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自然と共生する、タサール蚕とは?日本で唯一の野蚕ストアオーナーが解説。

タサールシルクについて。
タサール蚕は自然界と美しく共存する生き物で、その繭からは魅力的な絹繊維が得られます。この絹は人と良好な相性を持つタンパク質でできており、特別な機能性を持っています。それには、温度や湿度を保ったり放出したりする能力、細菌を抑制する静菌性、紫外線から保護する防紫外線性などが含まれます。また、その織物は独特の光沢を放ちます。この絹は、一般的な家蚕の絹よりも2から4倍太く、そのため触感が少し異なります。


野生の絹を扱う絹屋は日本でも私だけです。野生のシルクの魅力を語るメディアです。
今回は数万種といる蚕から【タサール蚕】からできる【タサールシルク】について解説します。

タサール蚕について

インド北東部に棲息

タサール蚕は東北インド方面に棲息するヤママユガ科の絹糸昆虫で、28種類(98種類の説あり)以上に分化した森林地帯(レイリー種等)や屋外(半家畜化---ダバ種)に育ち、沙羅双樹やアルジュナ等の広葉樹の葉を食性にする野蚕です。タサール蚕は兄弟ほどの近似種に日本の天蚕(グリーンの繭)中国の柞蚕(薄茶)があります。英語ではインドタッサー、ジャパンタッサー、チャイナタッサーと言われ、世間ではタッサー、インドシルクとも言われています。

自然の営み、生き残り術

虫たちは木の葉の匂いで自分が食べられるかどうかを識別していて、犬より遥かに繊細な匂い感知装置を備えています。タサール蚕は自分のいる木の葉が食べ尽くされると、夜半、匂いを頼りに、よく茂った木に集団移動するそうです。これは虫たちにとって大変危険な旅で、木の下には夜間活動するイノシシなどが待ち構えて補食します。
樹上にあっては野鳥の絶好の餌となってしまうので、虫は体色を葉の色と同じグリーンにして保身しています。繭を作る直前には虫の体がシルク蛋白で一杯になり、透き通ってきます。すると猿などの大好物となります。インドの夏は気温45℃ともなり食べる葉が枯れてしまうので、繭は枯葉と同じ色の保護色となり、防紫外線と食害防御、雑菌繁殖予防のため、繭の表面に石灰分を生成させ、青い葉から摂取したタンニン(色素)で焦げ茶色になります。日当たりの具合で各個体の濃淡が微妙に違ってきますが、種類によってはグレー、オレンジ色などの個体もあります。
タサール蚕は周囲の環境に上手に対応して、同じ親から生まれた蛹も、羽化する時期が個体ごとにバラバラになるように遺伝子が組まれているものがあります。
1年以上も休眠する個体があり、一斉に羽化して天変地変に遭遇して絶滅する危険を回避し、種の保存を図っていると思われます。

糸の特徴

タッサーの蚕繭

タサール蚕の繭は小さなアケビのような楕円形繭で、木の枝にへたを作りその先が繭になります。繭層の表面は白い粉状石灰が振り掛けられた状態で、非常に固く、ツルツルしていて鋭利な刃物でなくては切り開く事は出来ません。
繭糸の形状は家蚕のお握型(三角形)で繊維長が1500m(現代の繭の平均)、繊維の太さが1.5〜3.5デニールに対して、タサール蚕はやや扁平で、600m〜800m、6デニール〜12デニールもなる太い繊維です。デニールとは繊維の太さを表す単位で、9000メートルの繊維が1グラムの場合、その繊維のデニールは1となります。つまり、デニール数が大きいほど繊維は太く、強度が高いことを示します。
屑繭等はギッチャーと言われる力強い素朴な紬糸になり、黒いヘタもナッシーと呼ばれる黒こげ茶色の紬糸になります。
糸は家蚕やエリ蚕の糸より軽く、ややざらとして張りがあり、その生糸は強い光沢に満ちます。
多孔質繊維
太いと言っても、やっと目視出来る細い1本の糸の中に200前後の孔(ナノチューブ)があり、その孔の片側に繊毛が密生し、紫外線をエンドレスに吸収するように出来ています。
そのメカニズムは、恐らく糸が蛹の生存に不都合な紫外線領域の波長を吸収して、熱エネルギーを持つ波長の長い光と熱交換をして無害な波長に変換していると思われます。
陸上生物でこのような機能を持つものは他に見当たりません。そうであれば電磁波や放射能対策に役立つ大変な発見になるかもしれません、しかし現在このナノチューブを人工的に作る事はでは不可能です。
さらにさらに多孔質繊維は多孔質の中の空間が溜め池のように一定の温度や湿度を超えると保温放温、保湿放湿機能を果たす実に見事な繊維です。

