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モノクロームのざわめき~「Opus」

徒然に598
「Ryuichi Sakamoto Opus」上映が始まっています。
暗闇の中でスポットが当たる1台のピアノと音楽家がひとり。
長く愛用のピアノだという。
子どもの頃、青年だったとき、中年にさしかかってきたころ、
若くはないがまだまだやりたいことがある、そのころ、
老いと病いと共に生きることを選んだとき、
自分には時間がないことを悟ったとき、
人はどんな人生を生きることを選ぶのだろう、
そんなことを思いながらずっと音楽家の指先を見つめ、
ピアノに向かう後ろ姿に。

細くやせた指先がピアノの鍵盤から一音一音導き出す音は
研ぎ澄まされ、そして、
この音はもうかえってくることはなく、
音楽家の元から解き放たれていくようにみえた。

もう1回、と
この闇の中で抗うように、拮抗するように、
自身から発する音を真に楽しんでいる。

この場を音楽家と共にすることで、私たちは何を思うのか。
姿勢を正し、まっすぐに向き合う生は
ぼくはこうだけれど 君はどう?
と問いかけられているようにも思う。

ざらついたモノクロームの闇に小さな灯り、
のこされたピアノが1台。


●監督された空音央さん

坂本龍一が意図したコンサートをできる限り忠実に映画化するため、
本人含めスタッフ一同、全身全霊でOpusを作り上げました。
出来上がった映画には物語やセリフはありません。
ピアノと身体、音楽と表情だけのコンサート映画です。
ウトウトしたら音楽に揺さぶられながら寝ちゃうのも一興。
本物のコンサートのつもりで音に身を預け、体験いただければ、
本人も嬉しかったんじゃないかと思います。

●撮影されたビル・キルスタインさん
私の担当は照明とカメラでした。撮影が始まると坂本さんの演奏、美しいオーケストラ・レコーディング・ホール、入念なサウンド・レコーディングが相まって、まるで大聖堂で撮影しているかのような、あるいは森の中でじっと座っているかのような、
独特の雰囲気が生まれました。
私は常に観察する状態を維持しようと努め、坂本さんのライブ・パフォーマンスをスクリーンに収めるために、あらゆる仕草やディテールを記録できるように準備しました。

この作品の素晴らしさは坂本龍一さんの演奏だけではなく、
その場の空気感をどれだけ誠実に残すことができるか、
スタッフの皆さんにかかっていたと思います。
「Opus」素晴らしいお仕事の結晶です。




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