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「tari shirt展 ~タリ族の衣文化~」 展示補助資料 #0 はじめに

はじめに

 今あなたはどんな服を着ているだろうか。なぜその服を選んだのだろうか。その服はどのように今そこにたどり着いたのだろうか。
 
 人類の衣服の起源は謎に包まれている。衣服の遺物は数千年前の繊維製品や毛皮のものが発見されているが、それ以前がどうだったのか、なかなか痕跡が残りにくい衣服の起源については不明なことが多く今も研究が続いている。
 
 しかしながら、この人類特有の「衣服」という文化にはなにか特別な、人間にとって重要な意味があるように思える。
 
 例えば毛皮。衣服としての毛皮は、およそ10万年前、大型獣狩猟と共に始まったとされている。毛皮を身に纏うことは、獲物を捕えたという強さの証や寒さから身を守るとともに、獣ひいては自然に対する畏怖の念があったのではないだろうか。捕獲した獲物の鎮魂と、その超人的な力を借りてさらなる一族の繁栄を祈ること。
 
 そこから人間は身近な動植物を用いて身体を守り、飾る衣服という文化を発展させていく。住んでいる土地の気候や自然条件と上手く折り合いをつけながら、生きるために、気分を上げるために、そして祈りや願いを込めて人は服を着てきた。
 
 時代は下り、現在の世界。人間は変わらず衣服を身に着けているが、その形や意味、価値は大きく変化し、また多様化している。簡単に衣服は手に入り、衣服に関する情報も溢れているがそれが当たり前となり、自分が衣服を着ることについて考える機会が減っているといえる。
 
 そんな時、これまでぼんやりと服が好きだと感じながら、なんとなくこだわりを持って服を選び、作り続けてきた人物タリは、自分が「タリ族」という現代に生きる少数民族を目指しており、衣服についても古代から受け継がれた文化をタリ族独自に引き継いで発展させているのだと気づいた。
 
 世間の流行やトレンド、ブランド名や有名人の着用等にほとんど興味がなく、しかし服に対する謎のこだわりと愛着を持ち続けてきたタリ。一貫性など皆無に見えた幼いころからのその衣文化には、太古からの人間の衣文化に通じる(とタリが感じている)ある独特の価値観や思いが垣間見える。本展では、最新作のtari shirtを中心に、タリの近年の衣服作品を展示し、そのようなタリ族の衣文化を体感してもらうことを狙いとしている。 
 
 それに伴い、本稿ではタリがタリ族という自覚を持った時期以前にまで遡り、これまでどのようにその衣文化を発展させてきたのかを見ていきたいと思う。本展をより楽しんで頂くための補助的資料としてご活用下されば幸いである。


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