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【劇王2024】『君と死を夢む』と劇王2024について@志月ゆかり

 お久しぶりのnoteです。志月ゆかりです。
 劇王参戦中はどこまで書いて良いのやら悩んだ結果何も書かないという選択をずっと取っていましたが、もう終わったので何でも書いてやるとの勢いでまたnoteを書いています。決して忘れていたわけではありません。まあ実際のところ更新していなかったので忘れていたのとほぼ同義ですね。

 今回は劇王2024の公募で選ばれた脚本、長久手市文化の家にて上演し特に惜しくもなく予選敗退した作品『君と死を夢む』について語りたいことを語りたいように語りたいと思います。お付き合いいただけますと幸いです。では早速参りましょう。

 今回の脚本のネタを思いついたのは去年の4月、桜が満開の松本城公園で花見兼散歩をしていたときでした。散歩はいいですね。色々と思いつけて。私が人生で一番うまく書けたと思っているとある脚本も、歩いているときや自転車に乗っているときに突然改善案がいくつも思いついたものです。
 思いついたのは4月でしたが、その種はずっと前からあったとある感覚でした。劇作家協会東海支部のX(旧Twitter)にて公開された意気込み動画でも話しましたが、私は昔から道の端の側溝を歩いていると、このまま蓋が外れて落ちるんじゃないかという感覚を常に持って歩いてるような人間でした。今でも、歩道橋を歩けば、「このまま床が崩れたら車にはねられて死ぬな」とか、信号待ちをしていれば、「以前見た動画みたいに突然車が突っ込んできてもおかしくないな」とか、家にいても「今地震が起きてマンションが倒壊したらどんな風に死ぬんだろう」とか、そういうことを結構な頻度で考えているような人間です。私ほどではないにしても、例えば横断歩道の白線だけを踏んで歩いて、黒い部分を踏んだら落ちる、という遊びとか、デパートの床の色が違うタイルだけを踏んで歩く遊びなんかを幼い頃にしていた方もいらっしゃるのではないでしょうか。私の感覚もそういうときの感覚に近いものなのではないかと勝手に思っています。
 「死」というものを常に意識して歩いている状態。桜が満開の松本城公園で、私はふいにそんな状態の「少年」が自分の中で話し始めたのを感じました。劇王のパンフレットのあらすじのように。

 ――見知らぬ少女のくれたドーナツには毒が入っている。踏切が下りれば電車に轢かれる。大通りを歩けば誰かに突き飛ばされる。すれ違う男は隠し持ったナイフで僕の腹を突き刺す。動物園から逃げ出したライオンは僕を喰い殺す。そうに決まってる。僕は死にたくないんだ。死なないためだけにここにいるんだ。

 こんなようなことを。
 そうして死を夢想する「少年」の前に、突然「君」が現れたときの松本城公園の光景を私は今でも覚えています。
 ああ、この少年は「死」に恋をしているんだ。
 そんなふうに思いました。

 まだこの脚本は上演する予定があるのであまり踏み込み過ぎたことは言えませんが、まあ概ねそんなことを考えて、この脚本は私が歩を進めるごとにだんだんと形になっていったわけです。
 その後の私は急いで松本のイオンモールのフードコートへ行って、今しがた思いついたばかりのアイディアを速攻でプロットに書き起こしました。まだいつかは決まっていないけれど、いずれどこかで上演か、寄稿かしてやろうと思いながら。

 劇王の脚本公募の知らせを見たのは、それから一ヶ月ほど後のことでした。ちょうど、劇作家協会の新人賞へ出す脚本の準備をしていた頃のことです。
 「へえ、こんなのがあるんだ。上演時間20分以内、出演者3人以内、数分で舞台転換可能……あっ、そういえば条件に合ういい感じのプロットがあるじゃん。ちょっと応募してみるか。開催地も地元だから親近感あるし。」くらいの、わりと軽い気持ちで応募を決めました。一ヶ月ほど暖めてあったプロットを引っ張り出して、脚本に起こして、応募をして。
 数か月後に選考に通った連絡が来たときは大変に驚いたものです。そろそろ寝ようと思っていたところにメールがやってきて、興奮のあまり眠れなくなった私は思わず実家の母に電話をしました。劇王に関する色々なことを私はちょっとあまりにも鮮明に覚えすぎだと思います。何かに選ばれるというのが初めての経験だったから当然と言えば当然かもしれませんが。嬉しかった。本当に嬉しかったんです。同時期に応募した新人賞の方は一次審査も通らなかったので猶更。実現可能かわからないまま出場の可否を聞かれて「出場します」と即答するくらいには、嬉しかったです。一人で見切り発車をするな。でもこの見切り発車癖がなければ私はゆめのあとを立ち上げることもなかったのでもう何でもいいです。

 でも、今回協力してくれた「創作ユニットしおり雪」の二人には相当な負担をかけてしまったなと、大感謝とともに申し訳なく思っています。思ってはいます。本当です。信じてください。県をまたぐ大移動なのであまり多くの人に関わっていただくのも難しい企画だったとはいえ、やっぱり大きな負担をかけてしまったのは事実ですので。しかも結果的に予選敗退ですからね。二人は「来てよかった」と言ってくださっているからまだ救いになるけれども。私はもう少し反省するべきです。いや、していないわけじゃないんです。もっと人を頼れるようになりたい、仕事を依頼できるようになりたいと思ってはいるんです。嘘じゃないです。信じてください。こればかりは本当に私の性格の悪い部分が全面に出ているので、今後改善したいと思います。

 Xで、「劇王に負けたことでショックを受けてその後上演しなくなる劇作家が何人もいる」というようなどなたかのポストを見かけましたが、少なくとも私はそうなる予定は一切ないです。それで辞めてるようなら私は新人賞の一次審査を通らなかった時点で劇作を辞めてます。学生時代にコンペで負けた時点で辞めてます。そんなわけない。勝ちたいからやってるんじゃないんです。作りたいから作ってるんです。誰かに、私と同じ思いをもつ人や、そんなことこれまで意識もしていなかった人の心に、届けたいから上演するんです。その思いが潰えない限り、私が劇作を辞めることはないでしょう。ですから、決して多くはなくても、私の作品に票を入れてくださった方々の想いを感謝と共に受け止めて、私はまた別の作品をこれからも作っていきます。
 少なくともしばらくの間は、ここ、松本で。よろしくお願いいたします。

 次のnoteは何を書くか未定です。でも、近いうちにまた思うところを書いていきたいと思います。旗揚げ公演のときのように、『君と死を夢む』のもっと深い話もしたいなと思います。次はそれになるかもしれないですね。
ではまた次の投稿でお会いしましょう。志月ゆかりでした。

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