家電量販店と家電メーカー派遣スタッフの関係性について語る件
家電量販業界大手のビックカメラが、家電メーカーから派遣されている販売員の受け入れをやめて、自社従業員を販売員に転換していく方針を発表しました。
多くの方が経験されているとおり、ビックカメラのほかヤマダ電機・ヨドバシカメラ・エディオン等、大型家電量販店の店頭では、PanasonicやTOSHIBA・HITACHI・SHARP等と家電メーカーの法被を着た販売スタッフがニコニコと微笑んで来店客に声を掛けてきます。彼らこそが、家電メーカーから派遣された販売員ですね。テレビ・冷蔵庫・洗濯機…と売場ごとに数社のスタッフがスタンバイしていますので、フロアや館内全体ではかなりの人数に上ります。
そうしたメーカーからの派遣スタッフを、向こう5年ほどで撤廃するという発表でした。
私は常々、こうした販売スタッフ派遣について思うところがありましたので、以下の3つの観点から少し整理してみたいと思います。
① 家電量販店の狙い
大型家電量販店各社が家電メーカーにこうした販売スタッフ派遣を要請してきた背景には、家電商品が高機能化し過ぎて、或いは特徴別に分化し過ぎて、自社販売員だけでは消費者に説明しきれなくなってきたという点が大きいと思います。また、Dyson(ダイソン)や Haier(ハイアール)等、昭和世代には馴染みのなかった海外メーカーが参入し、家電量販店の取り扱うメーカーもアイテムも、昭和時代とは比較にならないくらいに増大したことも挙げられるでしょう。
商材の高機能化や細分化に加えて、インターネットの発達もあって消費者の目が肥えてしまい、より専門的な商品説明が求められるようになったことで、メーカーへのスタッフ要請に繋がったと思われます。
家電量販店側は限られた自社社員をレジや在庫管理や販売管理、その他の顧客サービスに回すことができ、商品説明に関する従業員研修は基礎的なレベルで済ませることができます。極論すれば、家電量販店は多くの家電メーカーにその商品展示スペースと消費者へのダイレクトPRの場を提供するイベンターのような役割になっています。幕張メッセのコミケ主催者にも似た存在にも見えてしまいます。
この状況が続くことで、家電量販店各社の自社従業員の中に『家電のプロ』が育成できず、『販売のプロ』と化しています。将来的には、冷蔵庫売場で消費者から問合せの声を掛けられても、『あ、メーカーさん呼んできますのでお待ちいただけますか?』とマンガみたいな展開も否定できません。
このような状況のなか、ビックカメラがメーカー派遣販売員を徐々に減らしていくという方針は、近視眼的には自社スタッフの増員や研修等の人件費増というコストを伴いますが、中長期的には『専門家としての自社スタッフ』という強みとなり、競合他社への差別化に繋がると確信した上での転換なのでしょう。
② 家電メーカーの損得
国内での構造的不況と闘い、ベテラン社員のリストラを繰り返さざるを得ない多くの家電メーカーにとって、家電量販店へのスタッフ派遣は人件費として大きな負担となっているはずです。その点では、今回のビックカメラの発表に胸をなでおろしているメーカーもあるかもしれません。ただし、メーカーがスタッフを派遣することで大きなメリットを受けてきた事実もあります。各メーカーともシーズン毎に肝煎りの新モデルを発表しますが、大型量販店とはいえ展示スペースには限りがありますので、そのどれを優位置に展示するかといった商談に於いては、『うちはスタッフ2名を常駐させ、お客様へのアピールと御社の売上げアップをお手伝いします!』と売り込むことで、他社を凌ぐ展示スペースを確保したいわけです。今回の『メーカー派遣縮小策』によって、メーカーの人件費負担は削減され喜ばしいことにも見えますが、別途なんらかの『販売奨励金』・『拡売協力金』等の積み増しを求められることとなり、結果的な販促コストは減らないのではないかと推察します。逆に、販売スタッフのリストラが発生し、雇用面でのマイナスが懸念されるのです。
③ 消費者のメリットとデメリット
消費者にとっての変化は、メーカー派遣スタッフをどう認識しているかによって大きく異なるかと思います。
こうした世間の経済の仕組みに疎い方や高齢者については、PanasonicやTOSHIBA・HITACHI・SHARP等の法被を見ても家電量販店の店員としか認識しておらず、誰彼構わず問合せてきます。極端な事例では、スマホコーナーで Softbankの法被を着た女性店員に docomoの料金説明を求める高齢夫婦もいらっしゃいます。
こうした層は、えてしてネット情報も持ち合わせていない為、偶々接客したメーカースタッフの薦めるままにそのメーカーの商品を購入する可能性も高く、それはそれでメーカーにとっても量販店にとっても消費者にとっても『三方よし』という好結果を生み出すことがあります。
一方で多くの消費者は、家電メーカーや商品名のロゴが入った法被を着ているのがメーカーのスタッフだと知っています。昨今、ネット通販での価格比較や購買が一般的となり、家電量販店店頭は現物のショールームと化している中で、ある程度狙いを決めた商品の詳細説明を聴く為にそのメーカーのスタッフを探す人もいます。
何気なく洗濯機を見ていた時に、偶々A社のスタッフに声を掛けられて一生懸命な商品説明を聴いてしまい、情にほだされてそのメーカーの洗濯機を買ってしまう人。あまりの強硬さに嫌気が差しそのメーカーに悪印象を持ってしまったが、そのスタッフから違うメーカーの洗濯機を買う気にもなれず、他の店に移ってしまう人。いろいろな人間模様が生まれます。
中には自社他社問わずに売れ筋商品を平等に説明し、結果的に他社商品が選ばれても笑顔でレジにご案内するメーカースタッフさんもいらっしゃいますが、お客様と店舗にとっては優秀な販売員でも、自社での評価・成績査定はどうなるんだろう?と心配したりもします。
いろいろ考察しましたが、販売スタッフ派遣についてそれぞれにメリットとデメリットがあり、今回のビックカメラの方針に他社が追随するかは何とも言えない状況です。
5年後の結果を楽しみにしたいものです。
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