Long Corridor〜(1)長い渡り廊下

 長い渡り廊下を渡っていた。校舎と図書館をつなぐ長い渡り廊下だ。

渡り廊下に延びるアユミの影は、卒業式があった2週間前より少し色濃く、長くなっていた。チャペルから漏れるパイプオルガンと、あたたかい日差しを背に、久しぶりに教室へ向かう。教室の扉を開けると今まで感じたことはなかった、少しすえた匂いがアユミの鼻腔をつつく。

教室ってくさかったんだ。でも、なんだかすでに懐かしい。アユミは、自分の机に座ってみた。そして、ふと、少し前にある机を眺めた。それは、アユミが授業中に何度となく眺めていた席だ。クラスでも目立たなかったアユミは、その机の彼と同じクラスメートだった2年間でかわした言葉は数えるほどだ。きっとアユミの秘めた想いの存在なんて、気がつきもしなかっただろう。

「優希くん・・・」

 大きな雲が窓から大きな影を落とす。校庭から響くホイッスルは、ずっとそこに留まらせていたい気持ちにさせた。教室で響いていた笑い声が、アユミの耳をくすぐる。

いけない、咲良(さくら)に怒られる!

とどまっていたい気持ちをしまいこんで、教室を眺めながらゆっくりと扉をしめた。自分自身の気持ちに別れを告げるように。今度、優希に会ったとしても、きっと今までの気持ちとは違う気がする。

アユミは学校を出て、咲良の待つ店へと向かった。

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