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なぜ?と問いかけることでみえてくる「素材」の話 Soy Sauce Cruet #2

こんにちは、松尾です。

突然ですが、みなさんは何かものを選ぶとき「素材」についてどれくらい気にかけていますか?

世の中には、プラスチック、金属、ガラス、コットン、紙など…実に多くの素材が存在しています。

松尾は、ショップとオフィスの兼任スタッフです。店頭にてお客様と直接お話しながら、noteでも様々な角度から商品についてお伝えしていきます。
趣味は美術館・建築巡り、カメラを持って散歩をすること。最近は料理にも興味が湧いています。
Twitter:https://twitter.com/THE_osamu3

THEのプロダクトにはそれぞれ、その素材を選んだ明確な理由があります。

今日お話しするTHE 醤油差しについても同じです。
醤油差しは一般的にソーダガラスでつくることが多いのですが、THE 醤油差しはクリスタルガラスでつくっています。

その理由とはなんでしょう。
今回はTHE 醤油差しに使われている素材、クリスタルガラスに着目していきます。

前回の『「醤油差し」の前に、まず“醤油”について勉強してみた話』はこちら


そもそもガラスにはどんな種類があるのか?

クリスタルガラスについてお話しする前に、まずはガラスにはどんな種類があるのかをみてみましょう。

一口にガラスと言ってもその用途と種類は様々。ビール瓶、窓ガラス、江戸切子・・・身の回りでは沢山のガラス製品を見かけますが、それぞれ目的に沿ったガラスが使われています。

ガラスの種類は組成により分類されていて、ざっくりと括ると3種類あります。


◾️ソーダ(石灰)ガラス
用途:コップ、窓ガラスなど
丈夫なので身の回りにある食器・瓶類、板ガラスに用いられており、最も流通しているガラス。


◾️ホウケイ酸ガラス
用途:耐熱食器など
熱膨張率を下げて、急激な温度変化を加えても割れないよう強化したガラス。


◾️クリスタルガラス
用途:ワイングラス、切子硝子など
高い透明度を有し、屈折率が高く、光沢のある美しい輝きに澄んだ音色が特長のガラス。


主にはこの3種類ですが、そのほかにも、一般的なフロート板ガラスに比べ3〜5倍程度の強度を持つ強化ガラスなど、ガラスの種類は多岐に渡ります。

私自身、ぱっと見で区別がつきにくいこともあり、ガラスの種類について気にかけてきませんでしたが、意識して周りを見渡してみると、様々な種類のガラスが使われていることに気がつきます。

身近なスマートフォンを例に挙げると、iPhone12のディスプレイ画面には「Ceramic Shield(セラミックシールド)」という、セラミッククリスタルを組み込んだとても頑丈なガラスが使用されていますし、私の使っているiPhone7には「ゴリラガラス」という商品名の強化ガラスが使われています。

このようにガラスにもいくつかの種類がある中で、THE 醤油差しはある課題を解決するためにクリスタルガラスを選びました。

ではその課題とは一体なんだったのでしょうか?


THEと呼べる醤油差しの条件と課題

私たちが醤油差しをつくるとき、まず初めにどんな醤油差しが定番と呼ぶのに相応しいか、様々な意見を出し合いました。
考え抜いた末、挙げられた条件はまず第一に、中身が見えること。
これはガラスであれば基本は解決できます。

そして、第二に液だれしないこと。

THE 醤油差しはこの二つをベースに、入れた醤油が美味しそうに見えるように、側面にはなんの装飾もつけない透明でシンプルなガラス製の醤油差しをつくろうと考えました。

しかし、この構想は持ち込んだ何社ものメーカーに「やりたくない」と断られてしまいます。

詳細は後述しますが、THEで求めていた条件に即した醤油差しをつくるためには、栓に細かい設計を施す必要があり、一般的に使われるソーダガラスでは細かい設計を再現することが難しいためでした。

そして栓に細かい設計を施すとなるとボトルだけでなく、栓まで含めて新しく型からつくる必要があり、とても手間とお金がかかります。

こうした理由から、一緒につくってくれるメーカーが中々見つからず、製作に入る前から大きな壁が立ちはだかっていました。


理想の醤油差しをつくろうとしたら、必然的にクリスタルガラスになった

そのような中で唯一、THE 醤油差しの案を聞いて「面白そうだからぜひチャレンジしたい」と応えてくれたのが、北洋硝子株式会社でした。
(北洋硝子は石塚硝子グループ・アデリアの子会社です)

ただし北洋硝子によると、透明でシンプルな形状と液だれしない構造を両立させるためには、栓やボトルの成型の精度が重要となるため、クリスタルガラスじゃなければつくれないという見解でした。

ガラスの種類で説明したように、クリスタルガラスは透明度が高いことが大きな特徴ですが、それに加えて、原料に金属酸化物が使われているため柔らかく加工がしやすいという性質を持っています。
そのため成型しやすく、栓に施された細かい設計を細部まで再現することが可能となります。

こうして、THE 醤油差しはクリスタルガラスを採用することになりました。


理想の醤油差しができたのはクリスタルガラスを使ったから、だけじゃない

しかし、クリスタルガラスを使ったからといって、簡単にTHE 醤油差しがつくれたわけではありません。

THEでつくりたい醤油差しは“ガラス製で液だれしない”ということに加え、注ぎ口にくちばしがないデザイン。
くちばしをなくすことは、この先10年、20年と長く愛されるような新しい定番といえる形をつくるため、THE 醤油差しをつくる上で譲れないポイントでした。

完成したくちばしのないTHE 醤油差しの栓がこちら。
栓に施されたV字の溝がポイントです。注ぐときに、表面張力によって醤油がこの溝に引きつけられるため液だれしないのです。

なんてことのない栓に見えるかもしれませんが、この形が完成するまでにかなりの時間を費やしました。

くちばしのない醤油差しをつくるということは北洋硝子にとっても新しい試み。
長年、クリスタルガラスで醤油差しをつくっていた職人の手にかかっても、数十パターンの試作を繰り返すことになります。

くちばしは、醤油を注ぐ際あらぬ方向から垂れてしまわないようにコントロールする役割のほか、栓の差し込み口(磨りガラスの部分)を研磨する際、回転させながら研磨するため、研磨機に固定するための役割もあったのです。

そのため、液だれせずスッと気持ちよく注げるよう溝の角度や深さを一から考えるだけでなく、うまく研磨ができるよう試行錯誤を繰り返し、ようやくできあがった形状でした。


なぜ?と問うことでみえてくるもの

THE 醤油差しはこうして、中身が見えて液だれしないシンプルな醤油差しを実現するために「クリスタルガラス」という素材でつくることになりました。

なぜこの素材を使うのか?

“なぜ”という問いかけをすることで、形状や機能との切っても切れない関係性や必然性がみえてきます。この問いを持って身の回りのものを改めてみてみると、面白い発見があるかもしれません。

さて、あと気になるのは、どうして液だれしないのかという部分。
本当に液だれしないの?と思っている方もいらっしゃるはず。 

次回はクリスタルガラスを使うことで可能となった、液だれしない仕組みについてお話しします。

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