美しいシャンパンゴールドの糸


タサール蚕の繭糸は、精練されると、その特性と外観が天蚕糸や柞蚕糸と非常に似ているため、区別がつきにくくなります。これらすべての糸は、繭から精練される過程で、自然の美しさと繊細さを保持しています。
天蚕糸は、その独特の緑色の繭から得られ、その繭は主に東アジアで見つけることができます。天蚕糸は、その美しい緑色とともに、非常に光沢のある繊維から知られています。
一方、柞蚕糸は、その名前が示すように、柞の葉を食べる蚕から得られます。その糸は少し粗く、色合いも天蚕糸や家蚕糸とは異なりますが、それでもその美しさと強度で高く評価されています。
これらの糸に似て、タサール蚕の繭糸もまた、その特性と外観が魅力的です。精練されたタサール蚕の繭糸は、家蚕の糸よりも少しシャリ感があり、糸が吐かれた際に形成される節が所々に見られます。この節が糸にワイルドな凹凸感を与え、ザラっとした感触を生み出します。
この糸の構造が当たる光を一層乱反射させ、さらに糸の中に入った視覚外の有害な紫外線を青光りのする視覚波長(無害)に変換します。そして、この光が糸に含まれるグレー褐色のタンニン(色素)に当たり、糸の外に放射されると、人の目には薄黄金色に輝いて見えます。
私はこの美しい色を「シャンパンゴールド」と名付けました。この色は、凛とした品格を持ち、染料を必要とせず、そのままでも美しい真珠の輝きに似ています。

黄変しない糸

絹糸が虫から吐き出されるとき、その構造は二重になっています。外側の部分は「セリシン」というタンパク質で、中心部は「フィブロイン」というタンパク質で形成されています。セリシンを取り除いたフィブロインが、生糸となります。ここで、「セリシン」は絹糸の保護膜を形成するタンパク質で、「フィブロイン」は絹糸の主要な成分であるタンパク質です。
ほとんどの色の繭は、セリシンに色素が含まれていますので、精錬すると白色の糸になります。しかし、タサール蚕の糸は例外で、フィブロインにも「タンニン」という色素が含まれています。タンニンは、自然界に広く存在する化合物で、植物の生育や防御に重要な役割を果たします。タサール蚕の糸に含まれるタンニンのおかげで、その糸は光に対する耐久性が高く、変色することがありません。

防紫外線性に優れた糸

タサール蚕の糸には、蚕が食べたから体内に蓄積されたタンニンが含まれています。タンニンはポリフェノールの一種で、抗酸化作用を持つ化合物です。このタンニンがシルクの蛋白質と強固に結合し、糸の多孔質構造と共に、紫外線から蛹を守る働きをしていると考えられています。

タサール蚕は、独特の特性を持つ美しい糸を生産する昆虫で、その生態系は自然との密接な関係を示しています。その糸は、粗さ、強度、色彩など独特の特性を持ち、特にその美しいシャンパンゴールド色が魅力的です。また、タサール蚕の糸には防紫外線性能が優れており、変色しない性質もあります。これらの特性は、蚕が食べた青い葉から体内に蓄積されたタンニンと、糸の多孔質構造によるものと考えられています。タサール蚕とその糸は、自然との共生関係を示す興味深い例示であり、その持続可能な利用は環境保全と経済発展を促進する可能性を秘めています。

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こちらのイベントです。

お越し下さい。


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