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何者にもなれなかった人間の駄文7

 この1年弱の間に色々な場所に足を運んた事は、前回の駄文で綴った通りだが、撮った写真など整理する中で、もう一つ気付いた事がある。
 それは「夜ホテルで観るローカル番組が好きだ」という事だ。

『ほぼノープラン、その時その気分で動く』方針が基本の僕の一人旅ではあるが、さすがに行き場を無くして野宿まで決行する胆力までは持ち合わせていない。なので予め宿泊するホテルは当日の朝までに予約するようにしているのだが、その際一つだけ決めている事が、なるべく安いビジネスホテル(チェーン)に泊まるという事である。

 本音を言えば、せっかく旅に来たのだから、星5評価されている素晴らしい旅館やホテルに泊まってみたい気持ちもなくはない。けれども『ほぼノープラン、その時その気分で動く』以上、費やされる予算がどれほどになるか皆目検討がつかないのだ。
 寄り道でスイーツを食んだり、偶然通りがかった小さな博物館に立ち寄ったり、その街で一番眺望のいい場所へと足を運んだり……最終的に費やされた時間や予算も、一日が終わってみないとわからない(ゆえに出発前に貯金から多めに下ろして備えるのが恒例行事となっている)。なので、ホテルを予約する際には出来る限り廉価で泊まれるホテルを探すようにしている。
 本音を言えば、人生経験値を稼ぐ意味でも、一度くらいは背を伸ばして高級旅館なり5つ星のホテルなどにも泊まっておきたいとは思っている。しかし仮に泊まれたところで染み付いた僕の庶民精神からして、「はぇ~すっごい大きい」「こんなに至れり尽くせりのサービス、使い尽くさないと勿体ない」「部屋の内装がすごすぎて、少しでも長い時間起きてたい!」……なんて思いに駆られて、本来心身を休めるはずの場所が、かえって心休まらない、なんなら心躍る場所になってしまう(そして寝不足なり疲労が溜まる)未来が想像出来てしまう。だから基本このビジネスホテルを利用する方針が覆る事は、今後もほぼないだろう。知らんけど。

 個人的な感想になるが、ビジネスホテルのいいところは、やはり気兼ねなくくつろげる点だと思う。どのビジネスホテル(チェーン)も、瀟洒でなくとも程よく綺麗な内装にアメニティなどの行き届いたサービス……基本外で夕飯もお風呂も済ませてからチェックインする事が多いので、あとはベッドに飛び込んで寝るだけの僕からすれば、これだけでも十分豪華だと思えてしまう。
 また大体が全国展開しているチェーンが多いので、次旅行する場所の近くに以前泊まった事のあるホテル名を見つけると、「ああこのホテルなら、こういうサービスがあるな」とかイメージが浮かべやすくなるのもいい。とはいえ、ビジネスホテル業界も競合しているからか、サービス内容に多少の差異はあれど、『チェックイン→就寝→起床→チェックアウト(朝食は基本外なので)』が基本の僕からすれば、どのホテルも『程よく居心地良い』という点では代り映えはないかなと思っている。
 そんな中で、唯一僕が差別化出来るというか、「この土地に来たんだな」と実感出来るのが、冒頭にも挙げたホテル滞在中に点けているテレビでたまに流れてくる地元のローカル番組なのである。

 例えば新潟に行った時は、夕方から地元新潟のお店の特集や、新潟の名産品や地酒を使ったレシピを紹介している番組が流れた後に、アルビレックス新潟の応援番組が放映されていた。
 そのせいなのか、次の日新潟周辺を歩いてみると、至る所でアルビレックスの応援ポスターを見かけた上に、「アウェー応援の為、本日店休日」なる紙を貼ったお店にまで出くわしてしまった。僕はサッカーで特に推しているチームはないのだけど、近年の中国のサッカーリーグの様子を見ていると、地域に根差したチームって本当に素晴らしいなと思ってしまう。

 また一足早く夕方過ぎにチェックインした伊勢のホテルでは、夕方のニュース番組できちんと地元地域(ここでは三重県や愛知県)のニュースが紹介されていた。
 東京だと夕方のニュース番組は基本国政や国際問題の解説ばかりに費やされて、地方の小さなニュースなんて話題にならない限りほとんど取り上げられる事はない。なので地方のニュースが流れる時間帯は、結構見入ってしまう。
 それと、とあるテレビ局のデータ放送を付けて驚いたのが、近場の病院検索が出来るようになっていた事だろうか。もちろんネットに繋げる必要はあるのだけど、こういったサービスはもっと他の地域でも試みてもいいのではと思ってしまった。

 ああそうだ、個人的には福島に泊まった時に流れたヨークベニマルのCMがすごく印象に入っている。関東ではごくたまにセブン&アイグループのイメージCMしか流れないのだけど、福島では1回CMの時間が挟まれる度に、

「1、2、3! 1、2、3! ヨークベニマル1、2、3の市!」

 このフレーズが確実に1回は流れていた気がする。起床からチェックアウトするまで10回近く見かせたせいか、東京に戻って来てから一時期の間「セブンアンドアイホールディングス♪」のフレーズを聞く度に、「来るぞ、またあのフレーズが……!」と反射的に身構えてしまう身体になってしまった。
 こうした地方に泊まらなければ視聴出来ないようなローカルCMを拝められるのも、また旅の醍醐味の一つなのかもしれない。

 とにかく、東京から足を運んだ一庶民としては、その地域のテレビ局が作る地元に根差した番組が、とても新鮮に映ってしまうのだ。
 ローカル番組には、キー局の作る全国ネットを意識した番組と違った、どこかゆったりとした空気というか程よく緩い空気を感じられるのだ(制作陣の方はピリピリと真剣な想いで作っているのかもしれないけど……申し訳ない)。その空気が番組から伝わってくるから、自分もチャンネルを変える事なく緩い心地で番組を視続けられるんだと思う。
 幸い今はTVerを始めとした見逃し配信の普及で、自宅にいながら地方局制作の番組の多くが視聴出来るようになった。それでも自宅で観るのと、旅先のホテルのベッドの上で観るのとでは、充実感がすこぶる違う。

「ああ、自分は今この番組がリアルタイムで流れる土地にいるんだ」という遠くまで来たんだという、あの何物にも代えがたい到達感。

――あれ? ひょっとして、これこそが僕が旅を求めてしまう一番の理由なのでは?
 この文章を書き綴りながら、ふと思い至ってしまうのだった。

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