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狂気の競技

アーノルドシュワルツェネッガーをご存知だろうか。

俳優としてターミネーターシリーズを代表作に持ち、他にも実業家、政治家の顔もある。
しかし、彼はそもそも20世紀を代表するボディビルダーである。
ぼくにとってアーノルドの名言といえば「I'll be back」ではなく「筋肉がNOと叫んだら、私はYes!と答える」である。
史上最高のおっぱいはアーノルドだとする識者も少なくない。
ちなみに彼の名前の正式な発音は中山きんにくんにしかできないので真似しない方がいい。生命に効く。

ボディビルとは何なのか、これからその魅力をひと匙でも伝えたいと思う。

まずボディビルにどんなイメージを持っているだろうか。
筋肉、黒人、鶏胸肉とブロッコリー、掛け声、辺りだろうか。

れっきとしたスポーツなのでルールがあり採点基準に則って評価され当然妥当性のある勝敗が存在する。しかし細かいルールの話はここではいい。

ボディビルという競技はイカれている。
特に世界レベルのステージに立っている人間はマトモじゃない。
それこそが惹きつけられる魅力でもある。

現代社会におけるスポーツの意義のひとつに「健康」が挙げられると思う。
だがどうだろう、あの黒光りしたカラダから健康は想起しない。生命体として不自然だ。
狂気の男、合戸孝二は大会のために片目を失明した。
宇宙人と言われたキング、ロニーコールマンは現役時代のトレーニングで腰椎に負担を掛け過ぎて今は車椅子生活。
マッスル北村はボディビルのために命を落とした。
そういう世界である。

まず野生動物はトレーニングをしない。そもそも動物は楽をしたい。エサがあり命が脅かされない環境であれば牙は抜け落ち爪は丸くなる。鍛えることは人間の専売特許であるとも言える。

進化論としては『用不用説』つまりキリンは高い木の葉を食べようと首を伸ばしたから首が長いのではなく『自然選択説』そもそも身体的特徴の異なる個体がおり首が長い個体が生き延びたとする説が一般的である

筋肉をジムで大きくしていると思っているなら認識を改めて欲しい。肉体はトレーニングによって破壊され、それ以外の時間で成長するのだ。
つまり、トレーニングが大切なのは言わずもがな、食事睡眠などジムにいない時間の過ごし方が極めて重要である。生活の全てを捧げる必要がある。

あの生物としては無意味に肥大化させた肉体に注がれた情熱と垣間みえる狂気こそが醍醐味といえる。

そしてこれほど才能に左右される競技を他に知らない。
正直、努力は遺伝子に勝てない。
更に世界最高峰のオリンピアの舞台には薬物なしでは辿り着けない。
この薬物の存在もこの競技がメジャーになりきれない理由のひとつであり、グレーどころか真っ黒な側面である。
そして明らかにナチュラルではない人間が立ち並ぶオリンピアでさえ表向きはアンチドーピングを謳っている。
もはやドーピングはズルではない。そして薬を使ったからと言って楽して筋肉がつく訳ではない。ノーペインノーゲインの原則は崩れない。そしてゲインに相応しいだけのペインが伴う。人生を削って肉に替えている。

この競技は自分たちで経験できないことも特徴のひとつだ。
スポッチャにボディビルはない。
そもそも他者にカラダを魅せつけることが前提である。
たまに「ああなりたいの?」と聞かれる事がある。
愚問である。
狂気の競技、それがボディビルだ。

甲子園もよい、健康優良少年の汗と青春の舞台だもの。
友情・努力・勝利の健全なスポーツもいいが、たまには毒物を、ぜひ狂気の世界に片足を突っ込んでいただきたい。
あなたがNOと叫んだら、私はYes!と答える。

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