめがけてスタートしましたのでまもなく4週目に入ろうとしています。
見終わったお客さまはこころでリズムを刻んで歩いているような。

スネアドラムのリズムに導かれ、わずか2種類の旋律が楽器を替えて繰り返されるという、斬新かつシンプルな構成に、
五感は虜にされ、17分間の作品を貫くクレッシェンドが、
カタルシスに満ちた壮大なフィナーレへと!
極限の音楽にして不朽の名作です。

でも驚くべきことにこの音楽史上最も成功したロングセラー曲は、
ラヴェル本人が最も憎んでいた曲だったというのです・・

1928年パリ。深刻なスランプに苦しんでいたモーリス・ラヴェルの元に、
ダンサーのイダ・ルビンシュタインからバレエの音楽を依頼されるのですが、
一音もかけずにいました。
失った閃きを追い求めるように、過ぎ去った人生を紐解いてゆきます。

戦争の傷み、かなわない美しい愛、最愛の母との別れ。
彼の周りにはそっと受け止めてくれる女性たちの存在がありました。
そうして引き裂かれた魂に深く潜りこむようにすべてを注ぎ込んで
「ボレロ」は誕生するのですが・・

憎んではいなかった。この曲が完成したことで彼自身が
跡形もなく消えてしまったのかもしれません。
彼の人生の全てを旋律に変えて
そして曲だけが残った・・・

終わらないリズム、陶酔の17分間、切なく美しい感動の物語です。


ブリュッセル・ハーモニー管弦楽団の演奏による「ボレロ」、
ヨーロッパを代表するピアニスト、アレクサンドル・タローによる
ラヴェルの名曲の数々、
そして元パリ・オペラ座のエトワール、フランソワ・アリュによる
生命力の爆発ような「ボレロ」、
今までなじんでいた曲も、映画の後には
あらたな「ボレロ」の始まり、
魂の震えが強く沸きあがってくるようです。

先日お客さまが
「また見たくなって」といらしてくださいました。嬉しいです。




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